グラップラー刃牙の18巻は、なぜ永遠に見つからないのか。
板垣恵介氏による格闘マンガ「グラップラー刃牙」独特なセリフ回しや擬音、語り切れないほど濃く、魅力的なキャラクター達。何作ものシリーズが今尚続く、唯一無二の格闘マンガだ。
わしもまた「地上最強」というテーマに惹かれた、漢(おとこ)の一人である。
ちなみに刃牙を読んだ直後はなぜだか、1.25倍ぐらい強くなった気がする。(刃牙読者には絶対に共感してもらえるハズ)
そんな愛してやまないマンガなのだが、実はわしの周りで不可解な現象が起きていた。
異変
まず前提情報として、グラップラー刃牙は全42巻が単行本化されている。もちろんシリーズの大ファンである自分の本棚には、42巻全てが並んでいた。
ある日ふと、グラップラー刃牙をいちから読み返そうと思い立った。既に何度も読み返しているハズなのだが、その度に刺激的でたまらないからだ。
1巻……3巻……5巻……8…10……
やはり1巻読み終えると「あともう一巻だけ……」を繰り返してしまい、休憩するタイミングを完全に失ってしまった。時間と数がイタズラに、あっという間に進んでいく。
18巻……アレ?
「無い」
本棚に手を伸ばしたところで動きが止まる。
ずらりと並んだ単行本……18巻だけがスッポリと抜けていた。おかしいな……誰かに貸したりもしていないのに。
探索
こういう時は初めに過去の自分を信じてみる。まずマンガを読む時は、うろついたり手に持ったままどこかへ行くという行動は取らない。基本的に、本棚のあるこの部屋で読むのがマイルールだ。
しかし現実は、室内を探し回ってみても無い。趣味のモノは、結構キッチリと整理しておきたいタイプなので、一般的に見ても散らかってはいない方だと思う。10分ちょっと室内をうろついた結果、この部屋にないことは確信。
参ったなぁ……
しかし可能性はひとつずつ潰していかなければ、マンガの在処へは辿り着けない。
「今日はこれを機に中断してしまおうか」という考えも過ぎったが、それはなんか負けた気がするのですぐに打ち消した。
グラップラー(闘争者)たるもの、折れるものか。
友人
ダメだ。この家には、18巻だけが無い。
ここで突然ある事に気づく。
……そうだ。わしは「何度も読み返している」
過去に、何度もだ。それもさっきまでの熱量を見てわかる通り、一度読み始めれば全巻、少なくとも30巻辺りまでは必ず到達する。
これで「全42巻を持っていたつもりだったが、18巻だけ買い忘れていた」という勘違いうっかりルートは途絶えた。残された可能性は……
「いや、それは絶対ない……でも」
ブツブツと独り言を呟きながら、スマートフォンを手に取る。ダメ元だろうと試さなければ。
「もしもし?」
友人はすぐに電話に応じてくれた。
「あのさ。刃牙の18巻、お前に貸したっけ?手元に無いんだけど」
「は?」
手応え、なし。それはそうだ。わしはマンガの貸し借りも基本的にしない人間、唯一マンガの趣味が合う友人にかけてみたものの、やはりそんな記憶なんて全く無い。やはり諦めるしかないか……
「ごめん。なんでもないわ」
「あ、ちょっと待って」
通話を切ろうとした瞬間、友人は何かを思い出したような声を挙げた。通話口の向こうからドタドタと駆け足が聞こえる。
「もしもし?」
ややあって、友人の声。
「もしもし。どうしたよ?」
「いや〜思い出したわ。確か刃牙、お前に勧められて俺も読み出したんだよな!」
「そうだなぁ。今でも持ってんのか?」
「そうそう。今見てきたんだけどさぁ」
「俺ん家にもないわ。18巻だけ」
………は?
「貸してやろうと思ったんだけどさぁ。ごめんな。じゃ!」
「おいっ。ちょっ……」
ちょっとマジで意味が分からない。
確率は42分の1だぞ?いや二人だからその倍……
そんなコトが有り得るのか?
万が一、友人の頭になにか貸しづらい理由が浮かんだとして「18巻だけ」なんてそんな馬鹿げた嘘をつくようなヤツじゃない。
「……はぁ」
なんだか気が抜けてしまった。少し早いけど、もう今日は寝よう。わしは布団を敷き、毛布にくるまった。
18巻だけが抜けた本棚を眺めながら。
その後
これは数ヶ月前の出来事だが、未だに「グラップラー刃牙」の棚には18巻の穴がスッポリと空いている。最近、やや田舎の地元で唯一のそれらしい本屋である、ブックオフに立ち寄った。
本当にフラっと入っただけで、この時はもう18巻のことなど忘れていた。
ズラリと少年漫画が並ぶ棚。ふと目に入る。
刃牙だ。
しかし、そこのブックオフが取り扱っていたのは「グラップラー刃牙」の後作にあたる「範馬刃牙」以降のシリーズのみであった。
未だに穴は、埋まっていない。
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