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サプライズ! 0次会

内容紹介
『サプライズ! 0次会』【シナリオ形式】

 京都・木屋町、高瀬川のそばを歩いている梶浦厚志と児玉弘恵。二人の母校である、すでに廃校になっている小学校を見掛けると、一週間後に結婚式を挙げることを報告するつもりで中へと入って行く。すると……
 サプライズ! 講堂に集まった二人の友人たちが結婚式前の「0次会」を開いてくれていたのだ。
 歓喜する弘恵!
 ところが事態は予期せぬ方向へと展開していく……。

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サプライズ! 0次会(2/2)

○ 居酒屋(夜)
亦野「ドキッとするやんけ」
美咲「そう?」
涼子「この流れから普通は小学校の時の幼い
 初恋かと思うでしょ?」
美咲「可愛い。ね?」
涼子「男はこれやから」
愛子「運命の出会いって意外と――」

○ 講堂
   スタンドマイクでスピーチしている遠
   藤。
遠藤「三年前の再会でした」
愛子の声(オフ)「弘恵が二十九の誕生日。
 女って三十前って意識するもんやねんよ」
遠藤「当然、小学校の時の彼女とは大変わり
 で。でも面影だけは残っていて――不思議
 な気分でした」

○ 居酒屋(夜)
愛子「て、いうことは、小学校の時の幼い初
 恋とは違うていうことや」
亦野「は、じ、め、て、はマジてことや」
的場「これは、えらいことになるぅー、思う
 たで」
美咲「もう、何、期待してんねん」
涼子「男はこれやから」
市田「お前ら、気楽でええわ。俺の身にもな
 れよ。俺なんか心配で心配で、ハラハラし
 とったんや」
美咲「嘘ばっかり」

○ 講堂・回想
   遠藤を見てニヤッと笑っている市田。
   その様子を見逃さない美咲。
   ――唖然としている梶浦。
遠藤「以上、は、じ、め、て、の、人の不思
 議なお話でした。では続いて2人目の人―
 ―これを紹介するのは私の仕事ですね?」
   ――遠藤は、立食テーブルにいる出席
   者の方を指さす。

○ 居酒屋(夜)
涼子「ビックリしたわ。二人目、三人目て出
 て来るんやもん」
市田「六次の隔たりっていうんやて」
美咲「六次の隔たり?」
涼子「何やのん、それ?」
市田「人間て、友達の友達の友達ーて、辿っ
 ていったら六人目までに世界中の人とつな
 がってるらしいんや。どんな有名人とも、
 どんな見知らぬ人とも」
愛子「スモール・ワールドともいうんやって
 ね。意外と世間は狭いってやつ」
美咲「へー」
市田「ということは、世界のどこかにいてる
 弘恵ちゃんの運命の人ともつながってるは
 ずやって、弘恵ちゃんは思うたんやて」
涼子「え? 何で? 弘恵さん、あんな美人
 でもてんのに?」
美咲「涼子、知らんの? 弘恵さんの宿命?」
涼子「宿命?」
美咲「遺伝子やねんて」
涼子「遺伝子?」
愛子「アホやな、弘恵――そんなん信じて」
市田「そんな天然がええねんやんけ! 可愛
 いねんやんけ!」
愛子「男にはな、浮気する遺伝子いうのがあ
 るて、イギリスかどっかの学者が発表した
 んやって。それは有りそうやわな」
美咲・涼子「(頷く)」
愛子「同じ様に女には浮気される遺伝子があ
 るて、思うたんやて」
涼子「え? そんなんあるんですか?」
愛子「知らんけど、弘恵の家系、先祖代々、
 シングルマザーの家系やねんて」
涼子「シングマザーの家系? そんなんある
 んですか?」
愛子「知らん! 知らんけど、弘恵のお母さ
 んも、お祖母さんも、いつも浮気されてば
 っかりで、シングルマザーやったんやて」
涼子「驚きですね! そんなんあるんですか
 ?」
愛子「もっと驚くで。弘恵のお父さん、誰や
 と思う?」
涼子「え? 誰ですか? 有名な人ですか?」
愛子「ジョン・レノン」
涼子・美咲「ええ!?」
愛子「ホンマかどうか知らんけど、弘恵、お
 母さんからそう聞かされてるんやて。ジョ
 ン・レノンて、毎年のように日本に来てた
 んやて。それでお決まりの軽井沢のホテル
 の近くでお母さん、いてはって――」
市田「計算は合うか――」
愛子「ジョンをオノ・ヨーコから奪って浮気
 させたんがお母さんの一番の武勇伝なんや
 て」
市田「死んでるから何とでも言えるけど」
的場「いや――あるな」
市田「ん?」
的場「俺の友達の妹がイギリス旅行の飛行機
 で隣に座って知り合った人がなんとショー
 ン・レノンの友達で、日本での仕事を手伝
 ってたっていうんや。分かるか? 俺も五
 人目でジョン・レノンとつながってるんや
 !」
涼子「(的場に)そんなん、ええねん!(愛
 子に)それで?」
愛子「それで弘恵、浮気されたら、その男に
 次の新しい彼氏、紹介させることにしたん
 や。それで六次の隔たりを辿って行ったら、
 世界のどこかにいる、絶対に浮気しない、
 運命の人と出会えるって信じたんや」
涼子「へー。それ、弘恵さんから聞いたんで
 すか?」
愛子「いや、私は――」
   愛子、チラッと亦野の方を見る。
   亦野もチラッと愛子の方を見る。
   愛子と亦野、目が合うと、俯く。
亦野「俺がその――四人目やったから」
   間。
涼子「何? それでさっきから大人しかった
 ん?」
美咲「それって略奪愛!?」

○ 講堂・回想
   「梶浦厚志&児玉弘恵♡結婚おめでと
   う」と書かれた横断幕。
   それを亦野と愛子が飾っている。
   涼子がケータリング業者と立食テーブ
   ルに料理を並べている。
   美咲が音響、スタンドマイクの調整を
   している。
   作業しながらも美咲がチラッと見る視
   線の先――市田。
   市田は秀子と話している。
市田「じゃ、打ち合わせ通り。頼んだね」
秀子「はい。約束通り」
市田「――分かったよ。後で知らせるから」
   市田、講堂から出て行く。
   美咲、作業を止め、秀子のもとに歩み
   寄る。
美咲「何の打ち合わせですか?」
秀子「え? ――いえ、別に」
   秀子、美咲から離れ、携帯電話を取り
   出し、何やら操作し始める。
美咲「――」

○ 四条通・回想
   梶浦と弘恵が商店街を見て回っている。
   その背後を的場が尾行している。
   的場、携帯電話を取り出し、何やら操
   作し始める。

○ 講堂・回想
   0次会の準備は全て整い、出席者も全
   員揃っている。出席者の半分は膨らま
   せたジェット風船を手に持っている。
   残りの半分はクラッカーを持っている。
   市田がクラッカーを配って回っていて、
   最後の一つを秀子に渡す――その時に
   小さなメモを渡す。
   それを美咲は見逃さない。

○ 木屋町通・回想
   梶浦と弘恵が手をつないで歩いている。

○ 講堂・回想
   新郎&新婦席の弘恵、急に席から立ち
   上がり、隣にいる梶浦に大声で謝る。
弘恵「ごめん! 私、ホンマ最低の女やねん
 ! アッ君と結婚なんか出来へんねん!
 する資格なんかないねん!」
   弘恵、泣き出す。
   ――唖然としている梶浦。
   弘恵の涙!
   それを見て、市田は「!」となる。
市田「違う! 弘恵ちゃんは最高の女性や!」
   市田、弘恵のそばに歩み寄る。
市田「弘恵ちゃんに涙は似合えへん! 弘恵
 ちゃんは幸せじゃなきゃ!」
   的場も叫びながら弘恵のもとへ駆け寄
   る。
的場「弘恵ちゃんは笑顔やないとアカンのや
 ! 笑顔や! 笑顔を見せてくれ!」
   すると、会場内の男どもは口々に弘恵
   を褒め称え、そばに集まって来る。
   泣き止んだ弘恵は急に走り出し、講堂
   から飛び出して行く。
市田「弘恵ちゃん!」
   市田も走り出し、弘恵を追う!
   的場と他の男どもも口々に弘恵の名を
   叫び、後を追い駆ける!
   ――唖然としている梶浦。

○ 木屋町通・回想
   弘恵が元・誠実小学校正門から飛び出
   して来る!
   少し遅れて、
   その後を市田と男どもが追い駆ける!

○ 四条通・回想
   弘恵が走る!
   その後を市田と男どもが追い駆ける!

○ 四条大橋・回想
   弘恵が走る! 豪快に鴨川を走り越え
   て行く!
   その後を市田と男どもが追い駆ける!
   が、その差はだんだんと開いていく。

○ 川端通・回想
   弘恵が豪快に走る!
   市田と男どもは京都四條南座の前で立
   ち止まり、諦める。

○ 豪快に走る弘恵の後姿・回想

○ 居酒屋(夜)
涼子「男はこれやから」
美咲「けど、愛子さんもやるもんやね。女の
 サガっていうやつなんやろかなー」
愛子「――」
涼子「(美咲に)私らも二十九やで」
美咲「そうやなぁ。もう、市田さんのこと、
 怒ったろう、思っとったけど」
市田「何で俺、怒られなアカンねん」
美咲「市田さんが一番、露骨やねん。露骨に
 弘恵さん狙ってるねんもん」
市田「そ――そんなことないで」
美咲「最初っから梶浦さんとは別れたらええ
 て思うてたやろ――そやのに、萩原さんも
 アホやで」
涼子「え? 何? 亦野さんが四人目やった
 んやね?」
亦野「――」
涼子「で、愛子さんと浮気したから、梶浦さ
 ん、紹介したん?」
亦野「もう、ええやろ」
愛子「――」
美咲「そういうこと。で、次がいよいよ六人
 目」
   皆の視線が市田に集まる。
亦野「俺、うっかり市田にだけ、喋ってしも
 たからな」
涼子「それで、0次会も必死に段取りして来
 たって訳や」
市田「な、何やねん? 俺が運命の人やった
 ら不満なんか?」
美咲「それを――梶浦さんと弘恵さんのこと、
 心配してるフリなんかして」
亦野「市田、今度、梶浦がお前を弘恵ちゃん
 に紹介すると思うか?」
美咲「そしたら弘恵さん、また運命の人は先
 送りや」
市田「何やて?」
美咲「次、紹介する人、決めてます? 七人
 目、なる人」
的場「市田、六人目とちゃうで」
市田「あん? 何や、的場、お前も名乗り上
 げるてか? 今の話聞いて、最後に油揚げ、
 さらうてか?」
的場「違う。俺も六人目と違う」
亦野「そっか。弘恵ちゃんは市田も的場も直
 接知ってるから六人目違うんや。一番目な
 んや」
市田「ええ!? ――そうか!」
美咲「なんや。結局そういうオチか」
市田「オチと違う。0次会は始まりや」
美咲「それ学んだ? 場所、学校やし」
        ―― 終わり ――

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