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田辺聖子『光源氏ものがたり』(上・下)角川文庫

いまなぜこれを? もちろん、大河ドラマの影響です(←ミーハー)。『源氏物語』なんて、学校で読んだ箇所ぐらいしか覚えていない。だからドラマを楽しく見られるようにと、必要なときに筋をチェックするために全訳ではなく要約のこの上下2冊を買っておいた。ときどき見るだけと思っていたのに、いったん読み始めるとあれよあれよとはまってしまった。まるで平安時代のお姫様みたいに、「次はどうなるの?」と巻紙(ページ)を繰る手が止まらなくなり、ついに上下とも読み切ってしまった。

実は『源氏物語』はさほど好きではなかった。何しろ光源氏が好色すぎるし、女たちが無力すぎる。去年、大塚ひかり『源氏の男はみんなサイテー』という画期的なタイトルの本を「そうだ、そうだ」と頷きながら斜め読みしたこともあった。しかし、どうやらこの物語には「サイテー」だけでは済まない魅力があるようだ。

ついつい読み進んでしまったのは、田辺聖子が目の前の女たちに「男って~ですわね」などと語りかける口調のせいだ。語りかけられるわたしも「ほんとうに。そうですわ…」などと王朝の女房のように頷いて聴いてしまうのである。そして後書きを読んで知ったのだが、これは実際の講演(36回)をまとめたものなのだ。毎回趣向を凝らした花が飾られたという、華やかな会場の雰囲気が伝わってくるようである。

それで『源氏物語』の感想なんですけど、いや、面白かったです。光源氏もただのサイテー男ではないようだ。田辺氏いわく、「匂宮などの男たちに比べて源氏は苦しむことを知っている」。たしかに。そして描かれる女たちも、みんながみんな受動的でただ泣いているだけではなく、それぞれ個性があって面白いのだ。50歳代なのにまだ色恋に積極的な女が出てきたり、早口のために優雅さに欠ける姫君がいたり(そこだけ大阪弁になっていて面白い)、実にヴァリエーション豊か。

常々わたしは光源氏が退場してからのいわゆる「宇治十帖」は余計な感じがしていたのだけれど、これも意外によかった。特に、最初はあまりぱっとしなかった平凡な女「浮船」が、苦しみながらしっかりした自己を持つようになるところがよい。そして長い長い物語のいよいよ最後の1行、薫の言葉が衝撃的だ。こういうセリフで終えるのか……。紫式部はやはりたいした作家のようだ。

というわけで、大河ドラマの方も楽しみ。日曜の夜はTVの前でうきうきとスタンバイするわたくしですのよ。


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