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原田マハ『リーチ先生』集英社

バーナード・リーチについて知りたくて読んだ。スイスイと面白く読んでいたが、かなりフィクションが入っていることに途中で気がついて、やや興がそがれた。リーチ先生と長年行動を共にしたことになっている主人公がどうやら架空の人物らしいのだ。まぁそれでもそれ以外はきっと参考文献に基づいているのだろうからと思い直して読み終えた。

リーチは子どものときに日本に住んでいたため日本に愛着があって、美術学校を出てから何のあてもなく日本にふらりとやってきた。学校でエッチングを習ったので、それを日本で教えられるだろう、ぐらいの軽い気持ちだったようだ。その軽さ、いい加減さが面白い。その後もエッチング教室をがんばって続けるでもなく、妻を呼び寄せたのにがんばって仕事をして稼ぐのでもない。日本で白樺派などの知人を増やし、芸術論をかわすのを楽しむが、あるとき急に「中国に行く」と宣言して移住してしまう。ところがまた気が変わってすぐに日本に帰ってくる。

焼き物に夢中になって知人の世話で登り窯まで作ってもらうが、順調になってきたところで一家でイギリスに帰ってしまう。セント・アイヴズで芸術家村ができたのでそこで焼き物をするというのだが、現地に行ってみてから適した陶土があるかどうかを掘って探し始める…。ほんとうに計画性がないのだ。

読んでいて、ひょっとしてこれはイギリスの「ジェントルマン」の伝統なのかなとも思った。漱石流に言えば「高等遊民」か。気が向いたときに好きなことしかしない。好きなことで稼ごうとしない。稼ぐ必要があると本人がハナから思っていない。リーチのウィキペディアによると、晩年はバハイ教という宗教の信者になったらしいし、最後まで自由にふらふらしていた人みたいだ。

まぁそんな人であったが、彼のやさしい人柄は小説からなんとなく感じられた。また、今まで自分があまりいい印象を持っていなかった白樺派についても少しわかってきたのが収穫だった。架空の人物であるカメちゃんについては、中心人物なのにあまりに現実味が薄かったけど。(特にリーチについてイギリスに行ってからの話があまりに安易。)

わたしがなんでリーチに興味があったかというと、うちにリーチが作ったという小さい焼き物があるから。むかしロンドンのアンティーク・フェアで買ったものだ。わたしがこれを選んだら、店の主人が「リーチのものを日本人のあなたが日本に持って帰るのはいいことだ」と言いながらつつんでくれた。リーチがセント・アイヴズで暮らしていたころに近所の魚の干物屋のおやじさんにあげたものらしい、小さなオイル入れ。少なくともこの小説のリーチのイメージに合っている気がする。


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