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アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

クリスティの推理小説は安心して読める。間違いなく面白いし、不快な描写もないから。春のせわしない気分の合間に読むにはぴったり。それに大戦間期の作品が多いから、当時のイギリスの雰囲気がよく伝わるのも魅力なのだ。

翻訳は中村妙子さん。こちらも安心して読めるけれど、「~ですわ」「~しましてよ」などの女言葉がいまとなってはかなり古めかしい。ほかの翻訳者のものも読んでみようかな。田村隆一訳とかどんなだろう。

解説によれば、クリスティの推理小説の共通点のひとつに「若い恋人たちを見守る」というのがあるらしい。そんなところも人間的な温かさがあっていいと思う。そして今回は、最後に謎解きをしたあとで、「あなたはなぜ英語を流暢に話せるのに、ときどき下手に話すのか」と訊かれて、ポワロは「英語が下手だと相手は『英語も満足に話せないのか』と見下すから」と答える。大げさに外国人風な仕草をするのもそのため。ポワロが(フランス人ではなく)ベルギー人というのも、当時のイギリス人が彼を軽く見る理由なのだろうか。クリスティのそういう皮肉な視線も好きなのだ。


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