私の前職は忙しかった。



福祉系の本社だったから
特に月末月初は
土日もお正月も関係なかったし、



あの世間を賑わせた
悪事を働いた在宅介護会社を
承継したときだったから

夜中12時を回るまで仕事、
14日連続勤務の繰り返し、
当然代休なし。




出所がないから
残業代は限られていて
税金や介護保険料で
食べている身だったし、

現在より税金投与
されていなかったから
給料も相当低かった。

私は身体を壊した。




最初は喘息が出るようになって
強い薬で両手の震えが
止まらなくなり、

ひと呼吸するたびに
呼吸器全体が
焼けるように痛い。

いつまでもいつまでも
毎秒、痛みが止まらない。

苦しくて叫びたかった。

次にメニエール病が
出始めた。

最後に心臓病の
発作が出るようになって
私は仕事から逃げた。

好きな会社だったけど
大変な業界だった。

世間のために頑張っている
福祉の業界が
何でこんなに大変なんだろう。

私は在宅介護系の本社勤務を
何社か経験したけれど、
何処も同じように大変で
うつ病で苦しんでいる人は
何処にでもいた。

今は当時より少しは
良くなっている、と思いたい。

私の3ヶ月前に
入社した同い年の同僚は
過労からうつ病を発症して
それがひどくなり
分裂病を引き起こした。

若くしてお母様を亡くしたのも
影響したのかもしれない。

最初はオシャレな人だった。
パンツスーツを
キリリと着こなして
太陽みたいに笑う人だった。

次第に同じ
よれよれの服ばかり
着て来るようになった。

仕事中に叫ぶようになって
暗いロッカールームで
ブツブツ言い始めた。

幻覚、幻聴が出て
大声で怒鳴り、
職場を飛び出した。

見ていられなかった。

みんなで助けようと
すごく頑張ったけど、
何も出来なかった。

彼女は私が辞めてから
数ヶ月で退職した。

私の後釜に来た人は
20代の男性だった。
どこかの部署から
異動になったらしい。

私の重い仕事の一部を
引き継いだ彼は
うつ病になって、

ある日、
職場のトイレの窓から
飛び降りて、死んだ。

警察が会社に来て
大騒ぎだったそうだ。

あまり仕事が
出来ない人だった、と聞いていた。

だけど、あの量を、
仕事内容を、
私は数年かけて
作り上げてきたけれど、

彼は一部でも一気に
引き継いだのだから
出来なくて当然だ。

でも、
当時の私の同僚や後輩は


毎日忙しいから、
毎日イライラしているから、
本当に本当に大変だから、

そんな風に
彼のことを慮る余裕なんて
無かったと思う。

私の元上司や後輩や同僚の何人かは
仕事が出来なかった彼のことを
生前、よく叱っていたんだそうで

亡くなった彼は
それが苦しかったのかも
しれない。

ここからは私の憶測でしかない。

突発的に自殺
したくなる病気だから
そんなことは少しも
考えていなかったかもしれない。

だけど、もしかしたら
自分が死ぬことで
私の元上司や
周りの人への
腹いせになる、みたいな気持ちが

少しはあったのかもしれない。

でもね、
死んだらダメなんだ。

死んだって何も変わらないんだ。

貴方が亡くなった後、
とても優しかった後輩は
私にLINEをしてきて

とても辛い、
どうして助けられなかったのか、
やりきれない、
とこぼした。

彼女はきっと貴方にも
すごく優しかったでしょう？

彼女はいつまでも
そうやって自分を責め続けると思う。

恐らく貴方をよく叱った方の
私の後輩は
会った時に、言った。

死なれて迷惑だ、と。

職場で死んで
周りをとても不幸にした、と。

とにかくすごく怒っていた。

そんな気持ちは全く
なかったかもしれないけど、

貴方がもしかしたら
腹いせにしたかった
かもしれない人は、
こちらの彼女でしょう？

死んでも何もならないんだ。

人は、誰かの腹いせに死んでも、
その相手は後悔しない。
反省しない。

例えば遺書に
いじめた人の名前を書いて死んでも
同じだと思う。

後悔するかもしれないけれど
全員じゃない。

言っておくけれど、
私はこの気の強い彼女を
とても大切にしていた。

仕事の出来て熱心で
周りが見渡せる
真面目な人だった。

だから私が退職するときに
彼女の昇進を
社長に強く願い出てから、辞めた。

彼女は今
結構上の地位にいる。

私はこの件に関して
彼女の肩を
持つわけじゃない。

貴方を否定する
わけじゃない。

貴方の状況を
この眼で見ていないし、
あの戦争のような職場で
どちらが悪いか、なんて
白黒つけられない。

何度も言うけれども
私の憶測でしかない。

だけど、
死んだらダメなんだ。
死んだって何も
復讐にさえ、ならない。

死をもってさえ
何も、ほんの1ミリも、変わらない。

嫌な人がいるなら、
辛いなら、
逃げるんだ。

学校なら休んで、やめて、
職場なら辞めるんだ。



生活が大変なら
生活保護に頼るんだ。

頑張って続けたら
ダメなんだ。

心の病気になったら
治すのが大変だから
その前に、逃げるんだ。

そうして何とか
生からは逃げないで
生きてさえいれば
変わることがあるんだ。

周りは何か
言うかもしれないけど
そんなことは気にしたら
いけない。

自分を助けられるのは
自分しかいないんだよ。