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せいかつの軌跡(38)

誕生日がやって来た。

いつもよりゆっくり朝起きて、豆と豚肉、野菜を炒め、トマト缶を入れて煮込んだものを作って食べた。生理前は肉が食べたくなる。哲が淹れてくれた珈琲を飲んだあと、散歩に出る。ストライダーに乗ったトモシが華麗な運転を披露してくれた。ヴーン!と時速200キロくらいのエンジン音を叫びながら走る彼は本当に楽しそうで、見ている私も楽しい気持ちになる。それぞれ好きなことをやって、応援し合えたらいいな。

昼過ぎに、友人の展示を観に行った。今回のテーマは、来年の干支であるウサギ。会場のガーデンカフェは、ウサギをモチーフにした布小物や版画が丁寧に飾られ、愛しげな空気に満ちていた。彼女の作品を観る度、自然やいのちを慈しむ心がその色や形に表れているように感じる。豊かな彩りと余白のある時間・空間は、私を「どこか素敵な所」へ連れて行ってくれた。

帰宅してトモシを寝かしつけ、映画を観た。今回選んだのは、フランソワ・オゾンの「スイミングプール」。刺激的な物語と美しい描写の世界に引き込まれた。鑑賞後に哲と感想を話し合うと、お互い全く別の作品を観ていたのでは?と思う程、解釈や感性の違いを感じてまた面白かった。映画も現実も、それぞれが見たいように見たいものを見ているのかもしれない、と思う。

夕飯はチョリソーを焼いて、ビールで乾杯した。
「若いなー。人生、まだまだこれからだね。」
と哲が言う。去年も同じような事を言っていた。私は彼より、十七年ぶん若い。毎年そう言ってもらえたら、ちょっと得した気分になれそう。

二十歳を過ぎてから誕生日への関心が薄まる一方だったけれど、今年は何かが違う。
過去を嘆き悲しむことに多くの時間を費やし、あまり長生きする自信が無かった自分が何とか二十代を生き延びた。じわじわ湧いてくる、達成感や感謝のようなもの。生きてきた日々そのものが、これからを生きるよすがになってくれそうな気がする。
歳をとっていくのも案外悪くない。
この調子で、何となく良い感じのおばあちゃんになりたい。


「おめでとう」忘れてた今日誕生日
「今まで」「これから」、ビールで乾杯


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