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スカヨハ版『攻殻機動隊』ほぼ間違いなく「あり」な理由

パラマウント・ピクチャーズから、士郎正宗原作『攻殻機動隊』の実写映画化に関するアナウンスがつい先ほどなされた。(たまたま目覚めてニュースを確認したら発表されていて、そのタイミングの絶妙さに驚いた)

曰く、ニュージーランドで製作が行われているとのこと。さらに新情報として、スカーレット・ヨハンソン、北野武といったキャスト陣に、ジュリエット・ビノシュ(『ポンヌフの恋人』『イングリッシュ・ペイシェント』の!)、マイケル・ピット、桃井かおりも加わっているようだ。

映画ファンとして、この布陣はなかなに素晴らしく、期待してしまう。(演技力もさることながら)興行収入に貢献するスターをメインに据えながら、実力派俳優で脇をしっかり固めている。

文面と一緒にキービジュアルもようやく公開され、鏡のようなもの(?)に向かっている "Major" 役(スカーレット・ヨハンソン)の表情が見て取れる。

さて、ここからが本題である。

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この作品、実はアメリカではスカーレット・ヨハンソンのキャスティングが発表された時点から、「日本人の草薙素子をスカーレット・ヨハンソンが演じるなんて、またしてもアジア人役を白人がやっているじゃないか!Whitewashing だ!」と非難する声があがっている。先のアナウンスをうけて、その動きは再燃している。

Whitewashing とは、映画の文脈では「有色人種の役に、白色人種の俳優をキャスティングすること」をさす。有名どころでは、『ティファニーに朝食を』において、ユニオシという日本人設定の役をミッキー・ルーニーが演じたのが最もひどい例だろう。(こちらのクリップ参照)

昔からハリウッドでは、人種の多様性があまりに少ないという指摘が多く、有色人種系の俳優やスタッフから白人至上主義的な風潮を非難され続けてきた。

その火に油を注ぐことになった契機が、記憶に新しい2016年のアカデミー賞賞授賞式だ。俳優部門にノミネートされた20人がすべてヨーロッパ系であり、本来ノミネートされてもおかしくないアフリカ系俳優が1人も選出されなかったことをうけて「白人至上主義だ」「ハリウッドに人種の多様性を!」という議論がいっそう湧き上がり、インターネット上においても炎上した。

さすがにハリウッドにおいてもこの動きを無視することはできず、より多様性を確保しようとする動きがちらほらと出始めているが、まだまだ道のりは長そうだ。(この問題は広範に渡るため、別途掘り下げたい)

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それじゃあ、今回の映画は?スカヨハの草薙素子は、ありか?なしか?

結論から言えば、大いに「あり」だ。

私は攻殻機動隊の世界にすごく詳しいわけではないが、原作とアニメ映画の最初の2作品は見ており、そこから伺える世界観に人種の概念はあまり関係なく、この作品においては人種が云々と議論をするのはあまり意味がないと考えている。

原作を見ていくと、登場人物の名前は、草薙素子と荒巻大輔を除けば基本的に苗字のカタカナ表記であり、必ずしも日本人であるという設定は見当たらない(サイトーやイシカワといった日本語風の苗字はあるが)。仮に実写化したとして、誰がキャスティングされても、その役柄さえ演じきれればよいのではないかとすら思う。

「前提を疑え」の精神で厳密にみていくと、「スカヨハ=草薙素子」かどうかも、もしかすると怪しい。上記の発表資料を見ると、"Motoko Kusanagi" という文字列は一度も出てこない。あらすじは、本資料の中盤に出てくるこちらの部分である:

Based on the internationally-acclaimed sci-fi property, “GHOST IN THE SHELL” follows the Major, a special ops, one-of-a-kind human-cyborg hybrid, who leads the elite task force Section 9. Devoted to stopping the most dangerous criminals and extremists, Section 9 is faced with an enemy whose singular goal is to wipe out Hanka Robotic’s advancements in cyber technology.

ここに出てくる主人公は "Major" としか書いていない。訳すと「少佐」となるので草薙素子を彷彿とさせるが、どうなのだろう。気になる。

さらに考えてみると、この物語のタイトルが示すのは「精神(Ghost)が身体(Shell)に宿る」という発想であり、このスカヨハの身体は攻殻風にいえば「義体」だろう(義足、義眼、といったものの延長線にあるものと考えるとわかりやすいか)。これがたまたま白人だった、と解釈することもできるし、人種がどうであるなんて、ことこの物語に関していえば瑣末な問題ではないか。

より現実的な問題でいうと、この実写映画で日本人をキャスティングしようと思ったとき、誰をキャスティングできるだろう?候補はいくつか考えられるものの、決定的な代案は浮かばない。

そういう意味では、演技もアクションもできる、SFの世界に合った近未来風のイメージが合うスカヨハは、ぴったりなのではないかとすら思えてくる。いち視聴者としてこのキービジュアルを見る限りでは、充分に役の雰囲気を捉えている。

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攻殻機動隊の映画アニメ版は原作マンガに忠実であるが、"Stand Alone Complex" や "Arise" といったテレビアニメはまた異なるビジュアルで異なる物語を展開させている。今回のアメリカ実写映画版に関しても同じことが言えるのではないか。

どう転んでもこの作品は近未来が舞台であり、作品の根っこにある「精神」に一貫性があれば、設定はクリエイターの想像力に委ねられるのが「攻殻」の魅力であり、観客としてはそれをどう料理するのかを楽しむものなのではないか。

ウェアラブル端末や Internet of Things といったトレンドにみられるように、攻殻機動隊の世界観が少しずつではあるけれども確実に現実に近づいている昨今において、この作品を見直すことの価値はあるだろう。

人間とは何か。人間と機械の境目をどこで引くのか。今回の実写化に関してはハデなだけのハリウッド映画にとどまらず、哲学的な深みのある問題を提起をする作品であってほしい。

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