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京都のお供#2 伝説を信じたくなる小説『家守綺譚』(梨木香歩)

こんにちは。昨晩全然寝付けずようよう白くなりゆく山際を眺めていました。といっても、我が家は平地にあり、山は見えないので言葉の綾なのですが。

さて、今日は不思議な伝説も本当のことかもしれないと思える小説をご紹介します。梨木香歩の『家守綺譚』です。以前こんなインスタの投稿をしました。

いつも風景から思いついた小説をインスタに投稿しています。このときに訪れたのは京都にある東福寺の塔頭(たっちゅう)、芬陀院(ふんだいん)です。芬陀院のお庭には、夜な夜な動き回っていた亀が固まって石となったと伝わる石組みがあります。

小説では、サルスベリの木に感情があったり、河童や子鬼など現代社会においては到底あり得ない存在のものたちが登場します。決して恐ろしいものではなくて豊かな自然の象徴であり、描かれた風景の美しさや、主人公・綿貫とそれら奇妙な存在との交流の温かさに心がほぐれます。

ここ芬陀院を訪れたとき何を考えたのかというと、「そんなものは存在しない」といわれる魂や、伝説・伝承の中の生き物たちはこの小説で描かれるように確かに存在しているのかもしれない、きっとまたこの亀石も動くのではないか。トトロは子供にしか見えないとは言うけれども、強く信じれば大人になってしまった私でもトトロ、に限らず、そういった精霊たちが見えるのではないか、ということでした。

芬陀院の亀は毎夜、物音を立てたことで封じ込められてしまいました。この石が元々亀だったというお話が伝わっているのは、昔の人たちは主人公の奇妙な存在に対する姿勢のように、不思議なお話に対して真摯で、私たちには見えない何かが確かに見えていたのかもしれません。

このような摩訶不思議な伝承は京都にとても多いもの。寺社の謂われや言い伝えを知れば、より一層その場所が愛おしくなることでしょう。

現代においても実は「起こるはずがない」と思っているから見過ごしているだけで、私たちももっと丁寧な目を周りに向けると不思議な体験ができそうです。故人が伝えた不思議な体験やお話をじっくり味わおうという気持ちにさせてくれる小説です。

京都のお供にこの一冊。

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