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映画『そばかす』

 先日久しぶりに映画館へ行き、映画『そばかす』を観た。

「恋愛をしたことがない、そういう感情もない。 だけど楽しく生きていける―」 それが私だと思っていた。
私・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。
チェリストになる夢を諦めて実家にもどってはや数年。 コールセンターで働きながら単調な毎日を過ごしている。
妹は結婚して妊娠中。 救急救命士の父は鬱気味で休職中。 バツ3の祖母は思ったことをなんでも口にして妹と口喧嘩が絶えない。 そして母は、私に恋人がいないことを嘆き、勝手にお見合いをセッティングする。
私は恋愛したいと言う気持ちが湧かない。 だからって寂しくないし、ひとりでも十分幸せだ。 でも、周りはそれを信じてくれない。
恋する気持ちは知らないけど、ひとりぼっちじゃない。 大変なこともあるけれど、きっと、ずっと、大丈夫。
進め、自分。
映画『そばかす』オフィシャルサイト より


 この映画の主人公は恋愛感情を持たない、いわゆるアセクシャルと呼ばれるセクシャリティである。

 近年、アセクシャルを題材としたり登場人物の中にアセクシャルを自認しているキャラクターがいるような作品は増えつつある。

 異性愛、同性愛に比してどうしても認知度が低く、存在が認識されづらいため作品の中にはどうしても説明的な部分が多くなりがちに感じられるが、この映画「そばかす」では作中に一度も「アセクシャル」という言葉が出てこない。

 それがなんだかとても新鮮で、印象的だった。

 家族に対して、自分は恋愛感情がないと伝えるシーンがあるが、基本的には淡々としていて、アセクシャルやアロマンティックの人がこの世の中に当たり前に存在している日常が描かれている。

 その当たり前の日常が故に、恋愛のことばかりな世の中や周囲の人間に辟易している人ならどうしたって嫌な気分になるようなことは度々に起こる。
 私自身の日常を観てんのかってくらいにあるあるオンパレードで悲しさすら感じるものの、この映画が作られていること自体が、アセクシャルという存在が知られてきている何よりの証拠だと思う。


 この映画の存在を知った時、はじめは観に行くか悩んでいた。
 アセクシャルを取り扱う作品において描かれる日常は大抵どうしようもなく辛いことが詰め込まれがちでそれを観たくなかったし、逃げ場がない映画館の大スクリーンでそんなもん観て耐えられるのか?という懸念があったからだ。


 数日後、主演を務めた三浦透子さんのあるインタビュー記事を読み、観に行くことに決めた。

ーーー映画で描かれる「好き」も恋愛か友情か。だから、アロマンティック・アセクシャルの方々の感覚が理解されにくいのかもしれません。

三浦:アセクシャル、アロマンティックの方達の悩みとして一番大きいのが、周りに信じてもらえないことだそうです。「ない」ことを証明するのはすごく難しい。周りの人から「まだ本当に好きな人に出会えてないだけなんじゃない?」と言われても、そうじゃないということを証明することができないと。自認することも難しいセクシャリティだそうです。だから、まず、このセクシャリティについて知ってもらうことが必要で、この映画の企画が立ち上がった理由の1つはそこにもあります。この映画を製作するにあたって、当事者の方々から意見を頂いて、それを映画に反映させています。誠実に向き合ったということは自信を持って言いたいです。でも、だからといって堅苦しい話ではないし、セクシャリティのことだけを描いているわけではありません。
映画『そばかす』主演の三浦透子インタビュー より


 私自身、自分がアセクシャルと自認して随分経つが、自認した当時はこんな作品も全然無かったしネットで調べに調べまくってやっと見つけたアセクシャルという言葉にかなり救われた経験がある。
 恋愛感情が分からないとやんわり伝えても分かってもらえない、そんな人いるわけないと言われることは1番悲しくて辛いことだった。

 アセクシャル、アロマンティックというセクシャリティの存在を知ってもらうことって簡単なようで本当に難しいのだ。

 この題材にこんなに誠実に向き合ってくれた人たちがいること、その事実がとてもとても嬉しくてたまらなくて、観ないといけない!という半ば使命感を持って映画館へ向かった。

 この映画はきっと誰かの救いになる。

 こういう人もいるんだなと思うこと、自分だけじゃないんだと知ること。
 自分自身を肯定できるような、そんな作品だった。


 そして映画全編を通して、主演の三浦透子さんはもちろん素晴らしいけれど、とにかく前田敦子さんの演技本当に最最最高で最強なので、ちょっとでも前田敦子さんが好きな人は全員観てほしい。

 三浦透子さんが歌う『風になれ』が流れるエンドロールでは観てるこちら側まで走り出したくなってしまうような気持ちの高鳴りを感じた。 
 とてもとても素敵な曲で、すてきな歌声です。


 生きづらいことが沢山ある世の中だけど、どこまでも走っていけそうな、そんな気分


#映画感想文 #映画 #そばかす

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