午後7時からの中学生談義 28

narrator 市川世織
美味しいものがたくさんあるイメージの国、フランス。もちろん食べ物は美味しいんだけど、私は日本のご飯の方が落ち着く。
空港の中のうどん屋さんで、お稲荷さん4つに、きつねうどんを平らげてしまった。
さすがに食べすぎかな。
「お前…、向こうで何も食ってなかったのか?」
迎えに来てくれた貴之と裕翔に、案の定びっくりされた。でも、今の私にはそんな男子2人の視線を気にしようという意識は全くなかった。そんな感情より、日本食にありつけた喜びの方が大きい。
「そういえば、先生が迎えに来てくれるってよ」
裕翔がスマホを見ながら言うので、私は追加で注文した天ぷらをかじりながら、スケッチブックに綴る。
「バカ。食い終わってから書けよ」
貴之の指摘通り、行儀悪いし、女子として減点されかねない行動だったけど、この2人なら減点されない。
とん、とスケッチブックを立てた。
【何時くらいに来てくれる?】
「あと1時間ぐらいかかっちゃうかも、だから…、4時くらいか?」
私は、天ぷらをザクザクと音を立てながら豪快に食べて、会計をちゃっちゃと済ませると、急ぎ足でお店を出る。
【せっかくだから、空港のお土産屋さん見て回ろう】
そう提案して、貴之と裕翔の手を引いて、私は歩き出す。
貴之と裕翔の手を引いて歩くなんて、何年ぶりだろう。男子2人は照れしかなかったかもしれない。でも、私にとっては、なんだか懐かしい時間だった。
「セオリー、良かったのか?」
裕翔が聞くので、私は首をかしげる。
「ここに残ることにして。セオリーの母さんも、フランス行くんだろ?」
「セオリーが決めたことなら…とは、俺たちも思ってる。でも、後悔してないか?」
両側から尋ねられ、私は微笑んだ。
この2人はいつもこう。私の両側に立って、私のことを心配して、私のことを守ってくれる。
この2人だけじゃない。先生も、叔父さんも、後輩たちも、私は1人ではなかった。
【みんなと一緒にいたいの】
私はありのままの笑顔を浮かべながら、スケッチブックに綴って見せた。
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