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リスクをかけて経験値をあげろ

私は25歳でバックパッカーとしてタイに渡ったことをきっかけに

今日までに約50回のタイ渡航をしてきました。

1回の滞在期間は15日前後。最長滞在期間は約1年間。


この約50回のタイ渡航の中で、

数多くの【奇々怪々な事件】に遭遇してきました。

今日はその中の一つの出来事について書こうと思います。


私はタイに行くと自身が運営するネットショップで販売する雑貨や衣料の買い付けの為、

バンコク中を駆け回ります。

といっても、滞在期間中はできるだけ遊んで過ごしたいので、

主な仕入れはだいたい2日間で終わらせるようにしている。

その代わりこの2日間は腰が砕けるほどハードになります。

仕入れ取引先がバンコク中に点在している為、朝から晩まで常に猛ダッシュ。

時には10キロ以上の大きな荷物を抱えたまま東西南北駆け回ります。

2日間のハードな仕入れを終え、ヘトヘトになっていたある日の夕刻。
現地時刻で確か18時半頃でした。

私は、大型ファッションモールのエントランス前で休憩をしていた。

何気なく視線を送った約10メートル程離れた場所には、

細身で小柄な黒人女性が一人佇んでいました。

彼女は、携帯を見つめながら何やら思い悩んだ暗い表情で

深い溜息を一つ。また一つ。

そして、今にも泣きだしそうな震えた声で「oh my god...oh my .. god...」と連発していた。

今彼女にどんな困難が降りかかっているだろうか、

一体何が起きているのだろうか。

なんだかとても気になってしまった私は、

ばれないように、チラチラとその女性の動向をチェックすることにした。

携帯を見るフリをして、チラッ。

時計を見る風な感じで、チラッ。

背伸びをしながら、チラッ。

相変わらず暗い表情で、ブツブツと何か独り言を言っている。


しばらくすると、突然彼女がキョロキョロと周囲を見渡し始めたため、

チラっとした時にタイミング良く目が合ってしまった。


見られていることに気づいた彼女は、

まるでサバンナの肉食獣が獲物を見つけたかのように、

鋭く睨みつけてきました。

そのあまりの迫力と、気まずさで私の体は完全にフリーズしてしまいました。


ピンと張りつめた微妙な空気の中、彼女はゆっくりとこちらに近づいてきた。

ジリジリと、こちらの出方をうかがうように、


鋭い眼光は決して私を逃さずに、彼女はどんどん近づいてきます。


そして、私との距離1メートルのところでピタリと立ち止まり

彼女は口を開きました。


「Can you speak English??」 

彼女の声は少し震えていました。


私の英語は決してペラペライングリッシュとは言えないが

交友関係を増やす為に、この質問には必ず「yes」と答えると決めていた。

「yes」と答えると、彼女は少し安堵の表情を浮かべ

自分の身に何が起きたかと語り始めた。

要するにこういうことだ。 


今日一日ショッピングやら何やらしていて、お金を使い果たしてしまい、 
ホテルに帰る前に、銀行でお金を引き出すつもりが、

銀行はすでに閉まっており、一文無しで帰れないと。

オマケにケイタイの充電が切れてしまったらしい。oh my god.

私は状況を把握し、まずは自分ができることを模索した結果、携帯を貸すことにした。


すると彼女は、先ほどの鋭さが嘘のような弱々しく潤んだ瞳で宙を見つめながら

誰かに電話をしているようだった。

聞きなれない言語が興味をそそる。

結局、電話では解決をしなかったようで、曇ったままの彼女に携帯を返してもらい、

私は、何人かの友人に電話をし、まだ空いてる銀行があるかどうか
聞くが、脈絡は無し。

それを伝えると

彼女はウルウルと潤った大きな瞳を尖らせて私を見つめている。

気まずい微妙なムードが二人を覆う。

ため息をつき落ち込む彼女を前に、

まずは、自己紹介。 私の名前、日本から来たことなどを伝えると、

彼女も泣きそうになりながら自己紹介をしてくれた。

彼女の名前はエリザベス、通称リズ。

エチオピアから来たようでした。

私はリズに聞いてみました。

 
「何か私にできることはある??」

するとリズは言いました。

「お金を貸してほしい。」

なるほど。そう来ましたか。

海外で見ず知らずの人にお金貸して欲しいと言われました。

これって【詐欺】!?

王道的なやり口なんじゃない??お金貸してほしいって。

でも本当に困ってるなら助けてあげなきゃだけど、

子供のころ知らない人にお金貸しちゃだめって言われた気がするし、

初めてタイに来た時に、同じようなやり口で信用して拉致されちゃったし(別のnoteに書きます。)


そもそも、エチオピアってどこだし。


でもここでリズを信じてみることで

何か物凄いことが起きるのではないか。

今はまだ見えていないものに出会えるのではないか。


ということで、リズを信じてお金貸すことにしました。

「リズ、いいよ。お金貸すよ。」


するとリズは笑顔になり、こう切り出した

「パスポート預けようか?」 

そう言って、バッグからパスポートを出し、
私に差し出してきた。


この時までどこにあるかも知らなかったエチオピアという国から来た

見ず知らずの女性に、そこそこの大金を貸すという事には

かなり大きなリスクがある。

そこで彼女はそのリスクを軽減させようとしてパスポートを私に預けようとしている。

これはかなり正統なやり方だろう。

もし海外で見ず知らずの人にお金を貸すというマニュアルがあったら、

恐らくパスポートを預かるというのは最重要項目になっているはずだ。

しかし、この時の私はパスポートを預かるという事に必要性を感じられなかった。

なぜなら得られる経験値、刺激が減ってしまうからだ。

見ず知らずの人を信じるというリスキーな行為に、どれだけの経験値が隠れているか。

私はそれを考えずにはいられなかった。

何としてでもそこにあるリスクは温存しておきたい。

その一心でリズのバッグにパスポートを捻じ込み戻した。


そして、これからどうするかを話し合った。

リズは、自分のホテルには戻らずに、

どこか近くで一泊できるところを探してほしいと。

謎だし、怪しいし、まったく意味が分からなかったが、

タイの友達に電話をして、周辺に一晩予約取れるところはないかと聞いてみた。
しかし、誰に聞いても応えはノー。

 
それならと、自分の住んでるアパートに空き部屋がないか聞いてみた。

すると残り1部屋空きがありました。

時間も遅くなって来てるので、他の宿泊先を見つけるのは困難と思い

アパートの空き部屋を抑え、リズを連れて帰路に着くことにした。


私たちが居たバイヨークという場所から、私のアパートまでは、

まず最寄りの駅まで約20分歩き、

電車を乗り継いで約30分。合計約50分の道のりです。


ということで、まずはリズと二人最寄りの駅に向かいました。

微妙な空気の中、なんとか会話をしながら 
約20分歩くと、駅が見えてきました。

すると突然、リズは立ち止まってしまった。

「どうしたの?」私はリズに聞いた。

するとリズは返す

「電車に乗るの?」

私は答えた

「電車に乗らないとアパートに行けないから(持ち金を全部貸さなきゃだからタクシー乗れないしね💦)電車に乗るんだよ。」

リズは小さく頷くと、何か腑に落ちなそうな表情を浮かべた。

その時からリズの様子がおかしくなってきた。 

駅が近づくごとに、歩く速度が落ち、

キョロキョロキョドキョドと挙動不審な行動をし出した。


完全に怪しい。


たまらず、私はリズに聞いた。

「リズ、どうしたの?大丈夫?」


リズはうつむきながら答えた

「電車に乗ったことが無いから怖いの。」


答えの意味が理解できず、私は質問を重ねた

「タイで電車乗るのが初めてなの?」 

リズは声を荒げて続けた

「いいえ、生まれてから初めてなの!!」


「え!?」

私は驚きを隠せなかった。

私が住む日本では、電車に乗ることは日常的なことで恐怖など感じたことはありませんでした。

初めて電車に乗るエチオピア人と一緒に、電車に乗る。

今までに無い経験でした。


緊張して手が震えるリズに切符の買い方を教え、

改札の抜け方の見本を見せ、初めて改札を抜けたリズと共に喜びを分かち合った。

電車を待つホームの上でも、リズは子供のように大きな目をまんまるくし、

見るもの全てに感動をしているようでした。


電車に乗ってからも、興奮を抑えられない様子のリズを見ながら、

私は羨ましささえ感じていました。


色々なものが当たり前に存在する日本で育った私は、

いつしかその刺激に慣れ、

今あるものに感動することができなくなっていた。


リズは、大切なことを思い出させてくれました。


さて、アパートに着き、お金を貸して、リズがチェックインを済ませると 
ちょうど夕食時だったので、リズを誘って近所の食堂へ行くことにしました。

エチオピアのことをたくさん教えてもらってイイ勉強になりました。

食事を終え、アパートのエントランスで

明朝10時に私の部屋で待ち合わせをし、一緒に銀行まで行き、全額返済をして貰うという約束し、解散。

一緒に食事をしてみてリズは優しい人という印象だった。

人を騙すような人間には決して見えなかった。
しかし、そういう印象の人間に限って、実は、、みたいな話もよく聞くことではある。

朝10時に部屋に来るか、
それとも、そのまま消えてしまうのか。

 
それとも、もっと派手な展開があるか?
ドキドキ、ワクワクしながら眠りに落ちた。

翌朝、8時過ぎに目が覚めた私は、

朝食を取り、シャワーを浴び、仕事をしながら運命の10時を待つ。

9時、9時半、そわそわしてしまい仕事が手につかなくなってきた。

 
9時45分、9時55分。このくらいからはもういても立ってもいらないドキドキが襲う。

そして時計の針が10時を回る。


部屋の外で流れるジャズミュージックが静かに響く。


「まさか・・・。」

「信じてたのに・・・。」


諦めかけてたその時、

「コンコンコン、コンコンコンコンコンコン」

あまり聞いたことのないアフリカンなリズムで部屋のドアがノックされた。

ドアを開けるとそこにはリズが立っていた。

嬉しくなった私は思わずリズを抱きしめてしまった笑。


そのあと、リズを連れて銀行に向かい、
無事に全額返金してもらい、友達が一人増えました。


人を信じるということに、リスクがあるのは当たり前のこと、 
人を助けることにリスクをかけるということは当たり前のこと。


私のちょぴっとひん曲がった考えが一つ正統化された出来事でした。


おしまい

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