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自分の言葉を見つけよう。 読書ログ 『三行で撃つ』 - 近藤康太郎

月に1回、文章術の本を読み、そこで得たことを発信しています。
初回は理系的な、客観的な情報を伝える文章の書き方を、
2回目は感性的な、エッセイの書き方について読みました。

今回は、ライティング分野の名著と名高い、『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』を取り上げます。

著者:近藤康太郎さんは、朝日新聞記者として名物ライターの名を馳せ、作家・評論家・私塾運営・百姓と、精力的に活動を続けられている異色の文筆家です。

「気の狂った実用書」というコンセプトで作られた、ライティング本・兼・思想書。
25章で構成され、徐々に<書くこと>の深淵へと踏み入る本書は、1行づつ読み、味わっていける、濃い内容の一冊でした。
ライティングに関心がある方は、手元に置いて損ない一冊だと思います。


文章の基本

三行で撃つ

ライター:ジャーナリストやコラムニスト、記者やコピーライター、広報やブロガーやインスタグラマー。
ライターである我々は、小説のようにゆっくりと書き始められない。3行で読者を引きつける必要がある。
今の時代の読者は、驚きを求めている。読者は、ライターに興味はない。ライターが書きたいテーマなぞどうでもいい。社会事情も、ニュースすらもどうでもいい。そうした読者を振り向かせるには、彼らをのけぞらせるには、有名でもないわたしたちの1行目は、哀切な叫びであるべきだ。

うまい文章

うまい文章とはわかりやすい文章である。
原則は次の三つ。短く・形容語と被形容語を近づけ・主語述語は一文にひとつずつ
ただし、うまい文章がいい文章とは限らない。切れすぎる刀は人を落ち着かなくさせる。書き手は、うまい文章を書きたがる。しかし読み手は、いい文章を受け取りたいのではないか?
いい文章とは、人をいい心持ちにさせる文章だ。落ち着かせる文章。世の中を、ほんの少しでも住みいいものにする文章。風通しのいい文章。ギラギラしていない、いい鞘に入っている、切れすぎない、つまりは、徳のある文章だ。
文章とはキャリアーだ。メッセージは相手に届けられてこそ意味がある。

すべる文章

摩擦なく、スルスルと読める文章はいい。これを目指す。
摩擦係数を減らすには、次のことを心がける。

  • 固有名詞と数詞を減らす。必要最低限だけにする

  • “など”を撲滅する(他に”いろんな”、”さまざま”とかのエクスキューズ)

禁じ手を知る

常套句・「としたもんだ表現」

常套句は親の仇。定型分・クリシェ・決まり文句を再生産しない。
常套句はありきたりな文章を作り、読者の思考を停止させる。
特に業界ならではのお決まりの書き出し・有名な書き出し(としたもんだ表現)は避ける。
文章を書くと決めたのなら、先人たちの豊かな言語世界に沈むのではなく、目の前のいまの感じのために、今までにない表現を目指す。

擬音語・擬態語・流行語

オノマトペもまた常套句だ。そして子供っぽい。これも避ける。
書くなら自分で作るぐらいした方がいい。
流行語も、その瞬間でしか「エモく」ない。流行語を使うとは、世間に言葉を預けることだ。それは自分の頭を、自分の魂を世間に預けることだ。
わざわざ文章を書くとは、みなが見ていること、みなが感じていることを、見ないため、感じないためだ。感性のマイノリティーになることが、文章を書くことの本質だ。

起承転結

型破りはよい、型無しはいけない。まずは起承転結を学ぶ。

  • 起:フック。目に止めてもらう。

  • 承:起の説明。5W1H。新聞や雑誌の記事はこれで終わることも多い。

  • 転:文章を転がす。つまりものの見方で意表をつく。あるいは自分で転げる。飛び抜けた語彙でも破綻した文章でも。芸を見せる。自分ならではの、読者の意表をつくことができるライターだけが、今後生き残れる。

  • 結:うまく転がることができれば自ずから立ち上がる。

共感させる技術

我々は、感情を文章で説明してはならない。論でなく、エピソードに語らせる。怒っていること、悔しいことが読者にわかるような場面を見つける。
エピソードを見つけるには、五感を使うことだ。五感で世界を切り取れるようにならないといけない。そうして見えたものを、そのままに正確に書く。そうすることで、常套句に頼らない、自分の文章が立ち上がる。
語感を他人に委ねない。ライターに必要なのは、正確さに対する、偏執的なこだわりだ。

書くための四つの道具

ライターの道具箱

大切な道具である「言葉」を、しっかりとしまい、整理し、磨き上げておく。
それは第一に語彙、第二に文体、第三に企画、最後にナラティブだ。
そうした道具箱を持ち歩くには、鍛錬をする以外にない。習慣として努力を続けること。そして、努力を発見すること。人が努力しないことを努力することだ。

語彙 - 道具箱1段目

語彙を増やすには、まず本を読む。そして辞書にあたる。特に、類語辞典は発想を変えるために役にたつ。
好きな作家はその作品を全て読み、憑依し、抜書きをするのも良い。そのようにして相手に憑依することで、自分ができる。
そして、便利な言葉を使わない。〇〇的、〇〇化。やばい、超。そうした言葉を使わないことで、新しい言葉が見えてくる。

文体(スタイル) - 道具箱2段目

文体。流儀。くせ。ルーティン。品格。つまり、生き方。
独自のスタイルがないライターは、新陳代謝により代替される。
スタイルの練習として、以下の試みが有効だ。

  1. 一人称を変える

  2. 主題を変える

  3. 主義を変えてみる(また戻ればよい)

  4. 主体を変える(キャラを変える)

スタイルは一つである必要はない。さまざまある方が、人生がカラフルになる。
生命は現象で、いまのわたしで<ある>だけでは不十分だ。わたしに<なる>。スタイルを獲得する。とどまらないことが大切だ。

企画 - 道具箱3段目

わたしは何を書くべきか、わたしには何が書けるのか。
誰でもが発信できる時代、わたしにしか書けないもの。それは、<感情>。
わたしだけの喜怒哀楽。

  • 喜:心の底から喜んでしまうこと。慶事。共感できること。

  • 怒:義憤に駆られること。それはないだろと、声を高めてしまうこと。

  • 哀:頬に涙が伝うこと。憐憫。人間だけが持っている普遍の感情。

  • 楽:他者を喜ばせること。(これが最も難しい)


下手な鉄砲数打ちゃ当たるというが、正しくは、下手な鉄砲も鴨いりゃ当たるだ。
読者がいる方向に向かって、読者の関心領域に向かって、企画を投げる。
ただし、読者そのものを狙うのでなく、その半歩先の空間を狙う。一歩は行き過ぎ。「これくらい知っているし、考えているだろう」の半歩先。そしてその空間を見つけるには、何を書かないかを考えることが肝要になる。
時流を読むには、新聞の読書面が有効だ。気になったキーワードにアンテナを貼っておき、それに該当する書評を集めておく。週に一度、図書館で一気に取り寄せ、概要と書評で気になった部分を読んでみる。不要なもの、情報だけ必要なもの、時間をかけて読む必要があるものを分ける。そうすると、自分だけのファイルが出来上がる。
企画とは、自分を驚かせることだ。自分を発見すること。汝自身を知る事だ。

ナラティブ - 道具箱4段目

語ること。<なに>に感動したのか、<なに>がヤバかったのか。その<なに>を、具体的に、飽きさせないで語ること。
典型的なフォーマットは次になる。

  1. つかみ

  2. 状況やあらすじの簡単な説明

  3. 聞き手を引きつける謎を持たせ

  4. 聞き手の予想を裏切る意外な方向に話が伸び

  5. オチがつく

どこかに笑いがあると尚良い。
ストーリーは有限だが、ナラティブは人の数だけある。

読ませるための3感

スピード感

スピード感を持つ。そのためには、ダブりを省く。適度に主語を省く。
2行に分けられることは2行に分ける。ただし、常に短いとそれは読みづらい。緩、急、緩、急、緩、急、急、急、緩、緩、緩で、リズムを作る。

リズム感

リズム感を持つためには落語など、パロール(話し言葉)の名手を参考にすると良い。ただし、エクリチュール(書き言葉)に変換する際には次の記号をうまく使う。句読点・カッコ・改行などのグラフィック効果でリズムを作る。

グルーヴ感

形容詞は読みづらい。初心者のうちは、形容詞をなくして事実のみを書いてみる。
比喩も分かりづらい。初心者のうちは、比喩もなくしてみる。比喩は他人の思考を借りることが多い。事実を書いてみて、自分の心から湧き出るもの以外は比喩をなくす。
文章を書くとは肉体的な作業だ。

自己管理の技術

意見や助言

文章を書くとは、品格のある人間になることだ。学びは、どんな下劣な人間からも行える。
自分は世界で一番文章が下手と思い、常に学び続ける。
注文は常に受け付けて、しかしそれをそのまま聞かない。それ以上を出す。

時間管理・執筆環境

一度書くと決めたら、暇な時・好きな時に書くではいけない。
時間を決めて、場所を整理して、机に1・2時間集中して書くことを習慣化する。
そして書くには、読むことも必要だ。日本文学・海外文学・社会科学や自然科学・詩集をバランスよく読む。

書棚整理術

ライターをするなら最低1000冊は必要だ。学者や評論家など、本を使って仕事をするなら1万冊は必要だろう。
そうして本を集めておき、特に気に入った内容については抜き書きする。抜書きすることで自分がわかる。それは、<あなたではないあなた>への召喚状だ。

*****


本書は25章で構成されるわけですが、そのうちから抜き出しやすいコンセプトの章をピックアップしました。
この記事で取り上げなかった最終章も、体重が乗った、迫力ある内容でお勧めです。

この本を読むと、ライティングは、まず、<感じたこと>に対して鋭敏であらねばいけないことを思い出されます。
自分は何を感じ、何を考え、何を書きたいと思うのか。
それを探る挑戦の先に、個々のライティング・テクニックが輝いてくれる時が来てくれる気がします。

今年はnoteに出会い、自分ひとりでコンテンツを扱う楽しさに触れられた年になりました。
来年は、自分の感性をより高め、本書にある<自分だけの言葉>を紡げるように、納得のいくライティングができるように努力していこうと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました!

これからも週に一回、世界を広げるための記事を書いていきます。
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どうぞ、また次回。


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