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村上春樹、柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう』スイッチパブリッシング

翻訳界においていまや重鎮となった二人がアメリカ文学の翻訳について語る本。村上春樹が作家としてデビューしたころ、柴田元幸は大学院生だったのだって。村上はどうやらアメリカの大学の創作学科出身の作家の作品がよほど嫌らしい。(村上の好きなカーヴァーもたしか創作学科だと思うが。)

以下、面白かったところをメモ。

・作品が多く、出来がまちまちの作家は、全作品を訳すのではなく、翻訳家が判断して作品を選んだ方がいい。

・名訳とは、独自の文体があり、その文体が必ずしも時代に属しておらず、もしかしたら原文にさえも属していないもの。(村上は「名訳は迷惑」とも言っている。)

・詩の翻訳。『アイスクリームの皇帝』は訳した柴田だけでなく絵を描いた画家も詩を読んでいたので二人の解釈がある。ほとんどの詩の場合、原文もなく、絵もなく、翻訳だけが活字であるので、読者が充分に鑑賞するのは無理なんじゃないか。

・短編集から二つ三つの作品を訳すのは簡単だが、1冊全部訳すのは骨が折れる。つまらないものもあるから。でもカーヴァ―やペイリーは1冊がまるごとの作品になっている。

・『東京奇譚集』の時、キーになる言葉を二十数個選んで、これとこれとこれで1篇を書く、というふうに決めた。

・村上が初めてワープロを使った現場を柴田は見ていた。キーボードをたたいて、「僕が森を歩いていたら熊が出てきて」と書き始めて、いきなり物語になっていたので驚いた。

・日本の短編は文芸誌的短編で、アメリカのは「創作科系」短編。両方ともそれぞれそれっぽくて、ちょっと辟易する。

・中国系、インド系女性作家の持つ神話的な世界がいい。大学の創作学科が力を持つ前の小説という感じ。

・村上の翻訳を柴田がチェックしたとき、liverや kidneyが間違っていた。数字も間違うらしい。翻訳で第三者のチェックは大事。

・翻訳の文章が実際の文章である必要はない。翻訳文体があってよい。


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