Amazing Grace(1)

毎年この時期になると、賛美歌を耳にする機会が多くなります。
たくさんの賛美歌がありますが、今回紹介するのは『Amazing Grace』です。

作詩者のジョン・ニュートン(1725〜1807)はイギリス人であり、英国国教会の牧師でしたが、今回は彼が牧師となり、この詩を書くに至るまで歩んできた、神様の起こした奇跡に満ちた、数奇な人生を紹介したいと思います。

図1 ジョン・ニュートン

ジョンの母親は敬虔なクリスチャンでした。体が弱く、世間から離れた静かな生活を好んでいた母親の関心は、一人息子の教育への心遣いに注がれました。
幼少期の彼に聖書を読んで聞かせたり、賛美歌や詩を教えたりしていました。
ジョンも、同年代の子どもたちと遊ぶことより、母親と一緒に学びたいという強い意欲をもっていたそうです。
ジョンの母親は、神様にたくさんお祈りをし、涙を流しながらジョンを褒めており、ジョンを将来は聖職者に就かせたいと考えていたようですが、残念なことに、ジョンが7才になる少し前に急逝してしまいました。

ジョンの父親は航海士であり、地中海貿易の船長でした。翌年帰国した父親は、ジョンの養育のために再婚しましたが、ジョンはすぐに親元を離れ、寄宿学校に送られました。
寄宿学校では、理不尽なほど厳格な校長によって心が打ち砕かれ、母親から数年前に学んでいた算数の基本的な原理や公式も忘れ、読書への興味もなくしていたようです。
結局、ジョンは寄宿学校を10才で辞め、11才から父親と一緒に航海に出るようになりました。
この時期のジョンの気持ちや行動は、極端に変わりやすいものだったそうです。
宗教のことはほとんど気にかけていなかったので、周囲の人からすぐに悪い印象をもたれていました。
とは言っても、罪の悔悟に悩まされることも多く、祈り、聖書を読み、日記をつけたりもしたそうですが、そんな生活は長く続かず、かえって前よりも悪い精神状況に陥っていたそうです。
まるで、マタイによる福音書の『汚れた霊が戻ってくる』たとえのようです。

「汚れた霊は、人から出て行くと、砂漠をうろつき、休む場所を探すが、見つからない。それで、『出てきたわが家に戻ろう』と言う。戻ってみると、空き家になっており、掃除をして、整えられていた。そこで、出かけて行き、自分よりも悪いほかの七つの霊を一緒に連れて来て、中に入り込んで、住み着く。そうなると、その人の後の状態は前よりも悪くなる。」
(マタイによる福音書 第12章 43節〜45節途中)

しかし、そんなジョンのことを、神様は見捨ててはいませんでした。
12才の頃、ジョンは落馬して地面に投げ出されました。
彼が落ちたところには、切られたばかりの生垣があったのですが、わずか数インチのところで、生垣の上に落ちることを免れ、命拾いをしました。
その体験があって、ジョンは神様を冒涜するような行いをやめ、改心したように見えましたが、再び堕落するのにさほど時間はかからなかったそうです。
また、ある日曜日、ジョンは友人たちと礼拝をサボって軍艦を見学に行く約束をしていました。
しかし、ジョンは遅刻してしまい、見学のボートに乗り遅れてしまいました。
すると、そのボートが転覆し、ジョンの友人たちは亡くなってしまったのです。
ジョンは、自分が遅刻して命拾いをしたのは神様の計らいだったと考え、それまでの行いを反省しましたが、やはり長続きはしませんでした。

そのように、神様に救われてはまた悪の道に走るジョンに対して、神様は違った方面からアプローチをなさいました。
ジョンの父の友人が、ジョンの将来の面倒を見るから、数年間ジャマイカに送ろうと申し出たのです。
同時に神様は、ジョンに、ケント州にいる母親の友人宅を訪問するよう招待状を送り与えました。
ジョンはここで、将来の妻となる少女メアリーと出会い、愛する気持ちをもちます。
信仰も希望も良心もなくしたジョンにとって、彼女への愛だけが唯一の心の支えでした。
ジョンは、ジャマイカのような遠隔地で4年も5年も生活はできないと考え、3日滞在する予定だったケント州に3週間も滞在し、ジャマイカ行きの船が出航するまで居座り続けたのです。
しかし、ジョンには自分の思いを彼女に伝える勇気がありませんでした。
ほどなく、ジョンは父親の友人とともに、船員としてヴェニスへ航海に出ました。
この航海では、他の船員たちの悪い手本を四六時中見せられ、また執拗に誘われたため、再びジョンの生活は荒れていきました。
こんなジョンに対して、神様は夢を見せ、自分の行動を抑制せよと警告を与えました。
その夢の内容については、次回書きたいと思います。

参考文献:
「アメージング・グレース」物語(増補版)
   ゴスペルに秘められた元奴隷商人の自伝
 ジョン・ニュートン著  中澤幸夫 編訳

画像引用元:Wikipedia ジョン・ニュートン



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