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【弁護士野村の3分読むだけ法解説】知っておきたい『炎上・不祥事対応のリスク~炎上・不祥事対応の社員の過重労働~』について #15

こんにちは。弁護士の野村拓也です。
いつもnoteをお読みいただきありがとうございます。
前回のメルマガでは、『SNS規程およびSNS研修について~過去の炎上事例の紹介ととるべき対応策~』についてお伝えしました。
今回は、『炎上・不祥事対応のリスク ~炎上・不祥事対応の社員の過重労働~』についてお伝えいたします。


『炎上・不祥事対応のリスク~炎上・不祥事対応の社員の過重労働~』について




《事例》
食品会社A社は、生産した製品に虫が混入していたというSNS投稿に端を発し、清掃の行き届いていない工場の写真等内部情報のリークもありSNSで炎上しました。その炎上が新聞、テレビでも報道されることになり、A社の広報担当者Xは1人で社内および社外での対応のために、1ヶ月あたり90~180時間の時間外労働が半年程度続きました。(もっとも、Xさんは長時間労働を隠すためにタイムカードを夜間土日につけていませんでした。)
SNSの炎上から半年経つ頃、Xはうつ病の症状が出始めてA社に出社できなくなりました…

1. 長時間労働と労災~精神疾患でも労災になるのか~


(1)労災は、一般的には工場勤務で機械に指を挟んで指が切断された場合や、薬品工場勤務で薬品が溢れてやけどを負った場合をイメージし易いですが、長時間労働による精神疾患も労災と認定される場合があります
精神疾患についての労災申請は年々右肩上がりに増えています。

(2)精神疾患についての労災認定は、
【1】労災対象疾病を発症していること
【2】対象疾病発症前の概ね6ヶ月の間に業務による強い心理的負荷があること
【3】業務以外の心理的負荷のかかるような事情や個人の特性がないこと

の3つを全て満たす場合に原則行われます。


【2】の強い心理的負荷については、発症直前の1ヶ月で160時間を超える時間外労働があれば概ね認定されますが、他の要因もあるので160時間なければ問題ないという訳ではありません。
また、【3】については業務以外の心理的負荷のある出来事(例:家族の死など)がないか、またアルコール依存症等の特性が当該従業員になかったかが問題になります。

(3)想定事例のように、100~180時間の時間外労働を半年間行っていたXさんについては、仮にその間に親族が亡くなる等の事情があっても問題なく労災認定がなされると思われます。

2. 会社の責任~労災認定されたら会社が責任を負う?~


(1)Xさんのうつ病について、長時間労働が原因であったとして労災認定がされXさんは労災保険から給付を受けることが出来るようになりました。しかし、A社には何の責任もないということにはなりません。

(2)Xさんと同じように会社に虚偽の労働時間を申告していた場合であっても、会社には労働者の適正な労働時間を把握する義務があることを理由に、会社の責任を認める裁判例があります。
また、長時間労働を行っている従業員に対して、会社が残業を注意していた場合であっても、その注意が単なる口頭の注意に留まっていた事例において、会社は会社への出社を禁止し、入館を拒否するなどの方法をとるべきであったとして会社の責任を認めている裁判例もあります。

(3)A社は、労災保険で給付されない通院慰謝料等の損害をXさんに賠償しなければならない責任を負います。(Xさんが仮にうつ病を原因とする自殺をしていた場合、数千万円単位の賠償責任が発生します。)

3. 会社の対策

(1)一部職種(運送業等)認められている時間外労働の上限規制の猶予も2024年3月末で終了になります。
その他の職種では既に時間外労働の上限規制への対応をとっていると思いますが、形式的なものでなく実質的に上限規制に対応できるように適正な時間管理ができるよう対策をとるべきです。

(2)具体的には、
【1】タイムカードのみならず、入館記録やパソコンログ等から従業員の労働時間を管理できるような体制づくりを行う
【2】時間外労働が発生している従業員に対して、なぜ時間外労働が発生しているのかを聴取して適切な業務分量となるように人員配分を行う
【3】業務の無駄を排除して時間外労働が減るようにする
等が考えられます。

■ 最後に

法改正によって残業代請求権の消滅時効が3年に伸びたため、時間外労働に対して適切な残業代を支払っていない場合に会社の予期せぬタイミングで残業代請求が来るかもしれません。
そもそも採用難の現在で、長時間労働により従業員が労災になってしまい出社できないとなると人員補充もできず、残った人にまた負荷がかかり長時間労働になるという負のスパイラルが生じてしまいます。
そのような事態に陥らないためにも、従業員の労働時間を適切に管理して、業務の無駄を省き生産性の高い会社にしていくことが大切です。

▼次回テーマ▼
2023年5月成立の改正景品表示法の概要をお伝えします!


【未来創造弁護士法人】 www.mirai-law.jp

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