今が まぶしい・じれったい
西松屋で、思い知らされた。
子育てがどんどん通り過ぎ、減っていることに。
*
8年前、妊娠が判明して、始めて足を踏み入れた西松屋。
マタニティ向けの棚を覗く。
葉酸サプリ、デカフェ紅茶、腹帯、マタニティ服……。
知らない世界が広がっていた。
お腹が膨らんできたら、西松屋が配布している『出産準備おまかせ本』を熟読。肌着の種類や呼び名に混乱しつつ、ベビーウェアから赤ちゃん布団まで一気に買い揃えた。
50サイズの短肌着の小ささにうっとりした。
出産後も幾度訪れたかわからない。
育児に行き詰まった心が、ここに来ると少し落ち着いた。
今、子育てしているのは私ひとりじゃない。
様々なお助けグッズの存在自体が、私を励ましてくれた。
*
そして今日、4歳と7歳の長袖Tシャツを買いに来た。120と100サイズ。
裏起毛を避け、手頃なものをゲット。
レジが混んでいたので少し待とうかと、ぶらり店内を回り、そして気づいてしまった。
陳列棚のそこかしこに、今の我が家には不要なアイテムが並んでいることに。
マタニティ服もベビーカーも抱っこ紐もオムツも離乳食もアンパンマンも、もう全部通り過ぎてしまった。
終わってしまった。
毎日見飽きるほどずっとずっとそばにあったグッズ。
それが子供の成長とともに使わなくなり、気付くとどこかにいってしまった。それぞれをいつ手放したのか、子育ての渦中で日々をやり過ごすのに精一杯で、全然思い出せない。
猛烈な淋しさが唐突に襲った。不意の膝カックンのように。
早く大きくなって欲しい。
自分で歩いて、自分で食べて、自分でトイレに行って欲しい。
そう願っていたはずなのに、願いは叶ったはずなのに、もう使わないアイテムが懐かしくて愛おしくて淋しかった。
*
もちろん、子育ては全然終わってなんていない。4歳と7歳の息子らは毎日絶好調だ。
お風呂上がり、いくら注意してもパンツ一丁のおバカな男子たち。
「早く!歯磨きするよ! 」と呼んだら、何故か長男は四つん這いになり、巨大トカゲのような迫力でフルスピードの体当たりをしてきた。
「痛いってば!」
叱ってもニヒニヒ笑っている長男。
そして兄リスペクトの次男が真似して二匹目のトカゲとなり、ぶつかってくる。またアザが増える。
おバカで可愛いなぁという愛おしさと、余分なことは一切せずにとっとと寝ろ!! という苛立ちがせめぎ合う。
「はやく! 歯ブラシ受け取って!」
「もう寝る時間過ぎてるんだけど!」
「おなかこわしてるんでしょ、服も早く着て!」
何を言っても、トカゲらに私の声が届かない。
トカゲ同士でじゃれ合い、けんかになり、チビトカゲが泣き喚き、仕方なく私は仲裁に入る。
デカトカゲが怒って雑に振り回した腕が私の顔面にヒットし、かけてた眼鏡が吹っ飛ぶ。
毎度、苛立ちが勝つ。
愛おしさは、負ける。
キイキイ怒りながら、なんとか寝室まで誘導し、絵本を読み、寝かしつけた。
*
子育ての醍醐味を、私はさらさらと指の間から落としてしまっていないだろうか。
時々あせる。不安になる。
疲れや怠惰さに負けて、ただやり過ごす日々。
YouTubeやゲームをさせておけば「かーちゃん、見て! 早く見て!」と言われる回数が六割ほど減るし、ケンカもマシになる。
ああずっと公園に行けてない。
一緒にクッキーや餃子を作るのも最近していない。
読んでやりたい本がまだ山のようにある。
数年して、自分に見向きもしなくなった子供らに気付き、私は後悔するのだろうか。
あの時もっともっと一緒に遊べばよかったと焦れるのだろうか。
西松屋で感じた淋しさがまた湧き上がる。
*
口を開けてぽかんと寝ている子らのほっぺに手をあてる。しっとりと柔らかい。極上の感触。
寝ている子はただただ愛おしい。
明日はからあげにしてあげよ! とか、スライム作りを一緒にやるか!とか、明日への意欲がみなぎってくる。
いつも翌日の夕方までにこの意欲がすり減ってしまうわけだが、明日はどうなるか。
明日朝の長男の行き渋りはどうなるか。
今を大事にしたいと思いつつ、もう眠るしかない今。
あとは明日の自分に明日の「今」を託します。
サポートいただいたら、飛び上がって喜びます。 いただいたお金はサポート、本の購入、noteのネタになる体験に使います! ちょっぴり息子とのおやつに使っちゃうかも。