まちの味

夕方、古本屋に寄った帰りに「THE商店街のお肉屋さん」でクリームコロッケと串カツを買った。

今日は在宅勤務で1日中家から出なかったものだから外の気温もわからず半袖Tシャツとサンダルで外出したのだが、思いがけず冷たい風に震えながら暮れかけている道を早足で歩く。昨日古本屋に紙袋2袋分の漫画や本を売りに行き、その査定が終わったと連絡を受けたからだ。
最近は仕事がとても落ち着いていて(言ってしまえば暇で)夜は手持ち無沙汰になる。どうしても残業をしない日の時間の使い方が上手くない。半年前には信じられなかった時間に仕事を終え、普段はそのまま家に引きこもっているところを、こうしたわけで出歩いているのだった。同僚はまだ働いているだろうから、ちっとも悪くないのに悪いことをしているような気持ちになる。

古本屋までは徒歩5分もかからないくらい。それでも帰路につく人々と何度もすれ違う。当たり前のことだが、この時間に家に帰ることは全く変なことではない。人の流れから逆行しながら認めた古本屋の明かりは、やたらと温かそうに見えた。
古本屋は昨日一通り物色したので今日は少しだけしか滞在しない。さっさと家に帰ろうと思ったのだが、行きしなに見たお肉屋さんが今日は珍しく気になった。何度も通り掛かっているが、なんとなく個人商店は使いづらい気がして素通りしていたのに。家に帰ったらピーマンと春雨の炒め物を作ろう、でもそれにしては冷蔵庫に肉類が何もないな……そんなことを考えていたからかもしれない(でもスーパーにいくのはどうしても面倒くさかった)。
そんなこんなでお肉屋さんの前まで行くと、白いワイシャツを着た常連らしき男性が買い物をしていた。その姿を見てなんとなく決心がつき、もうほとんどなにも残っていないショーケースの中から選んだのがクリームコロッケと串カツというなんとも言えない組み合わせだ。19時も目前になるともう店じまいの時間なのかもしれない。店主らしき年配の男性に注文を伝えると、「串カツ……ああ、まだあった、よかった」と安心した様子。ひとつだけ残っていることを確認した上で注文しているからあるのはわかっていたのだが、なんだか私も一緒に安心した。プラスチックパックではなく紙に包んでくれ、それがまたなんとも言えない良さだった。

家に着くと揚げ物を包んだ紙に小さく油が滲んでいたが、いかんせん普段しないことをしたものだから、それすらも気分を良くさせた。
ショーケースの中ではそれほど大きくなかった揚げ物は、2つとも平らげることを少し躊躇するような大きさだった。

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