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freestyle 20 カカポ

 耐えられなくて、書いている。

 中学生の息子。
 noteでも散々ネタにされて、そもそも最近はそんなに寄ってこない息子が、「ちょっと」と私を呼び止めた。

 何?

 警戒して、適当にあしらう。

 彼の「ちょっと」には、いいことがない。


 提出日過ぎてるプリントを渡してきたりとか。

 ジャージの下がないんだけど、とか。

 明日弁当なんだけど、とか(深夜に)。



 「これ」

 差し出されたスマホは、私のだ。

 「ちょっと!なんで私のスマホ?」
 「いいから、見て。可愛いから」

 なに?カワイイとな?
 猫の写真とか動画かな、と思って、しぶしぶ見た。

 そう。
 私は、それを見た。

 カカポ。

「なにこれ」
「なにって、カカポだよ」
「なに、カポポって」
「カポポじゃない。カカポ。フクロウオウム」
「フクロウオウム、って、フクロウなの?オウムなの?」
「オウムでしょ」
「でかい」
「そうだよ。でかくて重くて、飛べないらしい」

 最初は、「あ。そう。そういう鳥もいるんだね」で終わった。

 数分後。

「なんで飛べないのかな」

 まだカカポに執着している息子。
 気になってたまらなくなり、ググり始めたようだ。

「えー。天敵がいないからでしょ。キウイみたいに。どっかの島の固有種とかはそういう進化するんでしょ。逃げ足早かったりするんだよ。キウイも逃げ足早かったよ(これはニュージーランドの動物園で実際に見た)」

 すると突然、息子がグイグイ私に私のスマホを押し付けながら言った。

「カカポってさ、ニュージーランドの鳥で絶滅危惧種だって。カカがオウムで、ポが夜って意味の、マオリ語らしい。夜のオウムだって」

 なにこれ。こんなにグイグイ来る息子、幼稚園以来ぐらいだけど。
 この情熱をぜひ!勉強に向けてほしい。

 などと思いながら彼の差し出す画面を見る。

 最初はふうん、と読んでいたが、

「かわいがるなというほうが無理」


 こんな言葉が飛び込んできた。

 かわいがるな…というほうが…無理。

 どんだけカワイイというのか!

 カカポはかなり変わった鳥だ。世界で唯一の飛べないオウムで、夜行性。体重4キロの体で地上をよたよたと歩く。敵に見つかると、その場で固まって動けなくなる。緑色のまだら模様は森の中で身を隠すのに適しており、太めのくちばしは顔をコミカルに見せる。

 ナショナルジオグラフィックの記事は登録制でこれ以上読めない。

 次の瞬間から、我々はなぜか、取り憑かれたようにカカポについての記事を追い求め始めた。

 体長は60㎝くらい。体重は4キロほど。
 同じくらいの体長のあるカラスと比べたらかなり重い。

 ニュージーランドでは最初、哺乳類がほとんど存在せず、ワシやタカなどの猛禽類くらいしか天敵がいなかったため、飛べなくても動けなくても生き延びることができていた。

 また繁殖方法が独特で、特定の木の実のある時期に数年に一度しか繁殖せず、そう簡単に数を増やせない。この特定の木の実というのが、メスの妊娠に必須だかららしい。しかも繁殖行動も、オスが集まって穴を掘り、その中にすっぽり埋まってメスを待ち構えるという変わったやり方。交尾後はつがいになることなく、メスはオスを巣から追放する。

 一時期は、大繁殖していた時代があった。

 初めて人間が島に来たのは1000年ほど前で、当時のマオリ族の人々は、警戒心が薄く人間にも容易に捕獲できるカカポを、食用や飾り、ペットなどにしていたという。さらに19世紀に入って西洋人が入植すると同時に、ネズミやオコジョ、イヌ、ネコ、イタチなどの外来動物が大量に島にやってきて、一時期は絶滅したかと思われたほど。

 それでもなんとか生き延びていた個体がいたものの、1995年には50羽ほどにまで数を減らした。

 現在は手厚く保護されている。
 上記の2019年の記事も、繁殖に成功しているというめでたい記事だった。

 しかしそれよりもなによりも我々が惹きつけられたのはカカポをめぐる表現だった。

体臭がいいにおいで、ハチミツやフリージアみたいなにおいがする。

 という記事もあれば、

「カビたバイオリンケースの匂い」
「フルートケースの匂い」

 と言う記事も。

 なんで、カビてる限定?
 しかも楽器ケース限定?

 いったい、本当はどんな匂いなの…??

 いい匂いなの?
 臭いの?
 どっち⁉️

 しかし、この体臭が他の動物を惹きつけるらしく、襲われたら動けなくなるのにすぐ見つかってしまうらしい。

 な、なんて悲劇的な鳥…

 するとまた、こんな表現も。

その昔は、木をゆするとカカポがリンゴのように降って来たという

 カカポ…カカポが…
 リンゴのように、降ってくる…?

 性格の個体差が激しく、人懐っこいカカポもいれば、気難しいタイプもいるらしい。中には人間に恋をするカカポまでいるとか。

 基本的には孤独を好み(オウムよりフクロウに近く、群れないということだろうか)、平均寿命は60歳ほど。個体によっては90歳まで生きるものもいるようだ。

 ニュージーランドでは政府が全力で保護しているため、普通は見ることができない。現在はニュージーランド沖の4つの島に野生のまま隔離され、繁殖の成功で200羽以上にはなっているようだ。1年に1回ほど(たぶん健康診断で)、親善大使に任命されている「シロッコ」というカカポだけが、Twitter上に現れるとか…

 シロッコは生まれてすぐ病気をして、人間の手で育てられたので、人間にしか興味をもたないそうだ。2009年にBBCのテレビクルーが入ったときにスタッフをメスと間違えて交尾しようとしたらしい(人間に恋をするというのはシロッコのことだと思われる)。

 な、なんですとーーー

 気づけばカカポに夢中になっていた。

 カカポの生態もそうだが、何より、カカポをめぐる表現が面白すぎる。

 カカポが出てくる本があるらしい。

 最初は、こちらの本を読んでから、記事を書こうと思っていた。

 しかし、耐えられなかった。

 こんなの知ったら…

 書くなという方が無理。
 

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