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「コレクションズ・ラリー 愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 共同企画」愛知県美術館 レポート

愛知県美術館では同館と愛知県陶磁美術館のコレクションをそれぞれの学芸員が紹介する展示を開催している。4/14まで。
また同館のコレクション展では新規収蔵品のお披露目もしている。


愛知県美術館と愛知県陶磁美術館のコレクションを合わせると、その数は17,000件以上にのぼります。本展は、そのなかから両館の4人の学芸員がそれぞれ独自の視点でテーマを立ててご紹介する、オムニバス形式の展覧会です。同じ愛知県立の美術館同士ですが、意外にもこのように大きな規模での共同企画を行うのは初めてのことです。愛知県陶磁美術館が休館中(2025年4月に再開予定)だからこそ実現したこの企画、2館のコレクションが出会うことで生まれる作品同士の共鳴を、是非ともお楽しみください。

PRより


プレス向け内覧会で取材をしたものの本展はSNS投稿禁止の作品が多く紹介できる箇所が限られているので、筆者が気になったところをピンポイントで紹介したい。


御嶽恵子《情報の石》1984年 愛知県美術館 
御嶽恵子《情報の石》1984年 愛知県美術館 

本展入口。石のようなものが積み上げられていた。
これは広告のチラシを紙粘土にして丸めて固めたもの。「企業から発せられる広告をただ単に受け止めるだけでなく、それを創造的に作品に転化しようという発想であり、同時に環境問題に対する一つのアクション」とのこと。令和4年新規収蔵(作家寄贈)。



イントロダクション


《御深井釉狛犬》江戸時代(18~19世紀) 愛知県陶磁美術館

入ると《御深井釉狛犬》が。加藤豊明による寄贈。これは章ごとに置かれて観客を出迎えてくれている。


本展の導入として各セクションを紹介するような部屋となっている。


縄文土器の深鉢。愛知県陶磁美術館蔵。


長井朋子《美しい日曜日》2008年 愛知県美術館

長井の作品は令和3年新収蔵されたもの。塩入敏治の寄贈。



JOMON

日本のやきもの史上、最古にして最大の人気を誇る縄文土器。その造形のどんなところに人々は惹きつけられるのか、土、形、紋様などの視点からその魅力を探りつつ、共鳴する作品とともに楽しみます。


手前は縄文土器らしい火焔が特徴的な深鉢、奥にはアメデオ・モディリアーニの《カリアティード》。


小ぶりな土偶。



うーまんめいど

映像作家・出光真子の著書『ホワット・ア・うーまんめいど』に着想を得たこの章では女性作家による作品を特集します。また、近年の両館の新収蔵作品も展⽰いたします。



前本彰⼦《Silent Explosion──夜⾛る異国の径》1988年 愛知県美術館作品 正面から


前本彰⼦《Silent Explosion──夜⾛る異国の径》1988年 愛知県美術館作品 右側から


前本彰子《Silent Explosion ──夜走る異国の径》が令和4年度の新収蔵としてお披露目れている。

2021年コバヤシ画廊で開催された前本彰子個展「紅蓮大紅蓮」にて久しぶりに展示された作品が愛知県美術館へ収蔵されていた。
同作は「自然と一体化して生きている日本人」というステレオタイプではなく、バブル崩壊前、経済の絶頂期にあった日本の現代美術像を見せた「アゲインスト・ネイチャー 80年代の日本美術」展(1989年)に出展された作品で同展とともにアメリカを巡回した。


「紅蓮大紅蓮」の展示風景はこちら。

弊誌では本展に関連した論考も掲載した。



ノロ燐《胎芽その刻印》1964年 愛知県美術館、ノロ燐《胎芽とその兇星の寓話》1966年 愛知県美術館


ノロ燐《胎芽供養堂》1973年 愛知県美術館


前本の作品のドレスから血が噴き出しているような造形と色彩に呼応させるよう、隣へ置かれたノロ燐の観音開きの作品は観音開きの扉をあけるとおどろおどろしい世界がつくられていた。

ノロ燐の《胎芽その刻印》と《胎芽とその兇星の寓》はどちらも子を宿したことを示しているが、《胎芽供養堂》では亡くなったことを暗示させるような作品となっている。どれも令和3年新収蔵作品。
作家について筆者は全く知らなかったが、1942年の愛知県生まれ、2013年のあいちトリエンナーレ13並行企画事業として纐纈敏郎と二人展を七ツ寺共同スタジオなどで開催し、また第8回円空賞を受賞しており、1960年代の前衛らしい作風で大変興味深い。



三島喜美代《Package》1971/1973年 愛知県陶磁美術館

三島喜美代は1932年生まれ、今年92歳となる作家。新聞を丸めたような身近なゴミを陶で再現したもの。氾濫する情報とそれがあっさり消費され捨てられる状況を示唆しているような作品。昨今、評価が高まりつつある作家。



祈り

展覧会を締めくくるこの章では、仏教美術や墓の副葬品などを通して、作品に込められた祈りや死後の世界に対する人々の想いについて考えてみます。


《神将形⽴像》平安時代(12世紀)愛知県美術館/木村定三コレクション

愛知県美術館の収集方針からすると異色な像は、木村定三の遺族から受贈したもの。3,307件ものコレクションには古美術も多く重要文化財も含まれ、美術館のコレクションを幅広いものにしている。



本展についてプレス向けに解説する石崎尚愛知県美術館学芸員(左)




2023年度第4期コレクション展

女性のアーティストのコレクション

令和5年度新収蔵作品を含む、若手から中堅の女性アーティストのコレクションのみで構成します。


左 塩田千春《Endless Line》2017年


松川朋奈《I remember only that you were wearing a blue shirt that day》2023年、《Time passes even if I'm not here》2023年《I decide for myself 2》2023年


山崎雅未《Buildings》2023年



田島美加《Art d'Ameublement (Asilo de la Paz)》2023、林 玲翔《world》2023年



右側の2点 古川あいか《失った色―2》2021 古川あいか《構成―30.8》2018年
三瓶玲奈《色をほどく》2022年 三瓶玲奈《色を見る》2022年



竹村 京《The books in K.T.'s bookshelf and foreign book》2019年


今回のコレクション展の冒頭は女性作家を中心に展示を組んだキュレーションであり、寄贈された新規収蔵の牧廣美コレクションのお披露目でもあったようだ。
名古屋で株式会社バッファローを経営する牧廣美はアートの大コレクターとして著名で、愛知県美術館だけでなく、豊田市美術館滋賀県立美術館にもアートコレクションの寄贈をして話題になっている。
アートフェアで見た作品が美術館ですぐ見られたことが驚きであり、若手アーティストの作品という今のアートが美術館へ収蔵される流れを作っているのではないだろうか。
コレクターから託された作品に対し、愛知県美術館が持つコレクションとどう繋げ文脈を作るか、美術館としての手腕が今後問われると思う。


西條 茜《甘い共鳴》2021年

《甘い共鳴》は寄付金により購入された作品。陶作品らしく口が空けられているが、ここから息を吹き込み中の空洞で音を発生させる楽器としての用途にもなっており、収蔵前の展示ではこれを使ったパフォーマンスもあったようだ。天井からこのオブジェが吊り下げられているのはその名残だろうか。いくつもの口から何人もが息を吹き込むというのはコロナ禍においてなかなか危うい作品だったのでは。



プラスキューブでは百瀬文《聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと》(2013年) が上映されている。活躍の著しい百瀬の初期作であり卒業制作で発表した際に大きな話題となった作品だ。




■コレクションズ・ラリー 愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 共同企画
■2023年度第4期コレクション展

会期:2024年1月16日(火)~ 4月14日(日)
場所:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
時間:10:00 - 18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館:毎週月曜日(2月12日[月・振休]は開館)、2月13日(火)
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000431.html

https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000434.html

レビューとレポート