ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ 展示レポート 2/3
3. この美術館の可視/不可視のフレームはなにか?
布施琳太郎
階段で降りていくと青い光が漏れていた。象徴的な色の照明を使う布施琳太郎はル・コルビュジエが基本設計した国立西洋美術館の本館建築へ多大な関心を寄せ、美術館の建築というフレームを問うていた。
田中功起
田中功起は美術館の不可視のフレームとでもいえるものを問題化した。「複数の提案を作品化し、美術館が暗黙のうちに前提としている「鑑賞者」の取捨選択を批判的に浮き彫りにしようとする」。
提案のうち「臨時託児室」、「翻訳言語の選択拡張」、「作品を展示する位置を車椅子/子ども目線にする」などが実現している。
布施も田中も美術館のコレクションに触発されて新作を構想したのではなく、美術館自体を一つの問題とみなし、オルタナティブの可能性を投げかけている。
4. ここは多種の生/性の場となりうるか?
鷹野隆大
国立西洋美術館には女性アーティストの作品が極端に少ない問題は、白人男性中心主義の既存西洋美術史言説体系に基づくものであり、その偏重を変える蒐集方針が打ち出されジェンダーバランスの不均衡の是正は国際的な問題でもあるが、国立西洋美術館が多種の性の場とはなりえていない。そして作品を眺める視点も同様だ。「鑑賞者は無味無臭の理想化された存在として想定しがちである。そこはわれわれの生の空間とは異質なニュートラルな場たろうとする…鷹野隆大は国立西洋美術館の所蔵作品がもし現代の平均的な居室に並んでいたらどう映るだろうか」と考える。
ミヤギフトシ
飯山由貴
飯山由貴は美術館の「母体となった松方コレクションの成り立ちを読み解き、そこに第一次大戦の戦争記録画やナショナリスティックな意図を持って発注された絵画が含まれていたことに着目しつつ、松方幸次郎が想定していた「アーティスト」とはどういうものか」問う。
プレス・関係者のみが招待された内覧会日の冒頭、プレス向けに展覧会概要が説明される際に、予定になかったであろうパフォーマンスを飯山は行い、大きな話題となった。
また飯山のパフォーマンスに合わせ、入館していた賛同者たちが垂れ幕をたらし拡声器でシュプレヒコールをあげ、ビラをばらまいていた。
予告なく唐突な展開だったが、その場にいた人々は混乱せず、冷静に彼らの行動を見ていたように思え、長くコールを続ける賛同者に対し、参加作家の1人から「言いたいことは分かるけど、長ぇよ!」との発言が出ると、人々が散り始め、なんとなくパフォーマンスは終わり内覧会が始まった。
このパフォーマンスについては他誌が詳細なレポートや解説記事を出している。東京アートビートが関連する記事を複数あげているのでそちらを確認してもらいたい。
長島有里枝
反─幕間劇─上野公園、この矛盾に充ちた場所:上野から山谷へ、山谷から上野へ
弓指寛治
上野公園、美術館から一歩外に出れば、そこは路上生活者が住む場所であるが、整備、浄化されたことで見えにくいものとなった。その現実を美術館は直視してきたか。
「小喜劇のごとく演じられる「幕間劇」には「反して」さし挟まれるこのセクションに並ぶのは、上野と同じく路上生活者が少なくない山谷地区におよそ一年通い、そこに暮らすひとびとあるいは彼ら―彼女らを支えている方々とこのうえなく丹念にコミュニケーションをとり、上野公園でのアウトリーチにも参加してきた弓指寛治によって描かれる膨大な絵たちである。それらの絵に言葉を添えながら弓指は、複雑なインスタレーションを構成する」。
階段を上がると踊り場に学芸員の新藤淳を描いた絵がかかっていた。新藤は弓指へ展示を依頼することで本作の発端をつくり、また弓指の作品において準主人公ともいえる存在。考えてみれば本展を企画しまとめ上げた人物でありながら裏方であるためほとんど姿をみることがない新藤と鑑賞者が出会うという場でもある。
インスタレーションとして構成された弓指の絵とそれに合わせた吹き出しのようなセリフを一つ一つ追い見ていくと物語へ入り込んでいくようであった。
5. ここは作品たちが生きる場か?
竹村京
2016年にルーヴル美術館で破損した状態で発見され、国立西洋美術館蔵となった旧松方コレクションのクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》は、最低限の保存処置のみされて展示されたが、竹村京はそれに触発され、欠損部分をさまざまな色の絹糸で想像的に修復する作品を制作。制作にあたっては、アルステクネの特許技術をもちいて欠損したモネ作品の実物大高精細複製を利用している。
3へ続く
概要
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
Does the Future Sleep Here? ―Revisiting the museum’s response to contemporary art after 65 years
主催:国立西洋美術館
会期:2024年3月12日(火)~ 5月12日(日)
会場:国立西洋美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園7-7)
開館時間:9:30 ~ 17:30 金曜・土曜日9:30 ~ 20:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(火) (ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝)、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館)※最新情報は国立西洋美術館公式サイトにて。
ウェブサイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ―国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ 展示レポート
1 https://note.com/misonikomi_oden/n/n349bb558e5bc
2 https://note.com/misonikomi_oden/n/nf1eac7f47c54
3 https://note.com/misonikomi_oden/n/na43589d3c3eb
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