見出し画像

採用されなかった写真取材企画

 暇に任せて、PCに一時保管してあるホルダーから過去の取材企画のようなものを覗いていたら、確か今年に入って某雑誌に提案したものが出てきた。送ったものの、何も反応がないまま。こちらもそれ以上突き詰めることもなく、そのままにしていた。自分はただの写真家。編集者でもなければディレクターでもないし、フリーのライターでもないので、それほどこだわりもない。第一こんな形で雑誌に企画を持ち込んでこともない。気まぐれな挑戦だった。カメラ雑誌なら形式は異なるがなんども編集部の意向に合わせ細かな記事の提案などはしてきたが、一般雑誌に縁があるわけでもなく、無謀というかお門違いであったのだろう。しかし、これが今読むと案外面白い企画なのだ。以下に「提案書」をコピーしてみたい。

レコードブーム

 昨年11月に東神田で写真展「あの頃の旅情」を開催した際、ギャラリー内にあるレコードプレーヤーで沢田研二の歌を一曲流しました。EPドーナツ盤に限らず、LPレコードも含め、最近はアナログであるはずのレコード盤が復活、若い人々の間で人気があるようです。しかしながら、かつてそれぞれの東京の街の商店街などにあったレコードショップもほとんどありません。一昨年だっと思いますが、亀戸の古い店も閉店。ここは新人歌手などが新曲キャンペーンなどに訪れる小さな舞台もあったほどの店でした。この店に限らず、演歌歌手などのポスターが店の前に貼られている風景はすでに遠い昔のイメージのようですが、まだかろうじて健在でもあります。(先日「新小岩」で確認) レコード文化や歌謡スナックの現在も面白そうです。  


東京ご当地ソングの面白さ

 昨年秋、東京のギャラリーを巡る「アートバス」に乗りました。いくつかのルートがあるのですが、その中の一つのコースに乗車すると、(企画は美術家だと思うのですが)バス内の「ラジオ」からDJが掛け合いで歌謡曲を流します。バスが走るその場所場所ごとの「ご当地ソング」です。これが面白かった。10年前に私が企画実施し、同じようにバス一台を借り切った「東京思ひ出散歩」 (ニッコールクラブ撮影ツアー)を彷彿とさせるものでした。アートパスのそれは、かなりローカルであまり知られていない歌謡曲を取りあげていました。「新小岩から亀戸へ」という歌など、初めて聴くものもありました。  
 そのDJの一人がムード歌謡歌手で芸人の「タブレット純」。最高でした。以下YouTubeです。タブレットさん、お会いしたことはないですが、書き手としても面白そうです。ポップでキッチュな東京ご当地ソング。  https://www.youtube.com/channel/UCKBxg3z6BXBhSjLSCaSTXDw
ムード歌謡、演歌、ボップス、フォーク、 GS(グループ・サウンズ)   それぞれのウンチクもいろいろな人に聞いてみたいですが、これらの「ジャンル」をすべて網羅するというのは難しく、歌謡曲という定義の問題も出てきます。ムード歌謡、ご当地ソング&歌謡曲 という括りでしょうか? そのあたりの専門的な話は、上記の「タブレット純」さんやその他ご専門の方の判断。

東京の風景(写真)と歌謡曲

 かつて「東京歌謡曲・写真史」といったタイトルで写真家飯田鉄さんとトークショーを行いました。昭和の東京を写した名作写真とその頃の歌謡曲を結びました。写真の背後に広がる時代性という点で歌謡曲は具体的なイメージを伝えています。
(「流行歌の流れる時代、東京の街と写真」についてはさらに具体的な写真作品や写真家の検証ができると良いでしょう)

歌謡曲の聞こえる街

 歌謡曲はかつて昭和時代によく街頭スピーカーから流れていました。著作権はどうしていたのか、また現在の有線放送はどうなっているのかわかりませんが、当時は街々で勝手に流していたのかもしれません。しかし、歳末など「福引」とともに歳時記的な役割を果たしていましたし、庶民にとっては明日への希望のような温かなイメージを持っていました。歌謡曲の聞こえる街は元気でした。元気になろうとしていたと思います。現在、コロナ禍ではこうしたお祭りなどでの歌手の街角ライブもなくなりましたし、前述のレコードショップ、歌謡スナックも風前の灯火かもしれません。しかし、「歌は世につれ、世は歌につれ」という名ゼリフがあるように、「歌」は時代を超えて私たちの街ぐらしにとって活力を育むものと思えます。東京の街散策のもう一つの手引きとして、歌謡曲を糸口に、ちょっとムーディな街の灯りに照らされてゆっくり歩いてみたいです!   


古くから様々な読者に支持されてきた「アサヒカメラ」も2020年休刊となり、カメラ(機材)はともかくとして、写真にまつわる話を書ける媒体が少なくなっています。写真は面白いですし、いいものです。撮る側として、あるいは見る側にもまわり、写真を考えていきたいと思っています。