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人間化の機械、機械化の人間

 今年お正月の時、子供にすすめられて、数年ぶりに回転寿司店に行った。回転寿司というと、ぐるぐる回っているお寿司の中から、欲しいモノをすぐ手に取って、安いけれどネタはいまイチという印象だった。行ってみたら、イメージは一新した。美味しくて種類も凄く豊富だ。それと、味だけではなく、レーンが劇的な進化をしていて吃驚した
 
 回っているのではなく、寿司の厨房とお客さんを直線の「特急レーン」でつないでいたのだ。所謂、お客さんの注文を受けてから握り、直接届く仕組みだ。注文したら、寿司の到着まで時間もかからず、かつ、届く直前に、なんと、「まもなく、到着します」という楽しそうな一声がテーブルにあるタッチパネルからアナウンスされて、何が到着したかも表示される。その一声を聞くと、なぜか、店員さんが持って来るよりも楽しくて、食欲も一層沸いた。

 それと、座席のタッチパネルから、指1本で好きなネタを注文できるようになった。店の予約も回転寿司店の専用アプリから簡単にできる。行ったお店では、席の周辺を見回すと、家族連れなど客が多く、賑わっていて、大人気のようだ。調べによると、回転寿司店の数はコロナ渦の中でもどんどん数が増えて、成長し続けている。テクノロジーの進化で、機械から提供されるサービスは、人間に近づき、人間を超えるほど、ますますレベルアップしている。

 家の中でも、そのような現象が起きている。
 先日の朝、昨年から使い始めたAmazonのスマートスピーカー(アレクサ)からの一言に驚かされた。朝食の時、音楽を聴きたくて、アレクサに、“アレクサ、リチャードクレイダーマンの曲をかけて”を言うと、なんと、アレクサに「おはようございますといってほしい、、、、」というような一言(正確な表現は忘れた、すみません)が返されたのだ。まさか、私からの挨拶が無かったため、アレクサにちょっと怒られたようだ。そういえば、以前、「おはよう」と声をかけていたが、暫く間にしていなかった、機械だから言わなくても大丈夫だと思ったのだ、それを聞いて、反省した(笑)。

 実際に、アレクサを使ってから、日常生活の楽しさが増えた。アレクサに声をかけると、いろんな音声サービスが提供されると同時に、利用方法やコンテンツも多彩になっている。遊び相手になってくれるアレクサ、知りたいことを教えてくれるアレクサ、、、生活に欠かせない存在となった。アレクサを使ってから、以前買ったコンポはほとんど使っていなく、飾り物のように置いているだけで、廃棄しようと思っているところだ。

 スマホは言うまでもない、お店でも、家でも、硬い、冷たいというイメージの機械や機器はこんなに進化している。それは、物理的なハードウェアというより、何らかの処理を行うコンピュータ・プログラム、いわゆるソフトウェアの進化のお陰だ。特に、近年、人工知能(AI)技術は日進月歩で発展している。人間の動作を推定したり、意図を理解したりして、ますます、人間に近づいているようだ。一方、我々人間はその逆に向かっていて、機械になったように、つまり、退化しているではないかとも感じた。

 何年も利用している近所のスーパーでは、私は店員さんの顔をほとんど覚えている。多分向こうも週に数回ぐらいやってくる私のことを認識しているはずだ。忙しいときならともかく、ちょっと暇なときに、カゴにある食材を見て、「今日は鍋料理ですか」「今日はギョーザですか」と店員さんから聞かれたら、がぜんと買った食材はもっと美味しくなる気がする。そんな会話ができれば店員さんも楽しく、疲れも少し取れるかと思うのだ。しかし、現実は寂しいのだ。

 会話はなくても良いが、たった数分間のレジにいる時間で、店員さんから繰り返し何度も、アイコンタクトもなく無表情で「ありがとうございます」と話しかけられる。それと、待っていないのに、「大変お待たせしました」と言われる。言う側も疲れるが、聞く側も違和感や耳疲れを感じて、過剰サービスと言える。簡単に、「こんにちは」、「こんばんは」と言っていただくだけで、お互いにいい気分になるが、なかなかこのようなお店は少ない、店員さんからの声掛けはマニュアル化された言葉だけだ。そうならば、対面サービスや店員はいらなくなり、セルフレジと無人店舗だけで済むのだ。仕事は奪われるではなく、みずから仕事を無くしたのだ。

 ネットから何でも買える、ますます発達と便利になる時代においては、実店舗は、いかにお客さとの接点を大事にして、対面サービスのメリットをいかすのが大きな課題だと考えている。世間話ができるお店があれば、世の中をもっと温かく感じるではないか。お店の集客ともつながるのではないか。

 最近、ちょっと面白いニュースが入ってきた。お喋りができるレジのレーンが出てきたという。オランダのあるスーパーは、「チャットレーン」を設置した。そのレーンに並ぶと、担当者が顧客と日常会話を交わしながらゆっくりと会計してくれるのだ。

 機械はますます進化して、我々の生活に溶け込んでいる。
 人間も進化しないと、仕事は奪われ、人間性が失われ、楽しさも減るのではないか、いつも買い物の時にそう思う。


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