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仙人の予言

このあいだ、四歳の娘、沙織がオジー(わたしの父)のハゲ頭を見て、「オジーも大きくなれば、髪の毛伸びるよー」とハゲましていたのを聞いて大笑いした。
そういえばオジーが昔、こんな話をしていたなあ。

ン十年前。学生時代。
夏のある夜、友人と花火大会に出かけた。会場への道々をにぎわす屋台をあちこちのぞきながら歩いていたら、
「そこの青年、こっちに来なさい」
仙人のようなヒゲを生やした老人が手招きしている。
オレンジ色の街灯の下、道端にゴザを広げて、小間物を売っている。
近づくと「あなたは将来、必ずハゲる」
「えっ」
「でも、これを毎日使えば大丈夫だ」
差し出された手には、竹製の櫛(くし)。
父親はハゲている。遺伝したらやだなあ、と、かねがね思っていた。
仙人の言うことは信じるべし。
購入して、使い始めた。
毎日朝晩、頭皮を刺激した。

ン十年後。
鏡に映るのは、見事なハゲ頭。顔まで父親に似てきた。
仙人の予言は、当たったのか、外れたのか。

オジーは、くだんの櫛を手に、未だに首を傾げている。

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