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岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

著者を「ほか」としてしまったが、正確には岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美。この4人がある日、『罪と罰』を読まないで、それがどんな本か推理しようという変な企画を思いついた。そんなの無理でしょと思うけれど、これほど有名な小説だとまったく読まなくても、たとえば主人公はラスコーリニコフという名前だとか、ソーニャという女性が出るらしいとか、金貸しの老婆を殺す話だなど、何らかの情報が耳に入っているものだ。そこから想像を広げていく。でもやっぱり無理っぽい気がするが…。

お助けのための例外的ルールもある。まずは岸本が小説の最後の部分を英語版から訳したものを発表。また吉田浩美は以前にNHKの番組で15分程度のあらすじ(影絵)を見たことがある。そして、ときどきデタラメに決めたページを司会者に読んでもらうことができる。いよいよ困ったら登場人物のリストを見せてもらう。などなど。そうしてみんなで腕組みして推理するのだ。6部に分かれたこの大長編小説で殺人は第何部で起きるか。金貸しばあさん以外に殺される第2の人物とは誰なのか。ラスコは二人も殺したのになぜ死刑にならないのか…。

この4人の息が絶妙に合っている。三浦しをんがエネルギッシュに想像の筋を展開し、岸本佐知子がとぼけた合いの手を入れ、吉田カップルが心配そうに見守る。吉田浩美はときどき影絵情報を伝えるのだが、これがどうも記憶が怪しいようだ。長ったらしく覚えにくいロシア人の名前を工夫して覚える。「ウラズミーヒン」は「ヒン」だから「馬」と呼んだりして。

実はわたしも『罪と罰』を読んだことがない。最近、読んでみようかなぁと思い始めて、でも読了する自信がないので新品じゃなく古本で買おうかなどと迷っていたところだ。でもこの本を読んでなんだかもう読んだ気分になってしまった(そんなことがあっていいのか)。いや、この4人は最後にそれぞれがこの小説を読了し、また再会するのである。感想としては「面白かった!」ということらしい。やっぱりそうなのか、面白いのか…。

でもわたしとしては、この『「罪と罰」を読まない』を爆笑しながら、電車では声を抑えようとして抑えきれずに呻きながら、めっちゃくちゃ楽しんで読んだので、もうドストさんの方は読まなくていいような気がしてきた。そしてこういうバカな企画に全力で取り組むこの人たちって、なんて素敵なんだろうと思ったのだった。


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