見出し画像

続・アリスと私の日曜日 #あの記事の後日談

「アリスと私の日曜日」の後日談です。
虎吉さんの企画に参加します。

************

私は日曜日にシナモンロールを焼くたびに、ミルクティをうるさく所望したのに飲む前に消えてしまったアリスのことを思い出す。
あの後、うるさい帽子屋と二人でコーヒーを飲みながらシナモンロールを食べ、帽子屋の帽子談義など聞きながらそれなりに楽しい時間を過ごしたのだが、テーブルで冷めてしまったミルクティを見るたびに涙が出そうだった。
アリスはカップの絵に戻って澄ましている。私は時々声を掛けてみる。
「ねえアリス。また出てきてよ。ミルクティを入れるから。ね?」
なんの返事もない。
何回そんな日曜日が過ぎて行っただろう。
それでも私は繰り返す。
「ねえアリス?」

ある日曜の朝、ふいに私は思った。
スコーン、スコーンを焼いたらどうだろう?
それにジャムとクロテッドクリームを添えてミルクティを用意して、英国式クリームティの準備をするのだ。そうだ、どうして今まで気が付かなかったんだろう?
私は無塩カルピスバターを使ってスコーンの生地を作り冷蔵庫に寝かせ、冷蔵庫の奥のおいしい苺で作ったジャムを確認し、急いでクロテッドクリームを買いに出かけた。
私はクリームを買って帰ってくるとオーブンを予熱し、冷蔵庫から生地を取り出し、めん棒で伸ばして少し大きめの花型で抜く。
それを焼く間にテーブルを整え、茶器を揃え、紅茶の支度をする。
さりげなく、この前と同じようにアリスの絵柄のカップを同じ場所に置いてみる。
よし!

「ねえ、アリス。スコーンが焼けたわ。
ああ良い匂い!」
ついにアリスは返事をした!
「ああもう何度もうるさいったら。
スコーン?クロテッドクリームはあるんでしょうね?」
私の胸はどきどきする。
「もちろん!」
アリスはこの前のように私の前に座っていた。
私はいそいそと彼女の前に焼きたてのスコーンの皿を置く。
「どうぞ。お口にあえばいいんだけど」
「どうかしらね?」
つんと澄ましてアリスはいうけれど、鼻をくんくんさせている。
私はミルクティを注ぐ。
「召し上がれ」

こうして私はついにアリスと一緒に日曜日の午後に、お茶の時間を過ごすことが出来たのだった。
残ったスコーンをとっておきの、ウイリアム・モリスの『いちご泥棒』柄のペーパーナプキンで包んでアリスに渡した。
「ありがと。美味しかったわ」
そういってスコーンの包みと一緒にアリスは消えた。

(了)


*虎吉さんの企画に参加しました。
虎吉さん、良い機会をありがとうございます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?