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「感動する文章」のつくり方

4週に1回、文章術の発信をしています。
前回は「きれいな文章」をテーマに記事を書き、それなりに反響を頂けました(ありがとうございます)。

しかし!
われわれは「きれいな文章を書ければ満足」ではありません。
われわれが求めているのは、「感動する文章」。
読む人の心を震わせ、書いている自分の魂が揺れる文章。
そんな文章を、われわれは求め、憧れます。
ですね?(強要)

形のない「感動」の分析は難しそうですが、
調べてみると、世の中にはさまざまな「感動学」の知見がありました。
今回は、「感動学」の学習を深め、
「感動する文章」のつくり方を考えていきます。


「感動」とは何なのか?

この記事では、感動をなるべく客観的に捉えていきます。
感動をテーマにする本を読むと、とてもウェットに(感動的に)感動が何か語られるものです。しかし今回はあくまでソリッドに、手に取れる形で感動を理解していきましょう。
その参考になるのは、こちら。「感動(KANDO)を科学する」の論文です。

以下に気になった点を抜粋します。

  • 感動は混合した心的表現で、従来の枠組みから単純にモデル化できない。

  • 感動は幅広い。日常生活から人生で数回しか起こらない特別なイベントまで、さまざまな出来事から引き起こされる。

  • 感動はストーリーがある場合と、ない場合に大別される(映画、ドラマ、小説…/自然景観、芸術作品…)。

    • 前者の感動は、物語の最初で心理的緊張を感じさせ、その後の展開によって緊張が解放されるときに生じる。つまりストーリーがある感動の場合、ネガティブな感情が前提になる。

    • どちらの感動も、身体的経験と情動をトリガーとしている。

    • 感動の経験は、個人の期待の逸脱によってもたらされることがある。

  • 感動の効果は、短期的なものと長期的なものに大別される。

    • 短期的効果は、「直感的」で「衝動的」な意思決定。他者への支援行動を増幅させたり、通常行わない行動に踏み出すきっかけを与える。

    • 長期的効果は、「自伝的推論」に代表されるアイデンティティ形成への寄与。感動を体験すると、それを他者と共有したり、自分自身で繰り返し思い出したりして、そのイベントの意味について考えようとする(または感動の経験についての記憶を作成する)。それにより、現在のアイデンティティに一貫性のある形で記憶を再構築し、人生の物語との関連づけが進められる。

  • 感動は感情の複数のカテゴリーとして表現できる。次の研究段階として、私たちが感動と呼ぶものの必要条件と十分条件を明らかにすることが必要だ。そうすることで、より体系的な分析が可能になるだろう。

論文の末尾では、感動学における今後の課題が示されていました。曰く、感動のカテゴリー分類に必要な、種々の感動ポートフォリオが不足しているとのこと。
卒論テーマに迷うそこの貴方!
感動学の基礎研究をしてみるのはどうでしょうか!

感動のカテゴリー化

「感動(KANDO)を科学する」では、感動のカテゴリー化を課題と挙げていました。しかし、その課題にすでに部分的に取り組んでいる本があります。
それが 前野隆司著『感動のメカニズム』。

本著は、ユーザーにどの様な経験を提供できるかを検討したバーランド・H・シュミットの「経験価値マーケティング」を先行研究に、感動を要素分解するフレームワークを示します。
それが「感動のSTAR分析」。
STARは、sense, think, act, relateの頭文字です。
ユーザーにおける価値ある体験とは、以下にカテゴライズ可能です。

  • sense: 5感での経験の拡大として感じた体験

      • 視覚的美:美しい夕焼けを見て感動した

      • 聴覚的美:美しいバイオリンの音色に感動した

      • 味・匂い:両親の手作りハンバーグに感動した

      • 心地よさ:ステアリングの手触りに感動した

      • その他:ヨガの体幹を伸ばす心地よさに感動した

  • think: 知見の拡大として感じた体験

      • 理解:悟りとは何か理解できたことに感動した

      • 納得:先生の助言の適切さと斬新さに感動した

      • 発見:過去の失敗を克服できていたことに感動した

      • 圧倒:グランドキャニオンの雄大さに感動した

  • act: 体験の拡大として感じた体験

      • 努力:初めての発表を乗り越えた努力に感動した

      • 達成:自己ベストを更新できた上達に感動した

      • 稀有:1000年に一度の自然現象に立ち会え感動した

      • 幸運:最愛の夫に出会えた幸運に感動した

  • relate: 関係性の拡大として感じた体験

      • 優しさ:母の優しさに感動した

      • 一体感:演奏をしていてチームとの調和に感動した

      • 親近感:著名人が飾り気なく接してくれて感動した

      • 承認:上司が認めてくれたことに感動した

      • 尊敬:被災者の気高い振る舞いに感動した

以上のような体験(感動事象)が、主体において感情の高まりを伴い経験された場合に感動が発生する。というのが前野さんの分析です。
同じ感動事象でも、主体の感じ方により意味合いは変わります。他人の感動事象でも、それを見聞して自己投影が果たせれば、直接に体験せずとも感動は発生します。

STAR分析を利用することで、ぼんやりした「感動した!」の体験に、ハッキリとした枠組みを設定できます。
それは、自身の感動をドライブして他者に伝える際、「どういう点で価値ある体験だったのか?」を考えてみる端緒になります。

感動を作る「型」

論文を通し、感動とは何かの理解が進みました。
要するに、感動とはギャップのことで、それまでの経験・知見が予想に反する形で拡張した際に現れる感情のことだと。感動は私たちを形成するポジティブな経験の総称で、だからこそ私たちは感動を再生産したい=感動したいし感動を伝えたいのだと。

とはいえ、これだけだと「感動する文章」の書き方の理解としては甘いです。私たちは、感動をどう書けば伝えられるのかが知りたいのです。

犬塚壮志さんの『感動する説明「すぐできる」型』は、これまで見てきた感動の定義に沿う形で、具体的な「感動する説明」の実践方法を解説しています。
著者の犬塚さんは駿台予備校のカリスマ講師として活躍され、現在は教育コンテンツ・プロデュースなど、幅ひろく発信をされています。

前掲書では、感動する説明を「聴き手を変容させること」と定義します。
情報が溢れる現代では、単なる情報提供だけでは聴き手は満足しません。聴き手の知見や見識を拡大させて、その能力や機能を拡充することができてこそ、「感動」は生まれます。

「感動する説明」は次の構造に則ります。

  • 聴き手と話すテーマとの関係性には、4つのレベルがある。

    1. 知らないゾーン:聴き手が認知していない/認知できないネタ

    2. 関心ゾーン:聴き手が気になっていたり興味があるネタ

    3. 関係ゾーン:聴き手と無視できない結びつきがあるネタ

    4. 自分ゾーン:聴き手がすでに使いこなしているネタ

  • 「感動する説明」とは、話を聞いた聴き手の理解を、より深いゾーンへと変容せしめられる説明のこと。

  • 深いゾーンへ聴き手の関心を寄せるには、それぞれ壁を突破する必要がある。

    • 1→2の壁を突破するには、「認知の壁」を壊す必要がある

      • 面白い!へぇ〜と関心を持ってもらう

    • 2→3の壁を突破するには、「私事の壁」を壊す必要がある

      • 自分にも関係あるかもと自分ごとにしてもらう

    • 3→4の壁を突破するには、「獲得の壁」を壊す必要がある

      • 自分に取り入れる必要性や緊急性を感じてもらう

  • 壁を壊して聴き手に感動を与えるには、聴き手のプロファイリングが欠かせない。以下のポイントを押さえ、聴き手に合わせた説明を考える。

    1. 聴き手の現在地:そのテーマは聴き手のどのゾーンに今あるのか

    2. 聴き手の到達点:話した結果、どのゾーンに相手を移動させるか

    3. 聴き手の価値観:聴き手のスタンスや、関心ごとはどうあるのか

『感動する説明「すぐできる」型』では、上記の壁を突破して、テーマを聴き手に引き込ませる8つの手法を紹介しています。本のテーマは教育的な説明に置かれており、ライティングに適用できない部分もありますが、大変に参考になります。
プレゼン教本としてめちゃくちゃ参考になりました。
具体例を書くと記事の量が2倍になるので、詳細はぜひ本を手に取り確認してみてください。

まとめ : 「感動する文章」の方法論

お疲れ様でした。
大分長くなったので、最後にこれまでの内容をまとめ、「感動する文章」の方法論を明らかにしていきましょう。

  1. 感動とは、予想に反して能力や知見が拡張できた際に発生する

    1. 「感動する文章」とは、読み手を変容させる文章である

      1. 変容とは、具体的には次を意味する

        1. 新しい知見が得られた(think)

        2. 新しいことが出来るようになった(act)

        3. 新しい関係性を構築できた(relate)

          1. これらの変容を読み手に追体験させられる文章が、「感動する文章」だ

      2. 「予想に反する」を演出するには、事前にネガティブ方面に話を振ってみたり、何気ない話題から展開することが効果的だ

      3. 「追体験」を演出するには、心理的な壁を突破していく必要がある

        1. 具体的には、面白い!へぇ〜と関心を持ってもらう認知の壁、自分に関係があるものとして捉えてもらう私事の壁、を崩す工夫が必要になる

          1. 「壁を崩す工夫」の具体例としては、希少性をアピールしたり、一般的なニュースと紐付けたりの技法がある

講義や販促の場合、具体的なユーザーアクション(ゴール)が設定しやすいものです。例えば、Webページに誘導する。商品を買ってもらう。
それに対して小説やエッセイの場合、読み手のアクションが不明確な場合が多いかもしれません。大抵の場合は気分で書いて、共感が得られたら嬉しいぐらいかも。
今回の学習では、文章の最終的なゴールを「読み手を感動させること」と考えました。本記事の結論に沿って言い直せば「読み手を予想外の形で変容させること」です。

本記事では「感動する文章」を書くための、さわりの部分しか触れられませんでしたが、皆さんのライティングを深めて考えてる、きっかけになっていたら嬉しいです。
そうしたことが果たせるのが「感動する文章」なのかなと感じました。


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最後までご覧いただきありがとうございました!
文章術を学んでいると、方法論やフォーマットに傾きすぎて、「こんなんでいい文章書けるのかなー」と感じる時があります。
簡単に書くのは間違ってはないわけですが、手段に堕して、目的を忘れてしまってはしょうがない。視座を高めた文章術も意識していきたいところです。

今後も文章術の勉強/発信は続けていこうと思います!
皆さまの気になる文章術のテーマについても、ぜひ教えてくださいmm


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