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僕の好きなアジア映画15:台北暮色

『台北暮色』
2017年/台湾/原題: 强尼·凯克 /Missing Johnny 
監督:ホァン・シー(黄熙)
出演:リマ・ジタン(瑞瑪席丹)、クー・ユールン(柯宇綸)、ホアン・ユエン(黄遠)


本作はホウ・シャオシェン(侯孝賢)のもとで映画を学んだ女性監督、ホアン・シーのデビュー作。台北の景色が、実に美しくヴィヴィッドな映像で捉えられている。師であるホウ・シャオシェンがプロデューサーとして本作を支えている。

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舞台はすでに高度経済成長期が終焉を迎えた現在の台北。しかしたとえ経済的な成長が止まったとしても、そこに住まうものは喪失感の中にあっても、この大都市で生きていかなければならない。この映画の主人公は、台北で暮らす3人の男女である。

辛い過去を持ち、台北でひとり暮らしをしている女性シューには「ジョニーはいますか?」という間違い電話が頻繁にかかってくる。シューを演じるのは、レバノン人と台湾人との混血で本作が長編映画初出演となるリマ・ジタン。ショートパンツが似合う、現代的で健康的でエキゾチックな、実に美しい女優だ。溌剌とした彼女の姿がこの映画の大きな魅力の一つである。彼女は本作で金馬奨で最優秀新人賞を受賞した。

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便利屋として働き、路上に駐車した車の中で生活しする、都市を漂流する中年の男には、エドワード・ヤン監督の「カップルズ」にも出演したクー・ユールン。

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そして人と混じり合えない自閉症の少年にホアン・ユエン。彼が自転車で水溜りに波紋を作るシーンは印象的だ。

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そんな都市での生活の中で孤独に喘ぐ3人がいつしか出会い、新しい人と人との関係を築き上げていく。この映画に何か劇的な事件が起こるわけではないし、もちろん驚きに満ちたエンターテイメントではない。何も起こらないに近い。台北の街のさまざまな場所を、光と闇を印象的に美しく捉えた詩情溢れる映像と、台北の街の生み出すさまざまな音の中で、彼らの日常や苦悩や絆を描き出していく。

「ジョニーはいますか?」という間違い電話は、ジョニーの家族や友人、知人や元の彼女からのものらしい。それは誰かがジョニーを探しているという事実であり、誰かが誰かのことを思っている、気に留めているということ。孤独にいたたまれないものにとって、人が人を求めているということは、幾許かの暖かさを感じることなのだと思う。

都市を漂流する孤独なものたちの有り様を、愛情を込めて慈しむように優しい視線で見つめ抱擁する、そんな美しい映画です。


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