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仮止め

ぎゅっと木に抱きついた
1月末の大寒の朝

ぽろっと樹皮が剥がれてしまった


ごめんね

こんなに寒いときに

―――


今にも落ちそうなものが
弱く細い何かで
つながっている

そういうものって
意外と多いと思う

あなたがいてくれるから
つながっている命が
あるかもしれない

持ちこたえられる重荷が
あるかもしれない

あなたの一言があったから
切れずにいられる気持ちも

深くならずにすんだ傷も
あるかもしれない

そういう何かで
人は生きていると思うの


立派なものではなくて
何気なく
さり気なく

でも、確実に存在する何か

そっと見えないように
仮止めしてくれている何か

今を生きられるようにと

―――

剥がしてしまった樹皮は
もろく、力なく地面に落ちた

手に取った

軽かった

大木を守ってきた
その、小さな破片は

今までに見た
どんな宝石よりも美しかった


2024.2.26

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