見出し画像

月経カップ体験記

 月経カップ,というものをみなさんはご存じだろうか?

 生理用品として現在主流なのはナプキン・タンポンなので,月経カップは第三の生理用品と言われている。お恥ずかしながら私は鈴木大介さんの以下の記事を読むまで,月経カップのことを全く知らなかった。

鈴木大介
 僕が毎月「妻の布ナプキン」で手を血に染める理由(現代ビジネス)

 上記の記事を書いておられる鈴木大介さんは,あの!私の推し本「されど愛しきお妻様」の著者である(※1)。この記事には,鈴木大介さんが生理の重いお妻様を通して,生理という女性の身体特有の経験について改めて考えた,その軌跡がまとめられている。鈴木さんは,「インフルエンザよりも生理が辛い」と即答する生理の重い女性にとって生理がいかに過酷な経験なのかを知り,男性が,あるいは生理の軽い女性もその辛さを軽んじていないか,そこに大きな分断があるのではないかと問題提起をしてくれている。そしていつもながら著者の鈴木さんを「すごいな」と思うのは,反省と問題提起だけではなくて,生理がつらい,そして大人の発達障害さんゆえに家事の苦手なお妻様にかわって,お妻様の布ナプキンもざぶざぶ洗う役割を引き受けていることである。それを読んで「おおお!!!」と衝撃を受けてしまう私は,まだまだ生理や家事をめぐる古くさい慣習やら通説から自由になれていないのである。ダブルでショックだ。

 という素晴らしい内容の記事なので多くの方に読んでもらいたいのだが,それはそれとして,今回私が取り上げるのは「月経カップ」についてである。記事には月経カップについてほとんど触れられておらず,単に「お妻様が使ってみている」ことくらいしか書いていない。でも私は月経カップの存在そのものを知らなかったので,「え,なにこれ!?」とビックリし,興味を持ってインターネット検索をしたのだった。

 そうして知ったこと。月経カップはシリコンでできたカップ状の形態をしており,膣内に挿入して月経血を受ける仕組みになっている。シリコン製なのでタンポンほど細菌繁殖を心配せずに使用でき,最長12時間挿入していられる。

 最長12時間!!

 ずぼらで面倒くさがりの私が最も惹かれたのは,ココである。朝晩取り換えればいいだけで,あとは入れっぱなしって何て快適♡もともとタンポンを使用していて,あんまり大きな声じゃ言えないが結構長時間入れっぱなしにしているくせに,「もっと便利になるんだ!」とウキウキした。そして使用済みタンポンを捨てる時に,いつもあれこれ工夫をしなくちゃいけない煩わしさからも解放されたかった。こんなことに悩んでいるのは私だけかもしれないが,使用済みタンポンをきれいに捨てる(汚物入れに入れる)って難しくないですか?量の多い日に念のため使っている紙ナプキンの外装材でくるんで捨てるのがマイベストなのだが,タンポンよりも紙ナプキンを使う量のほうが少ないので,外装材がないこともある。そんな時のために黒いビニールを小さく切っておいたり,何にもない時は仕方なくトイレットペーパーでくるんで捨てるしかないのだが,あの血のにじんだトイレットペーパーって,正直気色が悪くて好きになれずにいる。・・・というような,本当に些細でどうでもいいことに毎度頭を悩まされずにすむかも!と思うだけで,ウキウキは2倍となった。そして,結構お値段はるのだがすぐにポチり,生理がくるのをいまかいまかと楽しみに待った。生理がくるのを楽しみに待つなんて,それこそ人生初である。

 そうこうしているうちに生理がきたので,いざトライ!
 意気揚々とトイレに入って・・・

 撃沈・・・入らない・・・

 だいたいですね,月経カップ大きいんですよ。たぶん月経カップをご存知ない方が想像しているサイズの,はるかに上をいくと思う。タンポン3束くらいはあるんじゃなかろーか。そして何よりイラっとしたのは,「シリコン,全然すべりません!」ということだった。この苛立ちをどう男性諸氏に伝えたもんかと思うのであるが,シリコンスチーマー的材質の鼻栓があったとして,それを鼻の穴にねじこんだら摩擦でとんでもなく痛い感じがしませんか?もうもう,なんなん!?こんなん入るわけないじゃん!キシロカインゼリー,カモン!!とブーブー言いながら,向かうはネット空間。

 月経カップ 入らない

 クリックすれば,そこにはお仲間がたくさんいた。ふむふむ。初めて使用する人は,経血量の多い日にチャレンジすべし(血ですべる)。それから,初めての時はトイレじゃなくてお風呂でするといいよー。はい,りょーかい!

 というわけで,経血量が増えた翌日の夜,再び月経カップ片手にお風呂場へ。入れ替わりにお風呂場から出てきたムスメ(小6)に,「お母さん,生理でこれ使ってみるの。」と月経カップを見せた。するとムスメ,開口一番に「でかっ」「こんなの入るの?」と傷心のお母さんに聞いてくる。そりゃ赤ちゃんが出てくる道なんだから,これくらい入るはずなんだよね,でも昨日は入らなかったんだよねとブツブツ言いつつ,「頑張ってくるわ!」「がんばって~」と送りだしてもらい,再チャレンジ。

 悪戦苦闘。
 月経カップは小さく折りたたんで入れるのであるが,うまく入れられなくて何度もカップは「ぽんっ」と大きな音をたてて外で広がってしまう。ぽんっ!と音が出るたびに,脱衣所にいるムスメがプププと笑い,「だいじょーぶー?」なんて言ってる。うーん,恥ずかしいっていうか,なんていうか。だけど諦めずに何度もチャレンジしているうちになんとか入り,ドヤ顔でムスメに「入ったよー」と報告できた。「よかったねー」とムスメ。

 まぁこうして繰り返すうちに,月経カップを入れること自体はそこそこできるようになった。しかし「最長12時間連続使用!ストレスなし」なんて夢の生活には,残念ながらならなかった。まず経血量の多い日は,タンポンと同じくらいの時間でもれてくる。カップの大きさが合わないか,カップが密着できていないのか,何かしら原因があるのかもしれないが現時点では分からないままである。ただ今までも経血量が多い期間はタンポン+ナプキンを併用していたので,カップに変えても同じように対応すればいいだけである。一方私がすんごく負担に感じたのは,「カップの着脱が,めっちゃ大変!(血まみれ!!)」という点だった。タンポンのようにアプリケーターがないので,直接手指で挿入するわけだから3本くらい指が血まみれになる。我が家にはトイレ内に洗面台がないので,汚れたカップを洗えない。無理やり便器タンクの上から出てくる水で洗ったら大変なことになった(トイレの仕組みを知らないのか!とオットに呆れられた)。仕方ないのでペットボトルに水を入れてトイレに持ち込み,便器の中で手とカップをすすぐことにした。ああなんか,ストレスフリーなんてありえない。ゴミが出なくなったのはいいんだけど,「ゴミを減らせる」ことに最大のメリットを感じられるほどエコな人間じゃなかった(と改めて気づいた)。

 というわけで,テンション低めな月経カップ使用第一クールなのであった。

 もちろんこれだけで「月経カップはあかんかった」なんて雑な結論を出すつもりはない。もう少し工夫しながら使ってみようと思っている。でも期待が大きかっただけに,残念でならなかった。そんな気持ちをオットにブツブツとこぼし,愚痴っているとやがて怒りの気持ちが湧いてきた。

 なんで生理用品ってこんなに進化してないんだろう。1週間月経カップみたいなのを入れっぱなしにできて,カップの底がぱかっと開いてたまったぶんだけ排液し,また底を閉じておけるとか,それくらいできないの?せめてカップを入れるアプリケーターくらいあってもいいじゃないか,そうしたら手指を汚さないですむのに。・・・月経だけではなくて,排泄を含めた人間の「生理」は自分が思うようにコントロールできないこともあるって分かっているけれども。

 あぁ,だからこそ,だ。

 ぜーんぜん完璧なんかじゃない生理まわりの環境を「みんなそんなものだし」とか,「さらっと快適」なんていうふうに流しちゃダメだ,と思う。「えぇ,アンダーコントロールです」なんてふりしちゃうと,不快な環境がまるで「ない」ものとみなされてしまう。私は比較的生理が軽いほうだと思っているが(どう比較していいか分からないので難しいところだが),毎月30日あるうちの少なとくとも5日間は(だから月の6分の1は)あれこれ不快だったり不便だったり,余計な工夫に脳のリソースが割かれていたりするのである。一歩外へ出れば「何も変わりない」ように見えたとしても,月経カップを試してみるだけでこんなに大騒動,コメディみたいな試行錯誤に奮闘してたりするのだ。別にそれをあけすけに話すべきだとか言いたいのではなくて,みんなそれぞれに自分の生理のアンコントローラブルな部分を引き受けて,なんとか不快や不便に耐えてしのいでいる期間があるよ,ということはもっといろんなことの前提になったらいいと思う。そうすることで生まれる配慮や敬意,工夫やアイディアがもっとあるんじゃないかな。

 だからいつかムスメが「生理しんどい」とか「生理不快だ」って言ったときに,「いずれ赤ちゃんを迎える時のための準備なんだから(我慢しなさい)。」なんてキレイごとは決して言わないぞー!と改めて思った。お互い大変だよねぇしんどいよねぇと言いながら,おかーさんの色んな失敗談とか,完璧じゃない工夫だとかを共有できたらいいなと思う。・・・まぁそんなことあえてしなくても,「お風呂場で月経カップぽん事件」がその役割を果たしてくれるかも。

※1
「されど愛しきお妻様」を推す理由1
私が書いたレビュー記事です。

その後の使用感については「月経カップ体験記その後」をどうぞ。

細々noteですが、毎週の更新を楽しみにしているよ!と思ってくださる方はサポートして頂けると嬉しいです。頂いたサポートは、梟文庫のハンドメイドサークル「FancyCaravan」の活動費(マルシェの出店料等)にあてさせて頂きます。