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誹謗中傷には課金させろ!【存在の自己決定権】

◇存在の自己決定権

 誹謗中傷により芸能人が死に、個人情報を本人の同意なく政府が使えるスーパーシティ法案が通過。監視社会の中国では法的な香港自治が破壊されつつある。人類は相互監視による誹謗中傷と、権力による一方的な監視、支配による危機に脅かされている。

 これらは、自己という存在の在り方が他者によって管理され、決定されるという点で共通の問題。監視の主体を国家や他人などの他者から自己に取り戻し、自己の在り方を自分で決められる「存在の自己決定権」という概念が必要だ。

 個人の未来を個人に紐付けられた情報が決める時代では、「個人」の範囲は「個人に紐付けられた情報」だ。自分を守り、なりたい自分になるためには、自分に関する情報を自分の管理下に置く必要がある。自分の見た目や私生活の情報をみだりに公開されない権利である「肖像権」「プライバシー権」「忘れられる権利」は消極的な「存在の自己決定権」だ。

 「存在の自己決定権」を実現するためには相手の認知をコントロールする必要がある。バーチャルキャラクター化のように自分の理想の人格を作り出す方法もその一つだ。

 しかし人間の好奇心は不可変な演者の肉体という情報に向けられる。他者が一度認識した情報は肉体の脳に記録されているうちは変えられない。個人は国家や他者の持つ情報を含め、積極的に自分に関する情報を管理する必要がある。少なくとも電機的な領域で不可変な情報を管理下に置くことができれば、情報化社会において自分は自分が作り出したキャラクターとして認識される。

 計算により個々の情報を体系化し、概念として組み立てる手段は進化している。しかし企業や国家などの強大な存在に独占され、監視社会を実現する権力の道具になっている。この機能を万人に行き渡らせ、民主化することが「存在の自己決定権」保障につながる。言論統制を国家や企業から各個人に取り戻し、各個人が国家や企業、他者によって使われる自分の情報をコントロールできるようにすることが、これからの世界の人権保障のためには重要だ。

◇存在の自己決定権と表現の自由

 人間には生まれながらにして内心の自由、表現の自由がある。表現の自由は社会環境を非暴力敵手段で改善するために必要な権利だ。一方、人間の外側に拡張する自由のため、他者の尊厳と衝突する性質がある。

 特に誹謗中傷は自分の正義感を満たすために他者の人格を消費する行為。消費する以上は対価を支払う義務がある。消費された人格を誹謗中傷を発した人間が補填する概念が「ヘイト料金」だ。損害賠償をリアルタイムで簡単に行うことで、表現の自由と人間の尊厳を同時に保護する制度とも言える。

 権力による表現への介入は自由を抑圧する監視社会につながるため、表現に起因する問題はあくまで当事者間で解決する必要がある。「ヘイト料金」は誹謗中傷を課金制にするのは当事者同士で解決するためには合理的で、適切な徴収のためにも自己に起因する情報を自分で管理できる「存在の自己決定権」の概念が必要だ。

 一方、「ヘイト料金」には経済的能力が高い者ほど自由に誹謗中傷をできるという性質がある。経済的能力が低い場合は誹謗中傷が出来ないので、仕方なく意識を持つ人間ではなく、社会や国家、制度といった意識を持たない概念を批判せざるを得なくなる。大半の人間のストレスの根元は社会の構造的欠陥にあるが、目に見える人間にしか考えが及ばないため誹謗中傷を始めてしまう。「ヘイト料金」は経済的能力が低い人から誹謗中傷を奪うことで、社会問題を直接解決しようという方向性へ導く可能性があり、格差是正や人権保障にもつながる。

 しかし、権力者は社会の構造を変化できる能力を持っている。権力者を批判しなければ社会の構造的欠陥を是正できない場合は、権力者への批判は必要だ。大半の権力者は強制的に税を徴収し、個人の権利を制限している。人間が権力者に服従させられ、強制的に財産を奪われている以上、その恩恵を受けられない場合は批判によって埋め合わせることができる。権力者が批判を免れるためには、構造を是正するか、権力を捨てる必要がある。

◇存在の自己決定権実現に向けて

 「存在の自己決定権」を実現するためには、監視するための技術や情報を、国家や企業から各個人に再分配することが求められる。現時点では各個人が自分の情報を管理する技術や情報を有することが難しいため、人間の道具である国を利用して他の富と同じように技術や情報を民主化する必要がある。

 「存在の自己決定権」は情報化時代の基本的人権。他の人権と同じように権力からの介入を防ぎ、権力が集めた富により質的な保障をされた上で、万人が主観的に同じ労力で同じ結果を出せるようにするという本質は変わらない。各個人が最大限人類の富を享受できるようにするという原点に立ち返って社会を設計する必要がある。

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