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2023年公開映画ベスト10

年間ベストアルバムに続いて今年は年間ベスト映画についても記録します。個人的には今年はなかなかの接戦で(年々鑑賞本数が増えてきているのもある)妥協のないベスト選出、そして自分がジャンル映画よりかは日常モノを好むのもあり、比較的どんな人にでもオススメできる映画リストになっていると思います。興味があれば見てみてください。







10 ザ・ホエール

死期が迫った男の5日間、絶望的な状況を示すような薄暗い密室劇、玄関のドアから立ち替わり現れる最小限のキーパーソンを通じてこれまでの人生・過去を振り返る。人生最大の過ちを悔いて、もうすでに元の形を取り戻すことは不可能などうしようもなさを骨の髄まで味わい、その身に命を削る形で降りかかってしまう。誰もからどう責められようが抗いようのないスタートをしてから、贖罪と一見して無意味な神の救いが絡み合い形を変えながらだんだんと意外な景色を見せてくれる。欲のままに身を任せることの結果はもはや取り返しがつかない状態にまで来ているが、最後の最後に微かに何かが変わるような気配だけを残し、もはやファンタジーに片足を踏み入れたような余韻にやられる。


9 スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース


瞬きする間もなく更新されていく卓越したアニメ表現とメトロ・ブーミンのトラックだけでかなりの満足度で、アトラクションと形容してもいいくらいの突き抜け方をしていた。ストーリーとして特に目新しい部分はないが、スパイダーマンとなった者が背負う宿命、代償をマルチバースで俯瞰し、二者択一を迫られるヒロイックな苦悩を映し出していた。スパイダーマンもそうだがヴィランのシンプルながらも万能な能力にどう立ち向かうのか、コミカルでありながらも状況的には絶望してもいいようなことの連続で、なんでもアリなパラドックスが引き起こす運命に抗おうとする姿が痛々しくも勇ましい。あらゆるものに絡め取られる日々の不条理を蹴散らすようなアティテュードが示されている。


8 VORTEX

ギャスパー・ノエが見つめる老夫婦の迫り来る終末。スプリットスクリーンで二人の行動を同時に映し出す冷淡なカメラは、映画だからといって色付けされた訳ではないドライなリアリティがあった。不安定な人間の行動そのものがゆらゆらとシームレスに繋がるので、ドキュメンタリー以上に危機感と虚無感を煽る。ギャスパー・ノエの明らかな新境地なのは間違いなく、それでいてどの過去作とも質が異なる重みにやられて、鑑賞後に現実に戻るのに少々時間がかかった。二人はすでに薬漬けで病に蝕まれた身体であるが、死については対照的であった。急激な痛みを伴って逝ってしまうのか、徐々にわかっていたものがわからなくなって逝ってしまうのか。人間自らの死は予期できない。ぷっつりとチャンネルが切れるようにやがてその時は訪れる。


7 逆転のトライアングル

カップルのお金に関わる些細な衝突から、豪華客船の優雅な旅、突如島に投げ出され始まるサバイバルと三部構成でエンターテイメント性は高い作品だと思う。ブラックコメディをベースに、最悪の状況を爆発力のある笑いに変換していく異様なテンションの持ち上げ方が爽快感ある。いつ何が引き金になるかもわからない謎のスリリング、ブルジョワのみっともなさを滑稽に映し、金が意味を成さない状況に直面するという最大の皮肉。ロレックスもインスタもこの映画では無意味で、ブルジョワ批判と現代に蔓延するSNS批判が汲み取れる。この監督は音楽の使い方が上手く、SuicideのGhost Ryderの怒涛のオープニング、バータイムに流れるModjo、エンディングを彩るFred Again..も超良くて、個人的に趣味が合った。吐きまくるシーンやトイレが溢れ出すカオスを演出するメタルのぶち上げ方も最高。
※耐性のない方は一応もらいゲロに注意⚠️


6 イニシェリン島の精霊

ある日、身に覚えがないまま急に友人が口をきいてくれなくなる。喧嘩をしたわけでもなく、わかりやすい悪態をついたわけでもない、と完璧な掴み。これ以上話しかけると自分の指を切り落とすと友人だった男は告げる。シンプルな断絶からここまで運命が捻じ曲がるものかと驚愕した。現代にしてみればうるさいやつはSNSでミュートしたり、やりたいこと優先して飲みの誘いを断ったりできるが、隔絶した環境下で島民が必然的に顔を合わせるわけで、逃げ場もないディスコミュニケーションに苛まれる。生産性のない馴れ合いを否定する現代批判にも思えるし疲弊するが、戯曲的な描き方が伴っていて、ドラマとして磐石でさまざまな角度から観る余地がある。個人的には「スリー・ビルボード」よりも深く意味をなぞりたくなる作品で感服した。


5 フェイブルマンズ

アートを志す者へ、スピルバーグが集大成のような形で自伝的に紐解いた青春。私たちがどのように日々を過ごしどんな人間であっても、カメラを通すと別の生き物になり、ありのままの画面の美しさに抗うことはできない。創作欲に囚われたどうしようもない衝動を決して否定することなく、その先に待ち受けるリスク、フィクションと現実を阻む直視したくない断絶を真摯に映していた。無から何かを生み出すことはライオンの口に飛び込むことと同等の危険を孕む。心をいくら摩耗し環境が変わったとしても、純粋に"好き"の感情が熱量を保ち続けることは厳しいし、それでも諦めには屈せずしがみ続けて、保証などどこにもないまま人生の時間は過ぎていく。ラストの数分間で人生が変わる、映画史が刷新される序章を目の当たりにする。


4 怪物

表面的にしか見えていない世界で常に私たちは生きていて、真実などと都合の良い言い回しで容易く善悪を区別し、損得か感情かで判断を下して、無害な存在でいようと潔白に思われるために波風も立てずそんな風にして生きているはずなのに、見えない誰かにとっては加害者として映っていて、被害の痕跡がどこかに残ったまま、見過ごしたまま日常が消費される。こうして見過ごされてきたことが累積して、主にSNSの発達で理不尽なバッシングが蔓延る世の中に対して警鐘であるとも受け取ったし、あたかも全てを見ているかのように振る舞っている人々も知らず知らずのうちに加害性を帯びているのが顕著になってきているのは明らか。真実など誰の目にもわかりはしないが、この映画こそ現代人が目を凝らすべき真実である気がする。是枝裕和と坂元裕二、本当に凄まじい才能が邂逅した。最後に奏でられる坂本龍一の旋律はありありとした心象風景であり、声にならない願いをも内包している。緻密なドラマの積み重ねから誰しもに訴えかけるテーマを投げかけ、このような映画が日本から世界に届いている事実に希望を持ちたい。


3 枯れ葉

とにかくカウリスマキ帰ってきてくれてありがとうの一言に尽きる。マジでカウリスマキの映画は不変でハズレがない。人生のほんの一瞬を切り取った束の間の切なさ、孤独同士が寄り添い合う親密さ、そしてこのコンパクトな尺にまとめ上げるインディー精神がたまらなく好き。この混沌とした現代情勢を語る批判性もあるし、その一方で時代に逆行したアナログな質感、繋ぎ止めるのが精一杯な脆い伝達手段とか、どことない哀愁とユーモアの共存に酔いしれる。簡素でありながら琴線に触れまくる。慎ましい生活を映し出し、片隅から見守っててくれるような、それでいてハートウォーミングなエールを寡黙ながらに伝えてくるような作風で間違いなく勇気を貰えた。レイトショーのシーンであの映画をチョイスしたのはかなり笑えた。


2 PERFECT DAYS

この平山という男の質素ながらも日々変わらぬ充実を取り入れていくルーティンが非常に気持ちよくて、心の底から理想の生き方をしていて羨ましくなった。人生の一つの模範を見た気がする。映像のリフレインに予期せぬドラマが自然と連なっていき、何が起こるかわからない驚きと喜びを与えてくれる。日常の片隅に落ちている些細なヒントにまで目を行き届かせた懐の深さ、デジタルからは得られないアナログの栄養素、一瞬一瞬を噛み締めこんな風に生きていけたらと思うと同時に、生活の中で見過ごしているものがあるのかもしれないと気付かせてくれる。規律や習慣に囚われていても、視野をほんのちょっと広げるだけで、世界が変化している息遣いが目に映る。自分もこの平山のいる世界に行ってみたい。今日もどこかで影と影が重なり合って無数のドラマが生まれている。平山が何も言葉を発さなかったとしても、彼の満たされた表情を目にするだけで幸福がどんなものであるか、真っ直ぐに感性に訴えかけてくる。


1 レッド・ロケット

クソ最高な映画で歓喜した。どうしようもないダメ人間、波瀾万丈でしかない日常のすり抜け方、その一挙一動、落ちぶれた日常と反比例するようなテキサスの突き抜けたロケーション、過剰なまでに全ての瞬間が騒々しく、着地点も未定な推進力にぶっ放された。この有り余る滅茶苦茶なインディースピリットはハーモニー・コリンの映画にも通じている気がして好みでしかない。何でもないワードセンスが光り冗談でしかない不毛なやり取りもずっと観ていられる。迷走しながらもずっと調子に乗っていて、どこにも保証などないハイカロリーでリスキーなその場凌ぎの生き方でも、ちょっとした瞬間の積み重ねで気分は有頂天。映画だからこそ、こんなあり得もしなさそうなダメダメ野郎の不安定な生活がずっと気にかかるし、破綻しているのにどこか楽観的でブレーキの外れた人間性が興味深い面白さを持続させる。とりあえずミスドを爆食いしたくて仕方がなくなる映画である。





今年はこんな感じでした。意外に真面目なリストになりました。ただ最近はバカで頭を使わない映画も観たりするので、「レッド・ロケット」の笑撃が衝撃ということで今年ベストです。
次点の映画たちで言うと、
「オオカミの家」
「首」
「EO」
「君たちはどう生きるか」
「コカイン・ベア」
あたりもかなり好みでした。ジャンル映画も結構観たけどやっぱりベースとしては普遍的なドラマが好みなのかなと自分で思いました。
来年はもっと観ます。それでは良いお年を!


〜完〜

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