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ある労働運動指導者の遺言 足立実の『ひと言』第72回「人権を侵す最高裁 日立・田中秀幸残業拒否解雇事件」 1991年12月10日

 最高裁は十一月二十八日、残業を拒否して懲戒解雇された日立製作所の田中秀幸さんの上告を棄却した。
 理由は、会社と組合の間に三六協定があるから、残業を断った田中さんを懲戒解雇しても構わないというものである。
 四ツ谷巌裁判長は間違っている。
  第一に、労働基準法の「使用者は・・・労働者の意志に反して労働を強制してはならない」という規定を蹂躙している。
 第二に、三六協定とは使用者が労働組合又は労働者の過半数の代表者と書面による協定をし、行政官庁に届け出た場合にのみ、残業または休日労働をさせることができるという免罰規定にすぎない。
 労働者の七十五%を占める未組織労働者は資本家の一方的支配の下にある。最高裁の判決は労働者に強制残業を義務づけたと言われても弁解できまい!
 組織労働者の大部分も、会社の言うなりの御用幹部に支配されているために、 同じことになる。現に日立製作所の組合は資本家の人権侵害に手をかしたのだ!
 長時間労働による過労死はますます増えるだろう。しかもこんな重大な改悪を法改正の議論もせず、裁判官の独断的解釈で強行するのは法治国家ですらない。
 われわれはどうするか。
 第一に、資本家の番犬に堕落した最高裁を徹底的に糾弾する。
 第二に、組合を拡大強化し、未組織労働者の組織化を援けて、職場に有利な力 関係をつくり、労働者の人権を守り残業強制を許さない。
 第三に、搾取なき自由の世界をめざす政治闘争に力を入れることだ。 (実)

(画像は今はなき日立製作所武蔵工場 映画『キューポラのある街』より)

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東京小平市の日立製作所で残業拒否を理由に解雇された田中事件(67年解雇)について、最高裁は1991年に解雇を有効とする不当判決を言い渡したことを受けてのコラムである。

日立製作所武蔵工場社員の田中秀幸氏は臨時工と女子の2名の不当解雇を撤回させるために裁判証言で闘ったために会社から嫌悪され、その直後に日立は活動家排除を目的に一回だけの残業拒否を口実に解雇した。田中氏はこれを不服として無効を求める訴訟を起こした。

参考

【日立製作所武蔵工場事件】https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%AB%8B%E8%A3%BD%E4%BD%9C%E6%89%80%E6%AD%A6%E8%94%B5%E5%B7%A5%E5%A0%B4%E4%BA%8B%E4%BB%B6

そして、1991年10月、最高裁判所は労使協定の範囲内での残業命令には従わなければならないという決定を下す。

この判決には国の内外を問わず、御用組合が会社側有利に協定を締結すれば都合により残業できない場合でも、労働者を無理やり働かせることが可能になり、長時間労働・解雇の濫用が横行してしまうと非難の声があがった。

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この最高裁の判決について筆者はキッパリと「四ツ谷巖裁判長は間違っている」と述べている。

当然である。

36協定(時間外、休日労働に関する協定届)とはコラムにもあるように「免罰」規定であり、そもそも残業そのものが労働者保護の観点から法律を逸脱しているのである。

それ故に、いくら36協定を結んでいるからといっても個々の労働者に残業を強要することはできないはずであり、またそれをもって懲戒解雇とは言語道断である。

これは、日立資本、さらには日立の御用組合、さらには司法という国家権力が束になって労働者に襲いかかってきた攻撃である。このような不当、不法な判決を許すわけにはいかない。

筆者の怒りを今もって共有することができる。

この事件はその後、2000年9月に日立との間で職場復帰は認めないものの日立側の責任を認めさせる形で和解協定を締結された。それも粘り強く闘った成果である。

この日立の争議は、日本の大企業が理不尽な解雇や陰湿な差別という不当な手段を使って労働者を支配している実態を世界にアピールした事に意義があると評価されている。

参考

日立で差別是正と残業拒否解雇事件の勝利解決https://www.jlaf.jp/old/tsushin/2000/999.html

※日立製作所武蔵工場は当時16才の吉永小百合(役名ジュン)主演の映画『キューポラのある街』に登場する。

この工場は、当コラムなどの労働問題がいろいろあり、映画で描かれたほど、明るく楽しい職場ではなかったようである。

参考

“キューポラのある街” ⑥ アッチにコッチに逸れて!そして!日立武蔵工場は消えていました!https://blog.goo.ne.jp/cocoro110/e/2ae0e90c0c0f6c837419cc4481b2862a

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