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思いやり整骨院事件(令和2年1月17日大阪地裁)

概要

柔道整復師である原告が、思いやり整骨院の統括である被告に対し、
主位的に、原告と被告の間に雇用契約が締結され、原告が被告経営に係る整骨院に勤務して労務を提供した旨主張し、各金員の支払請求をするとともに、
予備的に、原告と被告の間に組合契約が締結され、原告がこれを脱退した旨主張し、金員の支払請求をした。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

1.統括は,元院長から,高頻度かつ定期的に,本件整骨院の収支状況に関する詳細な報告書等の提出を受けるのみならず,さらに口頭での報告を受けていたことが認められ,この点は,統括の元院長に対する本件整骨院の業務に関しての指揮監督の存在を強くうかがわせるものであり,そして,元院長が本件整骨院での業務に関与することによって得た収入は,売上高その他業績による変動がみられない「基本給」及び「交通費」名目での固定的な性質のもので,この点は,元院長が労務提供の対価としての賃金を得ていたとの評価になじみやすいものといえ,また,元院長が本件整骨院での業務に関与する契機となった求人情報は「正社員」若しくは「アルバイト・パート」を募集するもので,元院長自身「アルバイト勤務希望」と記載するなどした履歴書を作成したことが認められるところ,これは元院長及び統括がともに雇用契約の締結を念頭に置いていたことを推知させる事情にほかならず,また,元院長が本件整骨院の院長を辞するに際しての「退職届」の作成は,他者に雇用されているとの意思を有していたことをうかがわせるものであるから,元院長と統括の間には,業務委託契約ではなく,雇用契約が締結されたと認定することができる。

2.元院長が平成27年4月1日から同年5月9日にかけて本件整骨院の業務に従事していたか否かについて,統括は,平成27年4月26日,元院長を含む「思いやりグループ」を構成する事業所若しくは法人の各責任者に対し,事業に関しての指示を電子メールにより送信するなどしているところ,元院長を除外することなくこのような指示を発した点は,統括が管理していたとみられる本件建物に本件整骨院が入居しており,統括において元院長の出勤ないし欠勤を把握し得るであろうことと相俟って,この時点で元院長が本件整骨院の業務に従事していたことをうかがわせる事情といえること等から,元院長は,本件整骨院の業務に従事していたことが推認できるというべきであるから,その間の賃金支払請求権が発生している。

3.元院長による時間外労働について,本件整骨院に元院長以外の柔道整復師の所属が認められないことに照らせば,元院長がデイサービス機能訓練業務及び訪問療養施術業務に従事すれば,それが時間外労働となるものといえ,そして,元院長は,これらの業務に従事したものと認められるから,元院長の時間外割増賃金請求は平成26年11月から平成27年5月までの部分の限度において理由がある。

4.元院長と統括の間には雇用契約が締結され,かつ,元院長が時間外労働を行い,割増賃金請求権を有するものであるところ,統括が割増賃金を支払っていない期間及び金額,さらには,このような契約上の義務を否定する統括の態度等を総合すれば,付加金全額の支払を命ずることが相当である。

5.雇用保険の手続不履践による債務不履行責任の有無等について,元院長は,本件整骨院の院長を務めている間,統括に対し,雇用保険資格取得届の手続をするよう求めた形跡は見当たらず,そのような取扱いを受け容れていたとみる余地があることに照らせば,統括に対して慰謝料の支払を命ずるまでの精神的損害が発生したと認めるには足りないから,債務不履行に基づく損害賠償には理由がない。

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