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落とし文が欲しい [落とし文シリーズ1]

「『落とし文』っていうのが欲しい!」
僕の好きなあの子が、さらさらボブの髪を揺らしながらそう言った。
落とし文…って…?何?
ハンカチ落とし的な?
輪になって誰かの後ろに文を落とす?
横で聞いていた僕が途方に暮れた顔をしている間に
後ろの席のアイツが自分のノートの端をちぎって
青いボールペンで何かを素早く書き込み、
丸めて彼女の足元にポイっと投げた。
彼女の顔がぱあっと輝き、その紙を急いで拾って開いてみる。
そしてさらに嬉しそうな顔になり、声に出して読み上げる。
「よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば すぎてけるかな。
一葉ね?樋口一葉」
アイツは得意そうにうなずく。
「まあ、あれだね、おれは男だけど、君の家の前を通るときはそんな気持ちだね」
きもっ。
僕は心の中で叫んだが、彼女はうっとりとしている。しまった。
「いっしょに帰らない?」
あいつがそう言ってカバンを持つと、彼女は「うん!」と元気よく答え、一緒に教室を出て行った。

ため息をつく僕に、
「はい」
と後ろから肩越しに一冊の本がやってくる。
「『ドラえもん短歌』?
なにこれ?」
僕は体をねじって本をよこした後ろの席の女子をみる。
彼女の眼鏡が黒縁のくせにキラーンと光る。
「これ読んで戦いな!貸してあげるから」
僕はその本をぱらっと開いてみる。
”自転車で君を家まで送ってた どこでもドアがなくてよかった”
ふうーん…
「ありがとう。読んでみる」
僕はその本をカバンにしまい、後ろの眼鏡女子に笑顔でお礼を言った。
眼鏡女子は頷きながら、ノートに何か書き込んだ。
きっと短歌を思いついたのだろう。
明日教えてもらおう。

*こんな文系の教室に住みたいです♡
 みなさんも一緒にどうですか?
*「落とし文」についてはこちら👇


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