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【前編】井出信孝×濵島広平 MINAMOTO誕生までと原型師の「今」

原型師に更なる光を。
その声の下に立ち上がったプロジェクト、 MINAMOTO

MINAMOTOプロジェクトの中心に立つ、一般社団法人コネクテッド・インク・ビレッジ代表理事 井出信孝氏と株式会社イクリエ代表取締役・濵島広平氏の対談をレポート。

前後編でお届けする特別対談レポートの前編は「MINAMOTOプロジェクトがどのようにして生まれたのか」 そして、「原型師の現状」についてお二人にお話を伺っていきたい。

井出氏(左)濵島氏(右)

MINAMOTO誕生とコネクテッド・インク・ビレッジ

――どのようにしてMINAMOTOというプロジェクトが立ち上がったのでしょうか?

濵島氏
MINAMOTOが立ち上がったきっかけは僕と井出さんの出会いでしたが、このようなプロジェクトを立ち上げ ようと思ったきっかけは、実は僕がフィギュアの原型を制作する上での経験からでした。

――どのような経験かは追ってお伺いするとして、井出さんは濵島さんのお話を聞く以前から、フィギュア業界のクリエイターの現状や課題についてご存じでしたか?

井出氏
原型師という職業はもちろん知っていましたが、現在のフィギュア業界や原型師さんの周りで何が起こっているかはMINAMOTOを通じて初めて知りました。
コネクテッド・インク・ビレッジでは、人間表現の深みを追求することで、光の当たりにくい場所での創作活動や、アーティストの皆さん、さらに、それらに携わる人々に改めて着目し、光の当たる機会を作っていきたいと考えていました。濵島さんのお話を聞いて「まさにコネクテッド・インク・ビレッジで取り組む案件ってこういうものだよね!」と直感しました。


イクリエ・濵島氏が感じたフィギュア業界の課題

――なるほど。それでは先ほど冒頭でも上がった、濵島さんの「経験」について伺ってもよろしいですか?

濵島氏
とあるフィギュア関係のイベントに僕が参加するようになってから課題感を持つようになりました。

10年ほど前、僕は3Dプリンターを使ったフィギュア制作に可能性を抱きつつ「3Dデータと3Dプリンターが扱えればどうにかできるだろう」と軽く考えていました。けれども、実際にフィギュア制作に関わってみると自分が全くフィギュア制作の知識を持っていないと気づいたのです。仕事相手に迷惑をかけないためにも、きちんと知識を身につけなくてはならない。最初はそのような思いから実際にフィギュアを制作して広くまわりに見てもらう目的でイベントに参加してみました。ただ、いざ実際に参加してみると「参加するハードルが高い」と感じることがいくつかありました。

――コミュニティの輪がすでに完成しているような?

濵島氏
そうです。上手い人のところにはすぐに列ができるけれど、初心者はなかなか注目されない。ブース間のコミュニケーションもそこまで活発ではないと個人的には思いました。フィギュア業界を目指したいと考える クリエイターにとっていろいろなハードルが高いと感じました。

現在の環境では原型師を増やすのは大変ですし、クリエイターが育つ土壌が少ないです。このままクリエイターが育たなければいずれ作り手がいなくなってしまいます。この現状を改善しなければなりません。 そしてこの現状を改善するためには、まずは立体創作そのものをもっと多くの人に知ってもらう必要がある。このような課題感をずっと抱えていました。

それから井出さんと出会い、当時はまだMINAMOTOという言葉すらなかったのですが「何かやりましょう」と話したのが本当に最初のスタートでした。

井出氏
(お互いの思いが)「スパークした!」って感じですね。

理想のフィギュア業界とは?

――お二人の思いが「スパーク」してMINAMOTOは生まれたのですね。それでは、濵島さんにお伺いします。クリエイター目線では、今後目指していくべき「理想のフィギュア業界」とはどのようなものだとお考えですか?

濱島氏
まずはこの業界を目指しているクリエイターたちが「フィギュア制作をやっていてよかった」と思える環境になってほしいです。

比較するものではないですが、極論を言えばイラストレーターはペンと紙があれば創作を始められます。一方、原型師はスタートラインに立つのが少し大変です。まずは粘土造形や彫刻から始めたとして、基本的な技術をある程度習得するまでに結構な時間と練習が必要です。そのうち無意識に挫折して諦めていく人が多いと思います。最終的に残った人たちが今、個人で創作活動をされている方や、専門学校や美大に通って立体造形をしている人たち。さらにそこから「(フィギュア制作で)飯を食っていこう」と考えれば、よりスキルアップしていかなければ成立しない現状があります。

自分の経験や技術に対して「果たしてこれで飯が食えるのだろうか」と不安に思いながら活動している人たちに「(フィギュア制作に)関わってよかった」と思ってもらえるような環境にしたいと思います。

――フィギュア業界のクリエイターさんたちにもっと仕事が行き渡ればよいということですか?

濱島氏
ただお金を稼げればよいのかというと、一概にそうだとは言えません。クリエイターごとに何のために創作活動をしているかは異なりますから。僕としては、フィギュア制作がより自由にできる環境が必要だろうと考えています。

立体創作を始めるきっかけとして、好きなキャラクターを真似ることがモチベーションとなることがあると思いますし、作った作品を気軽に見せる場が多くなっていけば作品を誰かに見せることでアドバイスや評価を貰い「次はもっと頑張ろう」と創作意欲が繋がっていくと思います。なので、そのような場と、より自由に創作ができる環境を整えていきたいです。フィギュア業界にとっても「立体創作をやってみよう」と思える人を増やすことがまず重要です。そのためには様々な可能性を示していけるとよいと思います。

ほかに、原型師という仕事の認知度が上がってほしいという思いもあります。よく「原型師や造形師ってどんな仕事?」と聞かれます。「フィギュアを作っている人ですよ」と返せば「フィギュアって言葉は聞きますが、ガチャガチャとかプラモデルのことですか?」と続く。やはりまだまだ原型師の認知度を上げる必要があると感じています。

――なるほど。「自由に創作できる場」と「職業としての認知度」ですね。

濱島氏
そうですね。



前編はここまで。
次回は実際にプロジェクトが動き出し、お二人が感じたことを中心に語っていただく。

次回もお楽しみに!

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