僕は普通の人だよ

今から書くのは私の長年秘めていた叫びである。つい先日、ひょんなことから今まで閉じ込めていたはずのそれらが噴き出してしまったのだ。
長年見て見ぬふりをしてきたそれは大きな波となり私を苦しめる。今この瞬間も苦しくて仕方がないのだ。だからここに書き連ねることを許してほしい。
私は縁あって医師を生業としている。
とはいっても両親や親せきに医療関係者はおらず、会社役員など金銭面に恵まれた家庭に育ったわけでなく小学校~高校まで公立学校に通い、大学こそ私大の医学部に入ったがそれも実家から通え、かつ高校からの推薦枠があったためだった。私大の医学部の学費は非常に高く複数の奨学金とバイトでなんとか卒業した。現在も奨学金を返済している最中である。
初期研修も終え、後期研修も終盤に差し掛かりつつある今、ある程度仕事も覚えようやく仕事は安定してきた。仕事が安定してくるのと同時にじわじわとにじりよってきたのが婚期という厄介なものである。女医の結婚については1/3の法則というものがまことしやかにささやかれている。どういうものかというと1/3は生涯未婚1/3は結婚するが離婚1/3は結婚生活を継続という3つに分類できるというのだ。まああたっているんじゃないかと思うがそれは男女関係なくで、男性医師の離婚率もそれなりに高いというのが私の主観だがその話がしたいわけではないのでそっと横においておく。
では私自身はどうかというと、それはもう、結婚したい。というよりも、恋人がほしい。学生時代に当時の彼氏からデートDV、ストーキングその他もろもろされて以降、彼氏というものができたことはない。いつ刺されるかもわからない日々の中で人を好きになる余裕はなかった。そのストーキングもようやく収まり、つい先日、好きな人ができた。先輩の紹介で非医療関係の人だ。ほぼ一目ぼれである。恋は落ちるものだなんていうけれどほんとだな、なんてのんきに思っていた。
何度かあった後、そんな彼に言われた一言がタイトルである。
「僕は普通の人だよ」
最初は意味がわからず、私もそうですよ、と答えた。
「でも、君はお医者さんでしょ」
なにかで頭を殴られたような衝撃だった。そもそも彼を紹介してくれた先輩も医師で、私が医師であることも織り込み済みで会ってくれている思っていた。彼にとって”医師である”ことは”普通じゃない”この事実が私を苦しめる。確かに私は医師免許をもっていて、医療行為を行っている。でもそれだけである。たまたま縁あって就いた職業であって、私は私である。ほかの仕事をしている人たちとなんら変わりはない。医師も数多くある職業の一つだ。それ以上でもそれ以下でもない。きっとこれが彼に言われたわけでなければここまで衝撃ではなかったのだと思う。
私自身と合わないなと思ったならばまだいい。人間は動物だから、理性ではどうにもできない相性がある。私の職業のせいで選ばれないのだとしたらどうしたらいいのだろうか。努力して勝ち得た資格が人生の前に障壁として立ちはだかってくる絶望感をどうしたらいいのだろう。
いつか妹に言われたことがある。
「おねえちゃんのことはすごいとは思うけどなりたいとは思わない」
私もこの絶望感を前にして、どうやって生きていけばいいのだろうか。仕事を努力して極めようとすれば自分が求めているものが遠ざかっていく。
ただの私を見てほしい、そう思うのは私のわがままなのだろうか。
今はただそのことが心の中で渦巻いて、ただただつらい。

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