午後7時からの中学生談義 19

narrator 市川世織
「えー?」
私の文字に、貴之と裕翔は首をかしげる。私はそんな2人の意見を聞く間もなく、ひたすらスケッチブックに文字を綴って見せた。
『だから!庇ってるんだよ!あの子は!!』
塾の教室の中、先生が入れてくれたお茶の湯気が揺らめきを見せ、先生が紅茶をすする音が響く。
そんな静かな教室に
「どこに庇ってたって根拠があるんだよ〜!」
貴之の呆れた声が響く。
『そんなあからさまに否定しなくても』
「だって、考えてみろ。一体あの後輩の女子の証言のどこに、犯人を庇ってたっていう根拠があったんだよ?いくらなんでも唐突すぎるって」
「俺も今回ばかりは貴之に賛同するな」
裕翔に至っては、そんなのんきなことを言いながら、お菓子を取りに行ってしまっている。
紅茶と一緒に出されるお菓子。今日はちょっと贅沢してプチブッセだ。
「お。先生どうしたんですか?今日は随分と豪勢で」
「もうすぐテストだから。頑張ってもらわなきゃと思って」
先生の謎の重圧。
私達は刻々と近づきつつあるテストの存在に身を震わせた。
「まあでも、周りから庇ってることがバレたら、庇うことになんないでしょう」
先生が呟いた言葉に
「出た。先生のセオリーひいき」
貴之が眉を寄せる。
「ひいきじゃなくて、素直に賛同してるだけ。私は皆平等に大切にしてるわよ?」
おっしゃる通り。
私は拍手をした。
「だいぶセオリーのジェスチャーで伝えたいことが分かってきたな」
裕翔がそう言うと、貴之は「ああ…」と呟やき、メガネをかけ直す。
「庇ってるって周りに悟られたら、意味ないじゃない!その子にもよっぽどの理由があるんでしょう」
「女子同士なんて、どーせ「友達が怒られるの可愛そうだからぁ」みたいな感じだろ」
吐き捨てるように言う貴之。
「あら。セオリーをあんなに必死に庇ってたのにねえ」
それに対して先生はニヤニヤ。
「え?」
裕翔が間抜けな声を上げると、先生は「本当に覚えてないのね」と呆れたように言ってから、私達の記憶にない「私達のこと」を語り始めた。
「まだあなた達が小学校低学年の頃。セオリーがチョコを食べたの。セオリーのお母さん、セオリーにチョコはダメって言ってたのね。それを見た、貴之と裕翔ったら大騒ぎしちゃって」
「そうだったかなあ」
「それで、セオリーのお母さんに、案の定バレて。2人が必死に庇ったのよ。「俺達が食べさせた」って」
「…そうだったっけなあ」
そうよ、と笑って先生はまた紅茶を飲む。
「悪い事をした人を庇うのが、良いことかと聞かれたら、素直に頷けないけれども。でも、それだけ「その人のことが大切。傷つけたくない」っていう心の表れでもあるのよね」

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