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スペイン回想記1 初日

スペインに留学したいという夢が叶い、1か月ほどマドリードで生活した。独学でスペイン語を勉強し、スペイン語が自分の部屋の中だけの出来事だった私にとって、マドリード=バラハス空港に降り立ち、スペイン語に囲まれた瞬間の高揚感は言葉にできないほど特別なものだった。

電車に乗る勇気はまだ無くて、タクシーに乗った。スクショしておいた滞在先の住所をタクシー運転手に見せる。思っていた以上に空港からマドリード市内までの距離は短くて、15分ほどであっという間に到着した。到着する少し前から会計は現金かカードか聞かれていたのだけれど、わからなくて滞在先の番地を言ってしまった。もう一度身振り手振りを交えて聞かれて、ようやく理解し、現金はefectivoということを知った。

私はSpotahomeを介して滞在先の部屋を借りたのだが、男性二人、女性一人が住んでるということのみしか同居人については情報がなかった。どんな人か部屋につくまでは物凄くドキドキしていた。パブロという名前の大家さん、といっても同居人の一人なのだけれど、とはメールで連絡をとっていて、三人とも働いていて21時ごろの帰宅になるとのことだった。私は19時過ぎに空港を出て、19時半ごろアパートに到着した。メールでポーターに鍵を預けてあるということも聞いていた。アパートについてすぐ女性と男性がエレベーターの前で立ち話していて、私に「何階?」と聞いてくれた。このときはまだ緊張とスペイン語力不足で言葉がうまく出て来ず、女性が英語に切り替えてくれたおかげで、スペイン語と英語を交えてなんとかポーターから鍵を受け取りたいことを伝えられた。そしたらその男性がポーターだった。

教科書などを使って王道の順序でスペイン語を勉強したわけではなかったため、一階、二階、三階などの表現を知らなかった。このエレベーターの前に立つまで知らないことにも気づいてなかった。ドラマや歌だけの勉強だと単語に随分偏りがあるみたいだ。私の借りたピソは5階だったので、エレベーターの前でポーターに5階はquintoと教わった。これがスペインで学んだ二つ目の単語になった。

スーツケースがいっぱいでとても冬物のパジャマを持ってこれなかったので、ついてすぐGran VíaのPrimarkに行くことにした。行き先をGoogleマップで検索したらMoovitとというアプリが表示されたのでダウンロードしてみた。このアプリがなかなか便利でマドリード滞在中はかなりお世話になった。ピソはSainz de Barandaという通りにあったが、どうやらIbizaという通りまで行かないといけないらしい。ついたばかりで全く土地勘がなく、マップを片手に右往左往して5分でつくはずのところに20分かかってしまった。

バスが来たはいいものの乗り方がわからない。交通カードも持っておらず、お札も5ユーロ札からしか使えないと言われた。しかし空港のATMからは20ユーロ札しか出てこなかったために私の財布には20ユーロ札しか入っていなかった。運転手に「ごめんなさい。はじめてでカード持っていなくて、今ついたばかりで20ユーロ札しか持っていないです。」と伝えた。運転手は少し嫌そうな顔したけれど20ユーロ札を受けとって、お釣りと切符をくれた。ちゃんとバスに乗れたことが嬉しかった。車窓から見えるはじめての街の夜の景色にワクワクした。Palacio de CibelesからBanco de Españaを通ってGran Víaまでの道はヨーロッパの都会らしい景色で、ついにマドリードに来たのだという実感が湧いた。

Gran Vía - Callaoというバス停で降りるとすぐ目の前に目的地のPrimarkがあった。かなり大きな建物で外観はおしゃれでモダンだった。パジャマコーナーにいってみて驚いた。服がぐちゃぐちゃに台上に積み重なっている。まるで乾燥機から出して畳まずほったらかしにした洗濯の山のようだ。パジャマがないと眠れないから仕方なく選ぼうと思うのだけれど、購買意欲の下がる陳列で気が乗らず結局パジャマ買うだけに一時間くらいかかってしまった。夜で閉店も近かったからかレジも混んでいて長蛇の列だった。服屋だと思っていたけれどスキンケア用品も売っていて、列に並んでいる間に化粧落としのコットンをみつけてかごに放り込む。ハリボーのグレープフルーツグミも見つけてこれもまたついついかごに放り込む。待ち時間が長いとやっぱり余計なものを買ってしまうな、なんて思いながらCajasという表示をぼんやり見つめ続けてレジはスペイン語でCajasということを覚えた。

買い物を終えて同じバスで帰ろうと思ったのだけれど、行きたい方向と逆方向のバスに乗ってしまいアプリを見ると目的地からどんどん離れていく。これはまずいと思ってバスから降りたまでは良かったが、周りも暗くもうバス停を探す気力もなかったのでタクシーを捕まえて帰宅した。

パジャマなんか今日は我慢して明日の昼に買いに行けばこんなに疲れなかったのに。

なんだかぐったり疲れてアパートの門を開けようとしてもうまく開かない。すると向こうからジム帰りの服装で卵を片手にした若い男性が歩いてきた。

「あ、この人がパブロだ。」とすぐにわかった。

そのときのパブロの溌剌とした笑顔と明るくて優しい雰囲気が、それまでの私の緊張を一気にほぐしてくれた。パブロが手を差し伸べてくれたので門を開けてくれるのかと思って鍵を渡したら、パブロは挨拶の握手に手を差し伸べてくれていたのだった。

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