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初めてのことを、してみる。|11|DJキャンプ

「母」をしている。最近聴いた音楽?子どもにせがまれてかけるジブリとかディズニーとか。でもね、昔は違ったんだよ。フジロックとかサマソニとか大好きなアーティスト追っかけてライブを飛び回ったりとかさ。音楽だって、好きな時に好きなだけ浸っていられた。なんなら一日中だって好きな曲をリピートで聴いていた。そんな自由な時は、もう戻ってこないのかなぁ。

と、そんな私(たち)に訪れた、夢のような一晩の話。SNSで、私がくるりの曲について書いたらコメント欄で思い出話が盛り上がって、みんなで好きな曲をかけまくって音楽を語るキャンプをしよう、って話がまとまって、実現。名付けて「(アラフォー 笑)DJキャンプ」!

持ち物はBluetoothでつなぐステレオとノートパソコンとWifiルーター、各々の携帯、2ルームのテントと寝具、食料、お酒。もちろん愛する子どもたちももれなく一緒。私はデイキャンプのガイドからの流れでテントを張って現地で待っていた。15時頃に一番乗りでMちゃんがやってきた。我が家の二人の子どもたちとMちゃんの二人の息子たちは虫取り等に没頭している。じゃあルーターにつないでみるか!と、試したところ、なんという悲劇…山の中ではルーターの電波が一本も立たない。チーン…。気を取り直してMちゃんの携帯で音楽をつなぐ。早速かかる、最近ハマっているというジェニーハイ。ピアノの美しい旋律をベースにそれぞれの楽器がくるくる表情を変えて展開していく。あとは水曜のカンパネラ、やくしまるえつことか。Mちゃんはクールに見えて心の中はポップで乙女。遊び心はスパイスではなく主食のような人。YMOは彼女曰く「平和の象徴」と。同い年で共通の話題、UA、椎名林檎などについて語る。椎名林檎のナンバーワンソング、私は「月に負け犬」かな、あれ私のことだから。Mちゃんは東京事変「透明人間」出して来た、あぁなんと名曲ばかり。しかし林檎ちゃんは年取ってどんどん綺麗になるってどういうことだ。カメラ撮影の仕事を終えたHちゃん合流。「今夜はブギーバッグ」は、昔はおしゃれな人はみんな好きぽいから聴いた風にしてたよね。サカナクションは青春期でなく聴いても震えたね。Hちゃんは「音と音の間を音が埋め尽くしているような音楽が好き」と、それが自分そのものと。筋肉少女帯とか私は通ってこなかった未知の音楽たちや、「声も顔もセンスも何もかもがど真ん中で好み」という私も大好きなAIRなど。Hちゃんは好きなものを全身全霊で好きになれる人で深め方も半端でない。好きな人・ものはその周辺のこともすべて知りたくなるんだって、へぇえ。Mちゃんが「Hちゃんは年代物の醸造酒みたいな人」と名言したけどそんな深さと旨みがじわじわ滲む。さて、夕飯はそこそこにして(ここがポイント!今回はがんばらないキャンプ飯)子どもたちはトマトクリームペンネ、大人はHちゃん作のスパイシーなスープカレーを食べて、周りが暗くなっていく。ランタンのオレンジ。スキレットのアップルパイが食べたくて火おこしに没頭するキッズ。しんしんと濃さを増す闇。夕飯を食べ終わった頃、日勤後に高速を飛ばしてきたRちゃんが合流してメンツが全員そろった。アラフォーというか40過ぎの女たち4名、2〜8歳の子どもたち7名。キッズは二つのテントに分かれて一人二人と寝始めた。私たちはテントのリビングスペースに食べ物や飲み物を無造作に置いて(これまたポイント、片付けはほぼしないという暗黙の作戦)音楽をかけて、語る。Rちゃんのリストには斎藤和義とか昔のもあるけれど、最近聴いてよかったお気に入り〜とNulbarichとか新しめのも出してくる。クラシックで子どもを寝かしつけ、昔のファンクミュージックも聴くヨギーニRちゃん。元々は体が弱かったそうで、それ故か心身をきちんとケアしている人が出す健康なオーラがある。感性が子どものように健やかなミニマリスト。で私の音楽はというと、レイハラカミ、高木正勝など空気を音にする人たちや、心の青春ナンバーガール、バラードが悶絶するほど好きなEgo-Wrappin'、生涯の伴侶ミュージックSpangle call lilli Line、そして今また再燃しているアジカンなど。ジャンルもいろいろ、なんていったら良いんだろう。(Hちゃん曰く、「Fちゃん(私のこと)は綺麗な音楽が好きなんだね」と。あぁそうとも言えるかな)しかし私は、照れながら言うと、ゴッチ(Asian Kung-fu Generationのボーカル)が歌う人間愛の大ファンなのだ。音楽に乗せて歌おうとしているモチーフ、姿勢、表現すべてに愛があふれている、と思っている。以前、中国によるチベットの弾圧に自分のことのように傷ついていたときがあって、デモに行ったりもしたし、その時にゴッチに長い手紙も書いたりもした。敬語でこそあれ「ねぇゴッチ、この世界は大変にしんどいね。無視できないときはどうしたらいいんだろう?」とそんな気持ちで話しかけていた。遠い人だけど、同志のような、そんな大切な存在。

話は戻ってDJキャンプ。話題は、音楽と切っても切り離せない過去の恋愛の話や、自分を構成しているものの話。子育ての話題や誰かの噂話や地元のネタなんかは一切なし。純粋に音楽を語り、そこからのインスピレーションで紡がれていく自分の話。山の夜はしんしん冷えて深まっていく。過去と現在を行ったり来たりしながら。笑いと語りと傾聴を重ねながら。

翌朝は子どもたちが遊びまわっている声で目が覚めた。子どもたちにせがまれてのそのそと火を焚いて、朝食のパンを炙る。Rちゃん作の小豆から煮たという熱々のぜんざいは、五臓六腑のすみずみにまで染み渡った。朝日のあふれるキャンプ場でみんなで聴いたハナレグミは、間違いなく過去最高に素敵だった。なんて素晴らしい朝か!キッズが焚き火でフランクフルトやマシュマロを焼くことに夢中になっているのを横目に、コーヒーを淹れたり野草茶を飲んだりしながら、各々がまた夜のときの席について、だらだらと音楽や子どもやいろんな話に花が咲く。くるりのベストがBGMに流れ、その曲にまつわる過去のストーリーにこの幸せな時を上書きしていく。

嬉しかった瞬間のことを書く。その夜に、なんのはずみだったか、「結局、どれだけ心が動いたかだよね」という私のつぶやきに、正面に座っていた二人が無言でガッシリと頷いてくれたことだ。目が深く頷いていた。「そりゃ当たり前でしょ!そうやって生きてる」と言っていた。すごいな、音楽を語ることに熱量を注ぐ人たちは、絶対にそこを共有している。なんだか嬉しかった。いい大人になってから、「人はみんな違うから」という言い訳で飲み込んだ、分かり合えなくて当然という諦めのような孤独。でも多分、私たちは音楽を通じて一瞬でも完璧に一つになれる。音楽に夢中になりさえすれば。そこで起こる感情になりきれれば。そして野外フェスやライブの魅力はその点にあるんだろう。今回のキャンプの余韻がそれに似ているのもきっとそういう理由。あぁこれはやみつきになる。

次は春のDJキャンプだ、秋とは違う心踊るウキウキのセットリストを用意しよう。また春の楽しい記憶と音楽の心震える思い出が、上書きされるに違いない。

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