見出し画像

【映画鳩】オオカミの家・はだしのゲン(8月)



(注:以下ネタバレあります)


オオカミの家

トレーラーを見て、とても気になっていた作品。
ストップモーションホラー映画なので、トレーラーを見る方はご注意。
(12/12現在、トレーラーは公式Twitterの固定ツイートから長尺版が見れるようです/なぜか公式サイト内のTRAILERからは見られなかった)

ずっと画面が揺れている。主人公・マリアの不安や緊張や、少しの安堵を物語るように、ずっと。トレーラーを見ると分かるように、人間も豚も背景も、カメラが動きながらその造形物そのものを流動的に変化させていっていて、この変化の具合が気味悪く、とてつもなく面白い。
ぬっとりと塗られていく背景のペンキだとか、骨からできて肉がついて、細かいところが成立していく人間の造形だとか。こればかりは実写とすると、お人形を使ったアニメーションでしかできないのだと思う(背景のみはもしかしたら頑張れば、人間の役者さんでもできるのかもしれない)。また、画面が揺れているのと同じように、ずっとどこか気味の悪い雑音が鳴っているのが気持ちが悪く、鑑賞者の緊張を強いる。
カルト宗教から一人逃げ出してきた(きっと今までそこで生まれ暮らしてきたのだろう)若い娘の、ようやく手に入れた自由に対する落ち着かなさ、追っ手がかかる恐怖・不安、その緊張感が全て、この画面の構成と音とで鑑賞者にまで伝わってくる。そしてそれがピークに達する結末。
まあ始終気持ち悪い。見ていて酔いそうだし、心地の良い瞬間など一切ないのだけれども、一瞬の動きも見逃せなくて、画面から目が離せない。ものすごく気味が悪いし、ついでに後味も悪いけれども、それでもかなり表現方法が面白い。鳩はこの作品、かなり好きです。ぜひDVD化してほしい。

併映「骨」という短編映画は、こちらも大変気味が悪いのですが、どちらかというと、死者/死体への冒涜……!という気持ちに強くなってしまい、それ以上にいかなかった。怖いとか表現が面白いとかいう前に、こうなんだかいたたまれないというか、私がやっているわけではないのに申し訳なさを感じるというか、そういう不可思議な心境を抑え付けている間に終わっていました。

この2本はどちらも、映画を制作されたチリの、政治的な問題であるとか歴史であるとかを下敷きとしているらしく、パンフレットを読むまで(特に骨の方は)何も分かっていなかった。ほんとうはその辺りのことをきちんと知った上で見ると、もしかしたらさまざま考えられることがあるのかもしれないのですが、結局のところ自らの性質上、表現方法についてばかり目がいくような気もします。


はだしのゲン

「はだしのゲン」は小学生の頃、人気図書でしたよね。みんなきっと、子供ながらの残酷な好奇心と怖いもの見たさを持っていて。鳩もそうして釣られて数ページ見はしたもののあまりに恐ろしく、きちんと読んだことはありませんでした。この映画も初めて見まして、あのゲンといっしょにいる男の子は弟ではないということを初めて知りました。

ゲンはなんと言っても子供であるから、結構軽々しく原爆投下後の街の中を走り回って目的を忘れたりしているけれども、その中で見せつけられる背景になっている死体の数よ。本当なら、一人の死体が道端に落ちているだけでも大事件のはずであるのに、もはやその死体の山は背景と化している。戦争というのは、そういうことなんですよね。
この物語は、幾万という、悲劇という言葉すら軽い出来事のうちのただのひとつであり、つまりこれがどの、"この時代を生き残った人たち"にも必ずあったということで、そしてこれすら持てなかった人たちもまた幾万といる。ほんとうにこんなこと、もう二度と起こしてはならないと思うのに。


はだしのゲン2

「死」という言葉があまりにも軽い。死が隣どころではない近くにある事象なのだ。「死ぬるんか?」という文章が、もう日常の単語になっている。しかしそれでも生きているし、生き残った側の人間は生きるしかない。そうして生きていくための必死の日々が描かれていく。
原爆投下から3年では、この描かれているくらいの復興具合だったのだろうか。知っているようで何も知らない。広島も長崎の原爆資料館も、もっとじっくりきちんと見に行きたいと改めて思った。知るべきことを知るために。

これらの映画を今夏見たのは、ちょうどその頃公開されていた「映画バービー」の本国公式広報が、悪辣インターネットミームに乗っかって騒動を起こしていたためで、いろいろなことを考えていた。
やれブラックジョークだの、そうでないだの、文化が違うだの、なんだの。鳩としてはやはりあれをブラックジョークで済ませることはできないのだけれども、思想の違う人間を強制することもまたできないわけで、もうどうすることもできず、せめて自らはきちんと事実を確かめて知ることを、その出来事を忘れないことを、していこうと思いました。

そういえば、ようやくオッペンハイマーの公開が決まったようですね。映画バービーは公開前に面白そうと思っていたけれども、あの騒動があったために、鑑賞してもノイズで集中できなさそうなので結局見ていません。オッペンハイマーは、この騒動を含めてもノイズにはならないと思われるので、見に行こうと思います。

話は戻ってはだしのゲン2、キャラデザが大友克洋っぽくなっており(逆かな)、そのせいで不良リーダーが現れた際にアキラ……?となった(正確には金田)。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?