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青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

久しぶりにすごく楽しいエッセイ本を読んだ。内容は、本をめぐるあれこれ。具体的な作品名もあちこちに出る。後書きによると雑誌のコラムをまとめたものらしい。十数行ごとの短い文章が並び、間に数行の空白がある。短い断章がなんとなくつながっている感じだが、この空白がとてもいい効果を出していて、「そうだよねー」と思いながら、のんびりと読み進むことができた。

本を読むスピードの話。拾い読みの効用。ダイジェストとオリジナルの関係(そもそもオリジナルとは何か)。カバーをかける人、取る人。ひとつの作品との出会いの思い出。古本屋。ある文章を記憶していたつもりだったのに実は違っていた話。などなど。本好きならこういう話題で誰かとおしゃべりしたいもの。

音読か目読かの話が面白かった。シベリアに抑留されていたドイツ人と日本人が、読むものに飢えて、小さい新聞記事でも読みたがる。ドイツ人は誰かが音読し、それを聞くことで満足するのだが、日本人はどうしても目で読みたがり、そのため回覧された記事がすぐにボロボロになってしまう、という話だ。(日本語は漢字とかなまじりの様子を目で味わいたいのかも。ドイツ語は単に音がスペルになっているだけだから。)

文学作品にテーマやメッセージを求めることのつまらなさ。「読者はみな、それぞれに認識する。書いてあることを、それぞれのじぶんの光のなかで、受け止めたり、受け止め損なったりする。かくして、書いてあることの「意味」は、自分がどういう人間であるかということと密接にからまりあってくるのだ。そして、じぶんの心の変化や成長で、どんどん変わっていく。」まったくそのとおりだ。

尚、この人のお兄さんは詩人の長田弘らしい。知らなかった。

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