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私のいい人つれてこい

我が家はスナックを営んでおりました。
2年前に閉店しましたが、
40年近く続けてこられたのはすごいことだったと思います。

スナックといえば、当たり前かもしれませんが、カラオケで盛り上がります。
最初のうちは地方の歌手のような人も雇っていましたし、
ピアノを置いて、
お客さまに生演奏で歌ってもらったり、
わりと積極的に音楽を取り入れていました。

子どもの頃。それも4〜5才の、恋愛も何もわからない時のことです。
お店に遊びに行くと、
近所に住むおばちゃんやお客さんに
「ミーちゃん、アレしてよ」と、決まってリクエストされることがありました。

片手を上げて、手のひらを上に。
こんなふうに。

さらに「あめあめふれふれもっとふれ〜」と歌いながら

そうです。
当時ヒットしていた八代亜紀さんの曲。

『雨の慕情』

私が、この「あめあめふれふれ、もっとふれ〜」をやると、
大人たちは喜びました。
私はこれが嫌だったんですよね。
なんだか、一発芸をやらされているようで、
恥ずかしくて。
「どうしてこんなことをやらされるのだろう」
「どうして大人は私がこれをしたら盛り上がるのか」
今だったら、喜んでやりますけどね。
でも当時は嫌でした。断って、その場の空気が悪くなることも嫌で、しぶしぶやって落ち込んでおりました。

しかも、この曲の歌詞も謎でした。
「あめあめふれふれ、もっとふれ。私のいい人つれて来い」
どうやら沢山雨を降らせてほしいみたいです。
そして「私のいい人」を連れてこいと。
私のいい人、ってなんだ。
そして、お願いしてる様子なのに命令形です。
じゃあ、この手をひらひらさせながら唱えたら、雨も降るし、いい人も来る…のか?来ないのか。

幼少期は、このように
『雨の慕情』に関するすべてのことに「?」となっていたのですが、
月日は流れて高校生の時。
みんなで集まってお弁当を食べていると、なぜか八代亜紀さんの話題になりました。
そしたら、みんなできるんです。
「あめあめふれふれ、もっとふれ」の、あのお手振りを。
(あれ!?みんなできるの?みんなやってたの??)
どうやらみんな出来るようです。
テレビを見ながら積極的にやっていた人、
私のように大人にお願いされてやっていた人、
様々ですが、みんなできました。
もしかしたら…
当時の子どもにとって「ラジオ体操」ぐらい、国民的にできた振り付けかもしれません。
その場で盛り上がり、
みんなで片手にスプーンや箸をマイクがわりに持って、
「あめあめふれふれ、もっとふれ〜」をやりました。
楽しい。
あんなに嫌だったのに、みんなやってたと思ったら楽しい。今やると楽しい。やってて良かった!

その場の流れで、
歌詞の話になりました。
さすが女子高生です。あの頃ちっともわからなかった歌詞が少しだけわかるようになっています。
「たしか『膝が覚えてる』とか言ってたよ!」
「ひざ??膝が何を覚えてるの?」
「いい人を覚えてるんじゃない?」
「いい人を膝が?あのいい人って、どこか行っちゃってるよね。連れてこいって命令してるもんね」
「この曲、失恋ソングなんじゃない?」
「いや、失恋ソングであんなに元気に手を上下させるかね?」
「八代亜紀ってセクシーよね」
「うん。セクシー」
女子高生のうろ覚えの歌詞雑談会。

…で、改めて『雨の慕情』の歌詞です。

心が忘れたあのひとも
膝が重さを覚えてる
長い月日の膝まくら
煙草プカリとふかしてた
憎い 恋しい 憎い 恋しい
めぐりめぐって 今は恋しい
雨々ふれふれ もっとふれ
私のいい人つれて来い
雨々ふれふれ もっとふれ
私のいい人つれて来い

「雨の慕情」八代亜紀
作詞:阿久悠

震えましたよね。
失恋ソング、だなんて軽く言えないぐらい、
超弩級の失恋ソングでした。
「心が忘れたあの人」を膝が重さを覚えてるって、相当やってましたね、膝枕。
五感で忘れていないものは心でだって忘れてないです。ふと思い出す重みも香りも。
「憎い、恋しい」の繰り返しと、巡りめぐって「今は恋しい」って、もう恋しい以外ないじゃないですか。
とうとう、雨雨ふれふれ、もっとふれ、
いい人を連れてこいって。
命令してると思ってたけど、懇願してます。

あまりに悲しくて途方にくれました。
八代亜紀さんは今の私より、ずっとずっと若い頃にあんなにセクシーにあの曲を歌われていたんだなぁ。

子どもの頃は嫌だと思いながらやっていた、
「あめあめふれふれ、もっとふれ」は
今では良い思い出になりました。

「私のいい人つれてこい」

今、あらためて聴くと
寂しくて泣きそう。
外が雨だからかな。


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