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マスク×赤ちゃん 考察

先日投稿した記事の中で、さらりと赤ちゃん学会の話に触れた。

このバカ騒ぎが勃発して以降、密かに大きな期待を寄せていた学会だ。「赤ちゃん学」というネーミングの影響で朗らかな印象を受けてしまうが、その印象と裏腹に多分野融合型の本格的な学問領域なのだ。これぞリアルサイエンス(※拝啓、某蜂蜜男へ)と言わせていただきたい。

さまざまな「子どもの心の問題」が社会問題化している現在、 そのような問題に対処するためには、問題の根本にある子どもの心や身体の発達とその関係について総合的に研究する必要があります。赤ちゃん学研究センターが取り組む「赤ちゃん学」とは、小児科学、発達心理学、発達神経学、脳科学、教育学、保育学、物理学、ロボット工学、倫理学など多様な視点から、人間の起点である赤ちゃんを研究する異分野融合型の新しい学問領域のことです。
研究対象は幅広く、赤ちゃんの運動、感覚・知覚、認知、言語、社会性などの各機能の発達プロセスとその障害のメカニズムの解明、およびその支援、さらには、胎児や乳幼児の人権にまで及びます。誰もがみな、かつては赤ちゃんでした。赤ちゃんに秘められた謎を慎重に、しかし果敢に解いていくことは「人」を知ることになるのです。

その学会である「日本赤ちゃん学会」を設立された小西教授に、個人的に多大なる敬意を寄せている(…の、割に、教授本人が明言していない点を込めて個人的解釈で強気に引用してしまったことに、内心若干の恐怖もある)。小西教授の本「赤ちゃんと脳科学」は、これから子育てされる方には是非に読んでいただきたい名著だ。表紙の「"天才"に育てるより"幸せ"な人間に育てたい」は、多くの親御さんが望まれていることではないだろうか。この本は、昨今の本人が望まぬ英才教育を一方的に詰め込むことに疑問を投げかけ、赤ちゃん自身による環境へのメッセージを読み取る重要さを強調している。如何に赤ちゃんが能動的存在か認識が180°変わることを保証したい。

惜しくも2019年に亡くなられてしまったのだが(※どうにも2019年は科学会の重要人物が悉く亡くなっている気がする)、ご存命であれば、真っ先に赤ちゃんマスクとかいうフザけた世の中に声を上げてくださったのではないかと思わずにいられない。

(※Google画像検索を見ることすら反吐が出るので自粛した)

※ちなみにその赤ちゃん学会のポスター発表の一部を第1回講習会で紹介させていただいている(※2:51~「新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請が、空想の友達の生成に及ぼす影響」)

だからこそ、この本の登場は嬉しかった。個人的にどれだけ待ち望んだことか…

この本の著者である明和政子 みょうわまさこ教授の研究室のHPを確認した瞬間、確実に赤ちゃん学が絡んでいると直感したのだ。

ということで赤ちゃん学会のシンポジウムを調べた所ビンゴだった。2020年9月開催の第20回学術集会に登壇されていたので抄録を引用する。

 ヒト特有の心的機能の創発、発達を考える上で鍵となるのは、「なぜヒトはこれほどまでに他者と行為や心の状態を共有したがる存在となっていくのか」という問いにある。
 鳥類やヒトを含む哺乳類動物は、身体内部の変動を一定の範囲内に保とうとする生理機能をもつ(ホメオスタシスhomeostasis)。そして、何か大きな変化が起こりそうな時には、安定した基準値に戻そうとする能動的、予測的な制御システムを働かせる(アロスタシスallostasis)。ヒトは、出生後しばらく
はアロスタシス制御を自ら行うことができない。生存するには、養育者(他者)によってアロスタシスを調整される必要がある。養育者は乳児を抱き、授乳し、保護するという身体接触によって、乳児の身体内部に起こる変動を外側から制御する。不安や恐怖といった情動が喚起されれば、乳児は養育者の身体によって内部状態を一定の水準に回復させる。また、抱き、授乳されることで血液中のグルコースが上昇し、精神を落ち着かせる神経伝達物質が放出され、乳児は身体内部に「心地よい感覚」を得る。ただし、これはヒトだけでなく哺乳類動物や一部の鳥類にも当てはまる。
 他方、ヒトの養育者は、乳児を抱き、授乳するにとどまらない。乳児に優しく触れ、目を見つめ、表情を変化させ、声をかける。こうした積極的な働きかけは、他の霊長類ではみられない。ヒトは、内受容感覚で得る心地よさと同時に、外受容感覚情報を処理する経験を生後直後から豊かに提供されるというユニークな環境で育ち始める。この経験の蓄積によって、乳児は、養育者の顔や声といった外受容感覚情報を内受容感覚情報と結び付けて記憶していく(連合学習)。内受容感覚がもたらす心地よさは報酬として機能し、養育者に対する心的欲求、養育者の視点を通して外的環境を学びたいという動機を格段に高めていく。ヒト特有の心的機能が創発、発達する背後には、こうした生物学的制約が存在していると考えられる。

HP->日程表・抄録PDF(シンポジウム 抄録PDF)->
SY2-2「社会脳の発達と身体接触-なぜヒトは他者からこれほど学びたがるのか」

難解な表現だが、

〇人は自分の心の平常心を保つ(ホメオスタシス)為、行動や解釈を通して能動的に適応(アロスタシス)しようとするが、乳児はそれができない為、両親との身体的接触(抱く、授乳)を通して心地よさを与えられ、両親に感情を制御されることで適応する。
〇それに加えて、ヒトは他の霊長類とは異なり、微笑、声掛け、表情、視線などの手段を通じて、乳児に「受容している」ことのメッセージを、両親が積極的に送るユニークな子育てをする。

と、要約できるだろう(※要は、すぐ感情的にキレ散らかす感情の制御ができない傍迷惑な大人は、この"アロスタシス"ができていないと言える。)

以上より、「内受容感覚」とは「ホルモンなどの生理的刺激によって乳児自身が実際に感じる主観的な受容感」、「外受容感覚」とは「両親によって与えられる社会からの受容感」と換言でき、そして乳児は、この別々の受容感を結びつけて記憶(連合学習)することで、外受容感覚で同時に心地よさを感じるようになり、それを指標にしながら能動的に社会への参加の動機を強めていく、と私的ながら解釈した。

所で、マスク反対論に関して、Twitter界隈でよく言われるのは

1.単純に感染予防効果がない
2.CO2吸入量が増えて脳の発達に傷害の恐れがある
3.口腔周辺に細菌が繁殖して細菌感染症の恐れがある

と言ったところだろう。

確かに妊婦や救急患者に装着させるのはトチ狂っているとは思う。だがこれらは主に生理的かつ一人称的な視点であり、何より「装着することによって本人が被るリスク」である。だがここでしたい話は「大人が装着することで乳児が被るリスク」である。要は"お前が着けてるせいで赤ちゃんが迷惑する"ということだ。それは単に大人が外"さ"ないせいで子供が外"せ"ないといった日本特有の「空気」の話ではなく、赤ちゃん自身の成長を積極的に邪魔しているという話だ。

大人が今どうなろうが知ったことではないが、これからの社会を考えれば、長期的には今の乳児の「社会性の発達」が今後の日本社会に多大な影響を持つことは疑いない。騒動開始頃から「マスクの危険性は乳児の"体動の引き込み現象を阻害すること"」だと危惧していた。上記の抄録はそれが専門的な文体で書かれているものとも解釈できそうだ。

~体動の引き込み現象~

> 赤ちゃんは人の語りかけに対して手足をバタバタさせたりしますよね。
この時、語りかけた大人の方も無意識にうなずいたり笑ったりして反応します。これが「体動の引き込み現象」と呼ばれるものです。(143ページ)

この現象は、赤ちゃんの「確認作業」だと言われています。どういうことかと言いますと、赤ちゃんと大人の間にコミュニケーションが成立していることを赤ちゃんが確認しているということです。

「あ!通じてる!」

と、赤ちゃんは実感しているはずです。
つまりは「成功体験」ですね。

いうまでもなく、こうした体験が脳の機能を発達させることになります。
ところがテレビだと情報の一方通行で反応がありません。当時の医師たちはこのことを危惧して「2歳まではテレビを見せるな」などと提唱していました。

※テレビという別の話が出てしまったが、これも明和教授がいうアロスタシス制御に関連するだろう。"テレビに子守をさせる"という親御さんの話をよく聞く所だが、端的に、この時点の赤ちゃんは、一方的な情報の奔流に注意が向くと、そこから注意を自分で"逸らすことができない"。つまり、実際の所テレビに"集中"しているのではなく、テレビに注意が"拘束"されている状態なのだ。こうなった赤ちゃんには言語発達の遅れが生じることが多い。


話を戻すと、両親の顔の表情とは、乳児が社会への参加の動機を強めていく上で重要な基軸である。それがマスクによって阻害されるとどうなるか?子供が得られる"成功体験"の数が減ることになる。マスクで顔を隠したまま乳児と接する行為そのものが、乳児の成長機会を著しく奪うことになる。



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