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Movie 12 庵野監督全開フルスロットル/『シン・仮面ライダー』

 3月に書いたこの記事。
 うっかり3か月ほども寝かせてしまっていた。
 ライダー好きを公言する私としては、観ないわけにはいかない映画ではあった。

 映画を観て、少しモヤモヤしていた。モヤモヤしていたところで、この特番を観た。


 『シン・仮面ライダー』制作の過程を追うドキュメンタリー。

 『シン・仮面ライダー』のキャストが発表になった時、なんで池松壮亮さんなのかな、と思った。別に池松さんが悪いわけじゃなくて(池松さんは好きだ)、歴代仮面ライダーは比較的若い人が演じて来たし、単純にもう少し若い人を起用してもいいんじゃないのかなと思ったのだ。目黒連くんとか。

 2号ライダーも柄本佑さんが演じるというし、キャストはヒロインや蜂オーグを除いてみんな30代以上。どうしてなんだろうと思っていた。

 でもこのBSプレミアムを観て納得した。

 若い人にはこの現場、たぶんきっと無理なんじゃないかなぁ。特に主人公は。ある程度過酷な現場を経験していないと乗り切れなさそう。

 BSプレミアムでは浜辺美波さんはじめ女優さんはほとんど登場しなかったので、女優さんについてはわからないが、少なくとも主演ふたりとラスボスの森山未來さんの3人に関しては、相当にストレスフルな現場だったのではないかと想像した。肉体的にも精神的にもタフネスを求められる現場だったことがわかって、思わず唸った。

 私は『エヴァンゲリオン』のドストライク世代ではないが、その影響力は知っているし、ひと通りアニメは観た。
 庵野監督の映画やアニメは常に話題なので、それなりに観てきてもいる。
 シン・ゴジラも、シン・ウルトラマンも、比較的楽しんで観た派だ。
 つまりは、庵野監督のオタクなこだわりを肯定しているんだと思う。

 ところがこのドキュメンタリーを観て、さすがになんだかちょっとな、と思った。
 もちろん「俳優さんとスタッフさんがこんなに努力して作り上げていたんだな、凄いな」ということはヒシヒシと伝わってきた。映画を撮るって本当に大変なんだなと思った。
 ただ、「本当に大変」の中身は、この場合ほぼ90%「庵野監督の相手が大変」なのだという気がしてしまった。

 庵野さんの頭の中にはきっと完ぺきなイメージがあるのだと思うのだが、それを最初に説明しない。まず他人のアイディアを沢山の素材にして出してもらって、目の前にバーッと広げて、自分の頭の中にいちばん近いものをピックアップしていく感じだ。

 「とにかく演ってみて」→「いっぱい撮って」→「違う」→「撮りなおし」→「違う」→「撮りなおし」→「違うんだよ!(切れ気味)」→「撮りなおし」・・・

 そのエンドレスが観ていても辛かった。
 現場の人でなくても「何を求めているかはっきり言ってください」と懇願したくなる。でもそれじゃダメなんだそうだ。
 努力して撮影した映像が全部捨てられてしまうから、虚しさだけが募る現場。撮影の後、池松さんが「どうせ撮り直しでしょ」と言った絶望感さえある言葉が忘れられない。そんな状況でも監督の頭の中に近づけるために必死になるアクション監督やスタッフさん、キャストの方たちの忍耐力に感服した。

 しかもカメラやスマホを何十台も使って撮影していて、せっかくの映画なのになにもスマホで撮らなくてもと思ったりもした。少々無駄遣いに感じられてしまった。時間とお金と、キャストやスタッフのエネルギーと、カメラと、電気の。いや、無駄遣いというのではなく、それは「贅沢」と言い換えるべきものなのだと思うけれど。

 インタビュー記事やネット記事などを読むと、それが庵野さんの特徴であって、いまさら驚くことではないのだという。監督の個性、というものなのだろう。

 正直、肝心の映画のことを語る前に、もうBSプレミアムでお腹がいっぱいになってしまった感がある。監督はじめ全員がより良いものを創りたいと思って努力していたのは間違いないと思うけれど、それが真っ暗闇で手探りするようなものだったことを、驚きつつ知った感じだ。

(この先は映画のネタバレがあります。これ以上知りたくない方は、ここまでで)。



 さて私は、『仮面ライダー』をリアルタイムでは観ていない。再放送ではたまたまブラウン管のテレビで観た回があったかもしれないが、私のリアルタイムは『仮面ライダーアマゾン』だった。

 DVDで改めて『仮面ライダー』を観たとき、あまりのホラーさ加減にびっくりして、「怪奇蜘蛛男」(第1回)ですでにギブアップだった。その後飛び飛びでいくつかの回を観たが、これが本当に子供向け番組だったのか、と驚いた。画面も暗く、怪人は不気味で怖く、主人公は影を背負っていた。

 私はマーベルで唯一『スパイダーマン』が好きなのだが、仮面ライダーもスパイダーマンに似た「大いなる力には大いなる責任が宿る」といった、葛藤と矛盾の影を背負う、孤独な主人公だ。仮面ライダーであることをひた隠しにして、陰から人々を救う存在。

 今回の映画では、冒頭からショッカー戦闘員との激しい乱闘が描かれ、鮮血が血しぶきとなって飛び散るグロ度の高い画面にショックを受けた。驚いたけれど、これは「リアルな暴力」を追求する気満々なのだなと思った。確かに何トンもの力で殴打されてただ気絶するだけでは済まないのが当然で、大人としてはそういうリアリティに説得力を感じるのだが、いっぽうでは「子供向け」の部分も残していて欲しいような、妙な気持ちになった。

 映画にするからには「肉感的」なものが必要で、リアルな暴力性がないならアニメでいいと庵野さんはBSプレミアムで言っていた。
 確かに仮面ライダーは強い。
 敵となる怪人、オーグたちも生物の特殊能力を活かした斬新な攻撃力を有していて、強い。
 でも映画にはショッカー本部はほとんど出てこないし、ショッカーの先鋭部隊である幹部オーグ(怪人)たちが自分の欲望のために活動しているだけで、そのうえ蝶オーグが「人類補完計画」的なものを実行しようとしているのに至って、戦う目的がちぐはぐで、アクションが行き場を失ってしまうような、観客が置いていかれるような、そんな場面がところどころあったように思う。

 蜘蛛オーグとの闘いの時は1号の名シーンのオマージュがいっぱいあったのがわかったが、蜂オーグの時はなんだか画面が荒くて暗くて何が起こっているかよくわからなかった。蝶オーグの森山未來さんと闘うシーンでは、森山さんはダンサーなので、ちょっとダンサブルな戦闘シーンを想像していたのだが、実際はなんだかプロレスみたいだった。蝶なので華麗に舞うのかなと思っていた。蠍オーグ(長澤まさみさん)は政府(公安)が倒してしまって、見せ場がほぼなかった。

 そもそも、ショッカーがどんな存在かがいまひとつピンと来なくて、そこにも少し置いてけぼり感があった。

 振り返れば、それがモヤモヤの理由だったのかもしれない。

 仮面ライダーWEBによると『仮面ライダー THE FIRST』『仮面ライダー THE NEXT』ではショッカーの正式名称は「Sacred Hegemony Of Cycle Kindred Evolutional Realm」だったらしいが、本作では「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling」になっている。
 サスティナブルでハピネスな組織。時代を感じる。おそらく「サイバー&バイオハザード+カルト」的な集団なのだと思う。

 シン・ゴシラとシン・ウルトラマンには、日本の抱える危機みたいなものが描かれていたけれど、シン・仮面ライダーにはあまり感じられなかった。かといって人間としての葛藤みたいなものも少々薄く感じた。

 竹野内豊さんと斎藤工さんはシン・ゴシラからのキャストだが、コバヤシとタキというのがおやっさんとFBI捜査官のオマージュだとしても、彼らの立ち位置もいまひとつ不明瞭だった。
 蠍の毒はあの1発だけだったんだろうか・・・

 きっとリアルタイムの初代『仮面ライダー』視聴者にはため息が出るようなムネアツのシーンが忠実に再現されていたのだと思う。サイクロン号は漫画から抜け出したようだったし、主人公は本当にバイクを愛する「ライダーバイク乗り」でバイクのシーンもいっぱいあった。

 映像は全編庵野さんらしさが全開だったとは思うのだけれど、私の感覚はもう少し「子供だまし」を求めていたのかもしれない。私はライダーファンとしてはひよっこ、ということなのだろう。

 『仮面ライダー』へのリスペクトとオマージュと言えば、『仮面ライダーダブル』は相当良くできていたんだなと改めて思った。風都という架空の街の設定も、ふたりでひとりのライダーが脳内で会話するところも、赤いマフラーも。オマージュと斬新さがミックスされた物語が面白かったし、そして何より、子供と一緒に観ても楽しいものだった。

 最後に、『レッツゴー!! ライダーキック』などの主題歌をすべて子門真人が歌っていたことをこの映画で初めて知った(藤浩一は子門真人の別名だったということを、この年まで知らなかった)。

 庵野監督のこだわりをフルスロットルで感じられる『シン・仮面ライダー』。シン・ゴジラから徐々にこだわり度が増し、新規層にとってはどんどんハードルが上がっている気がする。この作品の評価の落としどころは、庵野さんが好きか嫌いか、ということに尽きるのかもしれない。

 最後に、ヒロインの浜辺美波さんは魅力的だった。

 私は浜辺さんをしっかり観たのがこの映画が初だったので、今の朝ドラの『らんまん』も楽しみにしていたし、実際、毎朝、寿恵子さんが出てくるのを楽しみにしている。本好き寿恵子さんが南総里見八犬伝に夢中になる場面がたまらなく好き。

 あら。最後は『らんまん』の話になってしまった。失敬。






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