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難民選手団にみる「不屈の生き方」

オリンピックたけなわです。
私はテレビを持っていないので、BBC(イギリス国営放送)のウェブサイトでダイジェスト記事をちらっと見て、興味のある競技だけをハイライト映像で視聴する程度です。でも、たとえ誰が勝ったか既にニュースで知っていても、メダル獲得の瞬間をみて感動できるのは、スポーツのすごいところだと思います。

イギリスで生活して長いですが、だからと言ってべつに英国チームを応援することもなければ、かといって、とりわけ日本を応援するということもありません。何といっても各国を代表するアスリート達ですから、選手の国籍を問わず、観ているだけでわくわくします。

今年のリオ・オリンピックで私がとくに応援しているのは、難民選手団です。

難民選手団(Team Refugees) とは

正式名称は、オリンピック難民選手団 (The Refugee Olympic Team)。今回 (2016年) のリオデジャネイロ・オリンピックで初めて構成されました。

戦争や政情不安で母国から脱出・亡命して難民となり、自分の国からはオリンピックに出場できなくなったアスリート達から選りすぐられた 10人の選手で構成されています。今年のオリンピック難民選手団の出身地はエチオピア、コンゴ、南スーダン、シリアなどです。

混合チームであり、また、難民であるという立場から、彼らは自国の国旗を掲げられません。そのため、難民選手団のためにオリジナルの旗が、自身も難民であったデザイナーによって作られました。オレンジ色に黒いラインが一本入っただけのシンプルな旗ですが、これは、救命胴着の色をモチーフとしていて、難民ならば誰しも脳裏に焼き付いている色です。

難民選手団結成については、恵まれない境遇にあった選手を、オリンピックの宣伝や商業化に利用しているんではないかと懸念する意見もありますが、今回の結成がなければ出場できなかった選手たちに機会を与えたという点で、評価されていいと思います。

なかでも注目を集めているのが、難民選手団で最年少の18歳、シリアからの難民、ユスラ・ マルディニ選手です。

泳いで国境をこえた 18歳

ユスラ選手は母国のシリアでも前途有望な水泳選手でした。ごく普通のティーン・エイジャーでしたが、2011年にシリア騒乱が勃発して生活は一転しました。BBC のニュースでは、この騒乱で250,000人以上のシリア人が死亡したと記していますが、国連によると実際にはもっと多く、もはや正確には数えきれない数だと言われています。

トレーニングの場であるプールも爆破され、将来に希望が見いだせない状況を見かねて、2015年、ユスラ選手は、家族に先んじて、彼女のお姉さんやいとこ達とともにシリアから脱出することを決意します。ユスラ選手が17歳の時のことです。

彼女らはまずトルコに渡り、食物もろくにない状況で4日間かけてジャングルを通り抜け、そこからゴム・ボートに乗ってギリシャへ向かいましたが、途中、ボートのモーターが故障します。ユスラ選手は、お姉さんとともに荒波の海に飛び込み、仲間の難民が乗るボートを引っ張って岸まで泳ぎ切りました。

ギリシャからは、徒歩と列車・バスの乗り継ぎをしてヨーロッパ大陸わたり、ついに目的地のドイツへ辿りつきました。

あきらめないことの大切さ

ユスラ選手は、今は家族とともにドイツに住んでいます。今回のリオ・オリンピックでは、彼女は残念ながら予選に勝ち残れませんでしたが、まだ若いので次回の東京オリンピックでの活躍が期待されます。

予選落ち直後のインタビューで、ユスラ選手は、「私が唯一やりたいと願っていたのは、オリンピックの場で競うこと。偉大なチャンピオン達と競うことができるなんて素晴らしい」と語っていました。間違っても、「どうせ私は難民だから」などとは言いません。

マス・メディアはどうしても、若くてかわいい選手に焦点をあてますが、難民選手団の他の選手たちは、みな想像を絶する困難を乗り越えてオリンピック出場を果たしています。

コンゴ出身の柔道家、ポポル・ミセンガ(Popole Misenga)選手は、6歳の時に第二次コンゴ戦争が勃発し、母親が殺害されました。まだ小さかった彼は、戦火を避ける一心で熱帯雨林へ逃げ込み、救出されるまでの約1週間、ジャングルをさ迷い歩いたそうです。

また、南スーダン出身のイェシュ・ビエル(Yiech Biel)選手は、長期にわたるスーダン内紛のせいで10年間にもおよぶ難民キャンプ生活を余儀なくされました。そんな中、彼は、運動靴すらない状況でトレーニングを始め、2015年にオリンピックの難民選手団に選ばれました。

私たちのほとんどは、彼らよりもずっと恵まれた境遇にありながら、できないと思いこんでいることがあまりにも多いように思います。

上記で取り上げたユスラ選手は、現在はドイツで勉学とトレーニングに明け暮れる毎日です。そんな多忙な生活の中でも、自分の経験を通じて他の人を励ましたいと、フェイスブックを通じてメッセージを送っています。その中に、つぎのような言葉があります。

“Losers quit when they fail, Winners fail until they succeed.”
(敗者は失敗した時にやめる。勝者は失敗しても成功するまでやり続ける。)

置かれた境遇は違っても、肝に銘じておきたい言葉です。