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僕の好きなアジア映画99: ビニールハウス

『ビニールハウス』
2022年/韓国/原題:비닐하우스/100分
監督:イ・ソルヒ(이솔희)
出演:キム・ソヒョン(김소현)、ヤン・ジェソン(양재송)、アン・ソヨ(안소요)、シン・ヨンス(신용수)、クウォン・ミウォン(원미원)

「僕の好きなアジア映画」というタイトルだから、当たり前ですがいつもは好きな映画のことを書いています。しかし今回だけはその最低の基準を破ってしまおう。僕はこの映画が嫌いです。すごい映画、凄まじい映画だとは思うのですが、僕はこの映画が嫌いです。

おそらく若い方であれば、この映画に描かれる事柄の現実感はほとんどないのであろう。だからスリリングな面白い展開に感じるかもしれません。しかし僕の年齢ともなるとあまりにも現実的で、生々しくて、恐怖すら覚えるのです。

本作の基本となる社会の問題としては、老化や認知症、それに対する介護、被介護者からの暴力、そして介護者の貧困などであり、取り上げている地味(といって良いと思う)な題材からは想像し難いほどの衝撃的な内容であり、存分に練り上げられているプロットなのです。しかしこのドラマはネタがバレたのではもう全く鮮度が失われるので、ストーリー的な部分はここでは書きません。

主演はキム・ソヒョン。ドラマへの出演の多い彼女は、いつもクールでかっこいい女性を演じていることが多いのでずが、本作では介護士役に扮して汚れ役を圧倒的な演技で見せています。優秀で誠実な介護者であった彼女が、いかにして不幸の連鎖に落ちていくのかが、転がり落ちるように描かれます。

監督は本作がなんと長編デビューであるという、韓国映画アカデミーで学んだ29歳のイ・ソルヒ監督。脚本も彼女です。

イ・ソルヒ監督

この年齢で認知症や介護など、おそらく彼女自身には差し迫ったものではない(と推察される)題材を、こんなにスリリングな物語に仕上げてしまうその才能には驚きを隠せません。とにかく物語の面白さも、苛烈なまでの切実な内容もレベルとしては素晴らしいのです。しかしこの素晴らしさを持ってなお、僕はこの映画が嫌いです。もう少しすれば、自分自身がこういう認知や介護の問題に直面するであろうことは想像に難く無いので、だからこそ僕はこの映画に格別の恐怖を抱き、美しく無い想像をしてしまい、起こり得る残念な可能性に怯えてしまうのです。

ところでこの日本版ポスターのコピー、ぼくは浅ましく感じで大嫌いです。『パラサイト』の話題性にあやかろうという意識が丸見えですが、この映画はパラサイトとは全く意図が違うと思います。日本だけのコピーだろうと思いますが、これはダメでしょ。

第27回釜山国際映画祭CGV賞、WATCHA賞、オーロラメディア賞、第59回大鐘賞主演女優賞など


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