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僕の好きなアジア映画81: ベトナムを懐う

『ベトナムを懐う』
2017年/ベトナム/原題:Dạ cổ hoài lang/88分
監督:ヌエン・クワン・ユン
出演:ホアイ・リン、ゴック・ヒエップ、ディン・ヒウ


もう一つ望郷の映画を。こちらはベトナムの映画です。

舞台はニュー・ヨーク。雪の降る日一人のベトナム人の老人が、施設を抜け出して息子の家に向かいます。

その日は妻の命日で、息子や孫と命日の法要をするために。しかし息子の家には、孫娘とその彼氏しかおらず、孫娘は法要など全く無関心。自分の彼氏の誕生日を祝おうとしています。ニュー・ヨークに住むかつて恋敵であったベトナムの幼馴染(当然老人)もやってきます。孫娘は生まれた時からアメリカで育ち、その価値観は全くのアメリカ人。主人公(祖父)と酷い口論になります。以降の展開はあまりにネタバレが過ぎるのでここでとどめます。

とにかく傍若無人な孫娘の態度が私のような爺さんには全く許しがたく、ドラマと知りつつ憤怒の思いを免れません。アメリカ育ちという設定であっても、最小限の祖父を敬う気持ちぐらいは持って然るべきじゃないかぁ(だからドラマだって)。

息子はどうやらボート・ピープルのようで、一緒に逃れてきた人々の中で自分だけが生きながらえたことに罪悪感を強く持っていて、後になってから父をアメリカに呼び寄せたらしく(父を施設に入居させたのもおそらくクソ孫娘の陰謀であろう)、そんな話を大雪のニュー・ヨークの寒空に、祖父を家から追い出した娘(クソ孫娘)に話します。その後の展開を見れば、この娘は許されてはならないのですが、父の話に反省したような顔をしたり、最後にはベトナムに里帰りして美しい風景にはしゃいでいるのを僕は許せません(だからドラマだってば)。

雪のNYのビルの屋上で故郷を懐う
幼馴染の二人

故郷を思うという気持ちは歳と共に強くなるように思います。ましてやこの主人公たちのように遠く離れた異郷にあれば、その望郷の念は如何許りかと。幼馴染と亡き妻を偲び、南国の故郷を語り合う場所が、雪の降りしきる極寒のニューヨークの、寒寒としたビルの屋上であることは故郷との強烈な対比であり、それ故に熱烈に帰りたいと願う思いが伝わってきます。ベトナム人としてのアイデンティティー、家族の在り方の伝統は如何に遠く離れた異郷にあっても、民族の誇りとして継承されるべきであると主人公は切ないほどに思っていて、だからこの映画ある意味とても絶望的な映画にも思えてしまいます。



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