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【歌舞伎鳩】怪談 牡丹燈籠(坂東玉三郎特別公演)

坂東玉三郎特別公演 片岡愛之助出演
2023年8月3日(木)~27日(日)
南座




いざ南座!

初めて南座へ。
京都・祇園四条駅を出たところすぐに劇場があるのは知っていたのですが、歌舞伎の劇場とすらも知らず、いつも賑わっているな〜程度に思っていました。
そこへ入ることになるとは? 成り行きとは不思議なものですね。あの時うっかり歌舞伎座のお切符をとらなかったら、ここにも足を踏み入れることはなかった。
歌舞伎座と比べるとこぢんまりとした印象で、フロアの高さ?が高いような気がする(階段の一段が高いような……)。
3階1列という見晴らしの良さそうな席のお切符をとったのですが、よくある手すりも邪魔にならず、2列目の席とも通路を挟んで離れていて、後ろを気にする必要もなく、とても見やすかったです。

3階1列25番あたりの眺め
舞台上に屋根がついているのが雰囲気あっていいですね

なんで急に南座に突撃したかと申しますと、だって「牡丹燈籠」って面白そうじゃん……の一言につきます。怪談、見たことないから見てみたい。あとは玉三郎さんが出るというので、見てみたかったというのもある。見たい時に見たいものを見ておかなければ、いつ後悔するかしれませんからね。
夏に怪談、醍醐味です。訪れた日もじわじわとまあお天気も良く暑い日で、祇園の街をちょっと歩いていると、ペットボトルのお茶もすぐに消える始末。怪談日和でした。


あらすじ

ざっくりとしたあらすじ
お露萩原新三郎に一目惚れ。新三郎もお露を慕うも、なかなか会いに行くことができない。そうしているうちにお露は、恋の苦悩のあまり死んでしまう。お露の乳母・お米も後を追って死んでしまうのだった。
新三郎はその報せを聞き、毎日お露を偲んで念仏を唱えている。しかしある晩、新三郎の家にお露・お米が訪ねてくる。死んでいなかったのだと喜びお露と抱き合う新三郎。新三郎の下男・伴蔵がたまたまそこに通りかかり見たものは、骸骨と抱き合う新三郎の姿だった……。
きちんとしたあらすじはこちら


配役

伴蔵女房お峰:坂東 玉三郎
伴蔵:片岡 愛之助
萩原新三郎:喜多村 緑郎
お国:河合 雪之丞
お六:中村 歌女之丞
乳母お米:上村 吉弥


感想

  • 第一幕
    お露とお米が死んで、新三郎を取り殺すまでの話

牡丹燈籠、お話を知っているような知らないような(そういうのが多い)。元は落語ということも分かっていて、おそらくどこかの部分だけ聞いたことがある……はず……確か……。ともかく幽霊が、牡丹燈籠を携えて恋人を訪ねる話だよね?ということだけは分かっていてみていました。

始めに出てくるお露とお米はまだ生前の姿。その後すぐに死んでしまって、牡丹灯籠を手に新三郎を訪ねてくるわけですが、その際の衣装が、まるで二人だけモノクロかのように、着物から小物から髪飾りからお化粧まで(確か)すべてグレートーンになっているのが面白かった。もちろん振る舞い方も幽霊らしく、生者とは違うのですが、ただ佇んでいるだけで、この二人だけがこの世のものではないということが分かるのがとても良い。
幽霊となって出てきたあと、牡丹燈籠だけがふよふよ舞い上がり、客席にご挨拶にきたのがまた憎い演出でした。

今更こんな話をしますが、主役はお露でも新三郎でもなく、新三郎下男・伴蔵とその妻お峰なんですね……。知らなかった……。
お峰は貧乏暮らしの女房で、ちゃきちゃき喋るし情に厚い。お姫様や傾城などをやっている坂東玉三郎しか見たことがなかったので、この雰囲気のお役は新鮮で楽しかった。すごく口が回る。

お露が幽霊と気づいた新三郎が、家の周りにお札を貼って仏像を持ってそれを避けようとするので、それを剥がして家に入れるようにしてほしい、とお米が新三郎に頼み込む見返りに、小判を与えるという筋書き。
幽霊が物理的な交渉をするのも面白いし、無造作に小判を降らせるのも派手で良い。怪談なのでほぼずっと夜、薄暗い舞台上で、小判だけが煌びやかに二人の前に降ってくるのは鮮やかさすらある。
その小判、なんか葉っぱに変わったりしない?と思いましたが、そういうのではなさそうでした笑

新三郎とお峰は貧乏暮らしから抜け出したいために、金に目が眩むわけだけれども、幽霊の依頼を受けるのは、人殺しの現実感は少なそう。お札を剥がしてお露を家に引き入れたら、新三郎は取り殺されて連れて行かれてしまうわけですが、通常の(?)人殺しを手引きして見ぬふりをするよりは、罪悪感が多少は少なそうなのが、やっぱりミソですよね。


(休憩)
劇場内をうろうろして売店を見るのとか好きなんですが、お弁当を食べるのか売店を見るのか、(月後半なら)ブロマイドを見たりとか、お手洗いに並んだりとか(?)休憩時間の割に、やること多くないですか!? でもこういった幕間の時間が楽しい。
通常の演劇では休憩時間にこういうことをしたりしないので(劇場に売店がない場合が多い)、この劇場という建物内に入るだけで、出てくるまで全てが非日常という空間は、本当に楽しいなと思います。


  • 第二幕
    お露とお米にもらった対価の小判で、伴蔵夫妻が再出発したのちの話

小判を元手に再出発、成功を収めて豊かな暮らしをしている伴蔵夫婦。そうすると余裕が出てきて、伴蔵が浮気をしだして……。という、人間って欲深い! せっかく貧乏暮らしを抜け出したのに、そんなことしなくっていいじゃんさ〜〜〜など、ただ見ているだけの人間には思えます。

お峰が馬飼(?だったかな?)を問い詰めて、主人の浮気を吐かせるところが圧巻でした。初めは軽く、伴蔵の通っているお店の話をして、そこの芸妓・お国の話に繋げて、私はすべて知っているんですよ、お国さんって良い女らしいですね、のようなことを言いつつ、どんどん自分の知らない情報を引き出す。
なんでもない風に始めたのに、浮気の証拠を掴んでいくと、ほんの少しの表情の動きだけで、段々と雰囲気に恨みが滲んでくる。目に見えて鬼に変わるわけではないのに、徐々に徐々に、怒りや恨みが隠しきれなくなっていくあのグラデーションの表現。凄まじかった……。


鳩は怖い話が嫌いというか、ホラーはあまり好きではない(見ますが)のですが、怪談はまた違った雰囲気で面白いのですね。
もちろん幽霊も出てくるし、恨みで人間を取り殺したりもするけれども、それよりも生きている人間の欲深さやどうしようもなさだったりとか、そいうった感情の動きに焦点を合わせている。ただ外側から見ているだけの観客には、その人間が慌てふためくさまだったりとかが滑稽に写り、怖い話なのに可笑しくて笑えてくる。本人たちは必死なのに。
人間のどうしようもない嫌なところと、どこか憎めない愛しさみたいな部分のどちらもを見せて楽しませるのが、怪談の本質なのだと知りました。


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