見出し画像

経営における組織構築 〜リーダーシップと人の評価軸〜

経営者にとって悩ましい「組織構築」。東証一部上場企業(当時)のベトナム現地法人やベンチャー企業等で代表を経験してきた弊社 Director 木村が、”スターバックスコーヒージャパン”や”THE BODY SHOP”など、数々の有名企業で代表を歴任され、経営には「人がすべて」と語るリーダーシップコンサルティング代表 岩田 松雄氏に、企業にとって良い組織とは何か、その秘訣を伺いました。好ましい経営チームのつくり方等、すぐさま実践しやすいノウハウを生々しくご紹介いただいていますので、ぜひ御覧ください。


対人は業務プロセスで判断する

木村:本日は、経営を担う上での重要かつ難しいポイントと感じている「組織構築」について、岩田さんにお話をお伺いしたいと考えております。よろしくお願いいたします。組織構築、つまり人とどう向き合うか、ということですが、試行錯誤をしながらも中々思った通りにはいきません。そんな中でも経営ですから判断し、遂行していかなければいけないときに、瞬間瞬間でどのように向き合い、伝えていくべきか、岩田さんのお考えをご教示いただけましたら幸いです。

岩田:その話を聞いて、一つ私が思い出すのが漫才師で西川きよしさんと横山やすしさん(当時コンビを組まれていた)です。普段の生活は全く交わらないけど、漫才をしているときだけは絶妙な掛け合いをみせる。それがプロってことだと思うんですよね。会社経営も同じで、社内の経営メンバーと相性が合う合わないというのは人間だから当然あります。そんな時は結果を大切にして、ある程度割り切りながら進めていくしかないですよね。もちろん、仕事が終わった後も肩組んで笑いあえるような関係が理想だけど、お互いプロとしてきちんと結果を出せば良しとする。

木村:プロとして接していくということですね。例えば共に仕事をしていく中である人をプロではないと判断しなければいけない場面もあるのかな、と思います。その判断の基準や判断までの時間軸、また判断した際の動き方など、岩田さんはどのようにされてこられたのでしょうか?

岩田:人の評価はとても難しいですね。最初の印象と1年後の印象が違うこともあるわけですよね。裏切られることも何度もあります。例えば部長を本部長に抜擢したい時、いきなり本部長に抜擢するのではなく、例えば本部長代理とかにして様子を見る。もしその任に耐えられば正式に本部長にする。もしまだ早ければ、ご苦労さんと言って、元の部長に戻す。そうすれば本人は傷つかずに済みます。最初の印象と実際の能力が違うことがあります。部下からの評価も聞き出して、360度、いろんな方向から相手をみて評価していくしか無い。初めの印象が良くて信頼していた側近の人たちが不正していたり、上司と部下に対する態度が全く違っていて誤った見方をしていた経験を私は何度もしています。

人事判断はコミュニケーションを重ね慎重に

木村:テクニカルな答えを求めすぎなのかもしれないですが、経営ってどうしても時間との戦いだと思っていて、その時間との戦いの中での人事って早すぎる・遅すぎるのどちらかをやってしまうケースが個人的にも多いな、と。コンプライアンスや法違反などはネガティブな意味で即判断する材料だとは思うのですが、方向性の違いやビジネス軸でのジャッジなど、経営に求められる時間軸の中でタイムリーに判断するためにはどのような視点や考え方が必要でしょうか?

岩田:ケースバイケースですよね。基本人事は、いきなりガンガンでやってしまうと失敗したときに元に戻せないことがあるので、慎重にやるべきだと思いますね。とにかくファクトベースで判断していく。噂をそのまま簡単に信じないで裏を取るとか、直接その人をみて、複数の情報をもとにそのファクトを確認する。後は、本当に信頼できる人からの意見をしっかりきくとかですかね。一緒に仕事をしていくと信頼できる人とそうでない人が見えてくるとも思うんでね。情報源を見極めることかな。時間軸、3ヶ月で見極められるかといったそういうものでもないしね。インフォーマルな情報を多く集めて、人の評価は常に仮説ベースでみていくしか無いですね。

木村:私個人としても人事の失敗は山ほどありまして、自分がいけると信じて抜擢した人は中々判断し難いというか、できると見込んで抜擢したからこそもう少し待てば成ってくれるんじゃないか、と期待もありつつ悩みます。この人事後の判断がスムーズにできるような方法論などございましたら是非お伺いしたいです。

岩田:自分の責任にもなりますしね。ポジションによってケースバイケースだけど、例えば人の多い部署とかは人徳が重要になってくるのでそこをみる、専門系の職種ならプロとしてのスキルをみるとかね。限られた時間で結果をださないといけないなら、情報を集め、本人とコミュニケーションとるしかないですよね。社長の前では、いい顔する人が多いから、現場の声がどうなっているかをきく。人事に関しては、迷ったらやめる、延期するっていうのは大事です。外資系の早い人事評価ってやり方もあるけど、私は日本式の慎重に人事評価する姿勢がいいと思います。そういえば、以前 スターバックスの代表していたときに「私がもし社長ならなかったら誰になって欲しいですか?」って周りの人にきいたことがあったけど、これは良かったですね。

木村:次期社長候補を社員に聞いてみる、というのは確かにやったことがないですね。複数の方から同じ候補者の名前が上がると、幹部登用時の有力な判断材料になりそうですね。

岩田:本来なら執行役員とか、社内から名前があがるといいんですけどね。名前が何人もの人から上がれば、その人は社内で徳を積むことができている。つまり人望と能力があるということですね。社長と役員ってまた見方が違っていたりしますね。

社長は”ラストマン” 。会社・組織の細部から全体まで広範囲に責任をもつ

木村:仰られた通り、社長でないと見えないものってあると思うんですよね。私自身のこれまでの経験ではその組織は社内取締役は社長のみ、ということで私は社長以外の取締役経験がないというかその景色を見たことがないんです。やはり両方経験してこそ違いもより鮮明になるとは思うのですが、社長しか経験したことがない論で言うと、社長は非常に広範囲を細かく深いところまで気にしています。見ていないように見えても心配で仕方がないので結局見ている。この全体に責任を持つ、緊張感を持つというのは間違いなく別次元の経験だと思います。これを経験しているかいないかで、全然違うというか。その意味で私は社長・CEO以外を経営とは呼んでいないんです。一方で他の取締役がいる場合、その社長も社長以外の取締役も見ている景色は異なると思います。岩田さんのご経験ではこのあたりはどのように捉えられていますか?

岩田:全然違いますね。社長をしている時は24時間365日会社のことを考えていました。コミットメントの度合いが、他の人とは次元が違います。社長と副社長の違いは、副社長と平社員との違いより大きいってよく言われたりするけど、社長は”ラストマン(=最終責任者)”なんですよね。部門の最適解をみる役員と、会社全体をみる社長とでは視点も違う。入ってくる情報量もぜんぜん違います。
私が早い段階から将来性のある人材には、小さな会社からでもいいから、社長の経験を積ませて教育していく必要があると思っています。何よりもトップとしての経験を積むことが大切です。いかにトップの大変さを理解してもらうかが大切です。

木村:これまでのお話の中にもヒントがあったように思いますが、社長と社長以外で見えている景色やスキルにも違いがある中で、それを踏まえてどういうチームを作っていくべきか、経営においては重要なテーマであると考えています。最近は「CxO」もたくさんあってポジション上「役員」と呼ばれる方々が本当に増えている中で、例えば私達MIRARGOがグロース支援としてスタートアップに参画するなかでも、既に多数のCxOレイヤーが形成されている企業もあります。こういったチームをもっと良くしていく、もしくは私達がチームを作っていくとなったときに、彼らと見えているものの違いがある中で、それをどのように提示していけばよいかと…。

岩田:経営には人事権が重要ということをきちんと理解しておかないといけないですね。私は経営イコール人事だと思っています。CxOの役職に就いているけれど、(その人が)能力的にも人格的にも厳しいとなったときには、ステップダウンしてもらうだけの人事権を担保できるようにしておく。何よりも抜擢人事や昇格人事はとても慎重に行うべきだと思います。

良いチームづくりは互いの信頼関係から

木村:岩田さんが経営に携わられてきた、または顧問として外部から企業をみられてきた中で、CEOに必要な人事権を担保しつつチームも自由に作れる状態で、「この社長は素晴らしいチームを作ったな」と評価される事例はございますか?あるとするとどのようなチームでしょうか?

岩田:さっき言ったように、本当に友達みたいな感覚でみんなが付き合えて、例えば会社を辞めた後でも付き合いがある、そういうチームは一つ理想ですよね。それは理想だけど、一方で、仕事で一緒にやっているときはプロとしてお互いベストを尽くせる、そういうのでいいんじゃないかなと思いますね。

今、ちょうど本を執筆中でね、最近シェアード・リーダーシップって流行っていますよね。最終的に社長が判断というのはあると思いますけど、例えばマーケティングやシステムの人たちがそれぞれにリーダーシップをとれる環境をつくる。その時々でリーダーを変えて業務を執行するシェアード・リーダーシップがもっと増えた方がいいんじゃないかなと。得意な分野の人に任せていける状態ですよね。それぞれに権限渡すと、いろいろ問題も出てくるんですけど、密にコミュニケーションとることで補う。スターバックス時代、必ず役員と週に1回「1 on 1」を行っていて、これは良かったですね。ひとり1時間で5人とやったらそれだけで1日が終わるくらい時間は取られるんですけど、いいチームは情報がしっかりと共有されてることだと思います。必要なサポートとかも早い段階でわかりますし、信頼できるのは誰か、自分の参謀には誰を置くか、といったのちの後継者を考える上での判断もしやすいですよね。いい経営チームをつくるには、やっぱりコミュニケーションをとっていくことです。必ずしも現在の役員が良いわけではなかったりしますからね。その時は人事権を行使すべきです。

木村:とても難しいことですが、誰が信頼できるのかを見極めるということですよね。

岩田:外部からの中途採用はとにかく慎重に。例えば、経営企画室のメンバーを新たに探すとなったとき、社長1人で決めきれない場合は、そのチーム全員で面談して判断していくというのもあります。

木村:人のことになると自分で自分が信じられなくなる時もあり、ある程度、自分は失敗するものだという自覚を持つというか…。

岩田:初めはそれでいいと思いますよ。(人を見極めるのは)経験、慣れしか無いですからね。ベンチャー企業でよくある失敗として、学歴や会社名の経歴書だけみて採用したけど全然上手くいかないということはよくあるんですよね。人を見るという経験が少ないとね… 御社の場合、経営支援をチームでやられるのはいいですよね。

木村:現在のMIRARGOは1社に1人で参画するケースが多いですが、今後はチームでの参画というのも増やしていけると良いように思います。大変勉強になるお話を頂き、このままずっとお話をお伺いさせていただきたいのですが、本日はここでお時間のようです。岩田さん、本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。


登壇者プロフィール

リーダーシップコンサルティング 代表 岩田松雄
日産自動車で、生産、品質、購買、財務、販売などいろいろな分野での現場経験をする。
外資系コンサルのジェミニでは、主にクライアントのトランスフォーメーションを指導する。日本コカ・コーラでは、購買を通じ、コスト削減に大きな実績をあげる。 経営者として、3期連続赤字のアトラス のリストラクチャリング実行と成長戦略の策定により黒字化、タカラでの子会社再編し、イオンフォレスト(THE BODY SHOP JAPAN)では、ブランドを再生し、売上・利益を倍増させた。スターバックスでは、新商品のローンチ、ニューマーケット開拓、新チャネル開拓を成功させ、再成長軌道に乗せる。経営において「人がすべて」の信念の下、人を大切にする経営を掲げ、 従業員のモチベーションアップを再生、再成長の原動力にしてきた。元立教特任教授、早稲田大学非常勤講師。U C L Aより卒業生百人に選出。早稲田よりティーチングアワード受賞。
サイト:http://leadership.jpn.com/

MIRARGO Director 木村 和弘
日系商業銀行での法人営業を経て事業会社に転身、欧州系エンジニアリングカンパニーや日系機械メーカー・サービスチェーン等に従事。 東証一部上場エレクトロニクスメーカーベトナム現地法人社長・SaaSベンチャー企業代表取締役社長等を歴任。 ベトナムではコンプライアンス・不良資産問題解決から事業管理体制・オペレーション改革による収益成長、 SaaSベンチャーでは収益構造転換による5年ぶり半期黒字化達成等、統合マネジメントによるターンアラウンドからのグロース転換が得意領域。 スタートアップと大企業の共創促進、経営パワーの持続的成長モデリングによる新しい産業と価値の創造、日本社会における企業環境の革新を志し、MIRARGOに参画。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?